192)廃倉庫での来襲-2(そして巌は戦場へ)

 行き成りやって来た巨漢の男ドルジに、何故か頭を撫でられる小春……。



 不思議なデジャブ感に小春が戸惑う中、巨漢の男ドルジは頭を撫でるのを止めて、静かに尋ねた。


 「……気配からするに……お館様は此処に、居られぬのか?」


 「お館さま? お、お父さんの事かな? えーと……私の家には父は、その、居なくて……」


 「いや……父君の事では無い……。尊き“雛”で在られる少年の事だ……」



 一瞬、亡くなった父を思い悲しそうに話す小春を見て、ドルジは否定した。


 「ひな……妹の陽菜の事かな……? でも、少年って……玲人君の事?」


 「そう……その御方だ」


 

 ドルジが漏らす単語がいまいち分りにくい小春は、“少年”と言われた事で玲人の名を口にすると……ドルジは短く肯定した。


 「えーっと……玲人君は……その、お仕事……い、いや用事で……」


 「そうか……戦場(いくさば)に向かっておられるのか……流石、豪の者……。こうしてはおれぬ」


 (え? いくさば? ごうのもの? えーっと……)


 “小春ー、いくさばって……戦う場所の事だよ……アニメでやってた! それと“豪の者”は強い人の事だね! この大きい人もそうなのかな?“


 ドルジの言葉がイチイチ分らず困っていると、すかさず脳内に居る仁那が通訳してくれた。


 (……そうか……ローラ達も安中さんと関係が有るって……確か、早苗さんが言ってた様な……。それじゃ、この人もそうなのかな?)


 仁那の話を聞いて、小春は目の前に居るドルジが玲人の仕事である自衛軍関係者だと思い込んだ。



 そんな中、肝心のドルジは……。



 「……小春殿……名残惜しいが、この場は失礼させて頂く。お館様の戦場(いくさば)にて……御目覚めを手助けせねばならん。その為に万全を期したい故……御免」


 そう言ってドルジはニヤリと笑い、小春の元から去った。


 一人残された小春は……意味が分からず固まっていたが……何故か感じた懐かしさと共に……胸騒ぎも感じていたのだった。





  ◇   ◇   ◇





 一方、小春から離れて自衛軍の任務に就いていた玲人は特殊技能分隊の面々と共に、とある廃倉庫を強襲しようとしていた。


 

 時刻は夕暮れ……周りは暗くなり始めた頃だ。


 この廃倉庫周りの建築物は戦後長く続いた不況の為か、倒産した企業や、無人の工場が多く連なっていた。


 だからこそ……テロリストの隠れ家に成り得るのだが。


 自衛軍が掴んだ情報では、この大きな廃倉庫に真国同盟のメンバーが多数潜伏してるとの情報も入手していた。

 

 その為技官である小春を除いた特殊技能分隊における、この廃倉庫のテロ組織殲滅作戦が計画された。


  廃倉庫から距離を置いた道路上に、運送会社のロゴマークが描かれたウイングトラックが停車している。



  普通、こうしたトラックに積まれているのは、段ボール詰された部品や、商品と言った物が積み込まれているが、このトラックの場合は少々事情が異なっていた。



 このトラックの箱形の積荷スペースには、沢山の通信機器と、自衛軍の制服を着た二人の女性が居たからだ。


 また、トラックの内壁には一体の真白い女性型アンドロイドが固定されていた。


 女性の一人は坂井梨沙少尉でショートヘアーのクールな美人だ。彼女は特殊技能分隊の分隊長を務めている。


 もう一人の女性はポニーテールの小柄で眼鏡を掛けた大人しそうな女性の、垣内志保隊員だ。サイバー戦や無人兵器による情報収集や攻撃を得意としてる。



 二人が居る、このウイングトラックは巧妙に偽装された作戦指揮通信車であった。


 外見上は運送用トラックにしか見えないが、特殊装甲が施されて機関銃の銃弾位なら耐えれる構造だった。




 指揮通信車内の志穂が、坂井梨沙少尉に声を掛ける。


 「姉御ー 準備出来たよー」


 志穂の気の抜けた問いに対し、梨沙は特に注意する事も無く、指示を出す。


 「……分った志穂。“虫”のカメラから中の様子を見てくれ」


 梨沙が言う“虫”とは屋内での情報取集に用いられる虫型のMAV(超小型飛行体)の事で、羽虫と同じく人工筋肉により羽ばたく羽を持った超小型の監視用無人機だ。


 「りょーかい……お! カメラアングルばっちりだ! 冴えてるねー私……今、映像に出すよ!」


 そう言って志穂は偽装された指揮通信車車内のモニターに廃倉庫内の映像を映し出した。


 廃倉庫は広大で数百メートルの奥行きがある。長細い作りでトレーラーは搬入できる様に正面には大きなシャッターが設けられていた。


 廃倉庫内には、放置されて久しい木枠梱包された部品や、ボロボロのフォークリフト等が埃まみれで置かれていた。


 “虫”からの映像では、廃倉庫内には武装した男達が屯(たむろ)している。その数はざっと20名程度、手にしている銃器はアサルトライフルの様だ。

 

 真国同盟の十字の赤い極光を模したシンボルマークを身に着けている者も多数いる。その様子を見た梨沙は呟く。


 「……十字の赤い極光……真国同盟のシンボルだ……って事は一軍か……当たりだな……よし! 安中大佐に作戦実行許可を貰うわ」


 梨沙はそう言って駐屯地の作戦本部室に居る安中大佐に連絡を取る。


 「大佐、こちら現場の坂井です、状況的には当たりです。廃倉庫内部には真国同盟の構成員が約20名、アサルトを所持した状態で待機しています。恐らくは何らかのテロ準備中かと……大佐、殲滅作戦に移行して宜しいですか?」


 殲滅作戦とは自衛軍での定義では、対象を皆殺しにする事では無く、テロ組織に対して戦闘能力を喪失するほどの打撃を与える事を意味する。


 ちなみに安中と梨沙はプライベートでは恋人同志だが任務中は当然きっちりと線引きしていた。


 梨沙に殲滅作戦実行について問われた安中は静かに答える。


 『……こちら安中だ、状況については了解した……。周囲の安全性は既に確保済だ。殲滅戦実行を許可する。実行に関しては安全に配慮し速やかに効果的に行動してほしい。各位決められた役割を冷静に実行すれば何ら問題ない筈だ。各位の健闘を祈る。以上だ』


 安中の言葉を受け、梨沙は特殊技能分隊の面々に作戦開始の指示を出す。


 「お前達、聞いての通りだ。作戦通りきっちりやれば何の問題も無い! それでは殲滅作戦を実行する!」

 

 こうして、廃倉庫に潜伏する真国同盟のテロ組織に対する殲滅戦が開始された。



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