195)廃倉庫での来襲-5(テロ殲滅戦③)

 所変わって、廃倉庫を見下ろす風に立っているビルの屋上に銃を構える伊藤が居た。


 その姿はまるで石の様に動かず、姿勢は膝を立てその上に腕を置いて膝射のポジションで狙撃姿勢を取りながら一心に暗視装置付の狙撃スコープを覗いていた。


 今回の作戦では伊藤はライフル用のゴム弾を使用しているが、通常弾に比べゴム弾は有効射程が短いため、対象の廃倉庫から、すぐ近くのビル屋上を狙撃ポイントに選定していた。




 伊藤は膝射のポジションで微動だにせず、完全な狙撃システムと化していた。そんな伊藤の元に志穂から小さな声で通信が入る。


 『いよー ダルマちゃん、地味にやっとる様だねー』


 「……嫌がらせか、メガネ……特に用が無いなら通信入れるな……集中が切れる」


 伊藤は殆ど姿勢を崩さず、志穂の通信をぞんざいに扱い、切ろうとしたが志穂は構わず続けた。


 『まぁ、聞きなよ……姉御から、次の段階に移るってさ。一瞬で終わるから楽にしていいぞー』


 「……玲人君の全標的殲滅攻撃か……ここから見れないのは残念だが……俺の事は気にするな……完全に作戦終了となるまで此処で観察を続ける」


 『……相変わらず、筋肉脳だな……まぁいいや、とにかくもうちょっと頑張んなー』


 志穂は伊藤の言葉に軽く呆れながら返して通信を斬った。伊藤は静かになったビル屋上で呟く。


 「……隻眼と言われるその戦い方……模擬戦では無く、実戦で見たかったが仕方ないか……」


 伊藤はそう呟きながらも、一切の油断開く狙撃スコープから目を逸らさず銃を構え狙撃姿勢を維持するのであった……  





  ◇   ◇   ◇





 一方の廃倉庫内は前原と沙希が放った催涙弾に寄る催涙ガスによって真国同盟のテロリスト達は涙を流しながら蹲(うずく)まり行動不能になっていた。しかし……


 “ダダダダダダダ!!”


 いきなり銃撃音がして玲人は発砲される。だが、いつもの様に障壁を展開し何の被害も無かった。


 催涙ガスの煙の中から現れたのは防毒マスクを着けてアサルトライフルを構えるテロリスト達だった。何処から出したのか防毒マスクを装備する事で、催涙ガスを無効化出来た様だ。

 

 また、催涙ガスは耐性が付いた人間には効果が薄い為か、何人かはマスクすら着けていない。マスクを着けていないテロリストの中に髭面のリーダーの男が居た。


 髭面のリーダーが玲人に向かって叫ぶ。


 「お前が隻眼、って奴か! 噂通り針を使うとはな……お前を殺せば箔が付きそうだ……此処で殺す!」


 そうして髭面の男はショットガンを持ち出した。ショットガンは軍の突入用の武器として用いられる事が多く、テロリストは使う事が少ない銃だ。


 しかし幅広い着弾範囲があり近距離戦最強と言われている銃だ。但し貫通力が無いのが欠点だが……


 「ククク……この得物は俺らは余り使えねぇが、コイツに入ってる弾は特別性だぞ……コイツなら、お前を殺せるだろう! 取敢えず死ね!!」


 髭面の男はショットガンを構え、玲人に向かって放った。


 “ドオン!”


 髭面の男がショットガンで放った弾丸は特別な銃弾でフレシェット弾だった。フレシェット弾は一般的に入ってるペレットと言う丸い弾の代わりにフレシェット(小型のダーツ状の弾)が内蔵されており、防弾チョッキすら貫く貫通力を持つ弾丸だ。


 一度に放たれた20発の小型のダーツ状の弾は広がって玲人の体を穿つ筈だが……放たれた全てのダーツ状の弾は空中で静止している。


 「まさか……あ、ありえねぇ……!」


 髭面のリーダーはまさか、フレシェット弾も無効化された事に驚いた。超強力な貫通力を持つダーツ状の弾を同時に20発放つ事の出来る、このフレシェット弾なら確実に玲人殺せると確信していたからだ。


 対する玲人は何の感傷も持たず、静かに右手を上げ、人差し指を軽くノックする様に動かした。


 “ギュン!!”


 静止していた20本のダーツ状の弾はショットガンより撃ち出された時以上の速度で飛び、髭面のリーダーや防毒マスクを着けたテロリスト達のアサルトライフルを一斉に破壊した。


 “ガキン!!” “ガガキキン!!”

 

 玲人により放たれたフレシェット(小型のダーツ状の弾)により、刃向って来たテロリスト達の武器は全て破壊された。次に玲人は静かに右腕を高く上げた。


 すると上げた右手の上に黒いモヤが集まり出し、あっという間に無数の黒い針が生み出された。玲人は模擬戦以降、自在に黒い針を意志力で簡単に生成する事が出来た為、もはやタングステンの針は不要だった。


 玲人の頭上に生成された無数の黒い針を見て髭面の男は自嘲気味に呟く。


 「……これが隻眼……ちくしょう……とんでもねェバケモンだ……!」


 玲人は男の呟きにも何の感傷も持たず、大量に生成し黒針を放った。


  “キュキュン!!”

 

 そんな風切音と共に恐るべき速さで黒針は放たれた


  “ビス!” “ビシシ!!”


 突き刺す様な音と共に黒針は廃倉庫内に居た全てのテロリスト達の両手足を確実に貫通した。催涙ガスで悶える者、防毒マスクを着け立ち上って来た者、そして髭面のリーダーの男も同じだった。


 「グアアァ!!」「ギャアア!!」

 「ウギャア!!」「ヒイイイ!!」


 廃倉庫内に一斉に悲鳴が響き渡るが、隻眼のマスクを被る玲人は態度にも、その仮面の下の表情も一切動揺を見せず、静かに佇んでいたのであった……



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