19章 巌の騎士

191)廃倉庫での来襲-1(巌は高級スイカと共に)

 ローラ達と友達になった日から数日が過ぎた。小春は夏休み中と言う事も有り自宅でノンビリしていた。


 丁度今日は玲人は何か自衛軍の任務が有るらしく石川家に来ていない。


 石川家に居るのは小春と妹の陽菜だけ……。祖母の絹江はいつもの様にカラオケに勤しんでいた。




 家には玲人が居ない……その事が何か寂しく、小春は自分の中の同居人に声を掛ける。



 (暇だねー……、そう思わない、仁那?)


 “まぁねー、シェアハウスに来る? 替わってあげようか?”


 小春は自分の魂と同化した仁那に話し掛けると、彼女は精神の奥底に作ったシェアハウスに誘った。



 其処は早苗が作った心の中の寄合場所みたいな所で、小春や早苗、仁那達が集まって他愛無い話をするような場だ。



 (いいよー、別に替わらなくても。それとも仁那、私と替わりたい?)


 “うーん、さっきまで替わって貰って陽菜ちゃんと一杯遊んだから……今は良いかな? お母さんどうする? アレ? お母さん?“



 脳内で小春に問われた仁那はもう一人の同居人(魂の)である早苗に呼び掛けたが返事が無い。



 (仁那……早苗さんがどうかしたの?)


 “さっきまでシェアハウスで話してたんだけど……、あー……寝ちゃってるよ……。お母さん、昨日夜遅かったみたいだからねー“


 (そう言えば、私達が眠った後……何か起きてたみたいけど?)


 “そうだよねー、この前も私と小春が寝ちゃった時……ずっと起きてたみたいだから”



 小春と仁那は脳内で早苗に付いて話し合う。この前も小春と仁那が急に眠たくなって、早苗に替わって貰った時が有った。


 その後から早苗は夜更かしする様になり……今日の様にシェアハウス内で寝落ちする事が多くなった。



 実の所は早苗が小春と仁那の意識を眠らせ、裏方として薫子やアリエッタと行動を共にしていた。


 早苗が小春達の意識を眠らせ、一人で行動するのは小春や仁那にマニオス復活の件で負担を掛けない為だ。

 

 その為、早苗は修一にも連絡を取り、マニオスを復活させようとするガリアや安中達12騎士長の動向について議論していた。


 修一もまた、早苗と同じく息子である玲人にはこの件は伏せていた。


 早苗や修一は、生前出来なかった“親として子供達を守る”と言う事を何とか守りたかったのだ。



 そんな訳で裏方に回った早苗は夜な夜な活動する様になり、平日は糸が切れた様に寝落ちするのであった。



 なお、早苗や小晴達は小春の肉体に同居する意識だけの存在であっても、元々現実に存在していた人間だった為か、何故か睡眠は必要となる様だった。



 “どうする、小春? お母さん、無理やり起こす?”


 (まぁ、寝ちゃってるなら仕方ないよね……。いいよ、そのまま寝かせて上げ……)



 “ピンポーン!”



 脳内で仁那と小春が話し合っている間にチャイムが鳴った。誰かが石川家を訪ねた様だ。小春が出迎えようと立ち上がる前に、陽菜が応対していた。



 物怖じしない陽菜は迷わず玄関のドアを開けて……。



 「ヒイィィィ!!」


 突如子供らしからぬ悲鳴を上げた。



 「ど、どうしたの!? 陽菜!?」



 悲鳴を上げた陽菜を案じ、小春が玄関に飛び出す。すると其処には……。


 

 この時代には場違いな濃い緑色のローブを羽織った大男が突っ立ていた。その男は身長が軽く2mを超えており、見るからに体格の良い男だ。



 訪れた巨漢の男に出迎えた陽菜は驚いて悲鳴を上げて腰を抜かしていた。


 ローブの下には銀色の胸当てが見えているが、ローブは被っておらず素顔を見せていた。その素顔は短い黒髪で体格に似合わず顔は優しげだった。


 巨漢の男は左手に、特に重さを感じていない様だが黒っぽい大きな球を鷲掴みしている。



 全く予想外の来客に小春も陽菜同様悲鳴を上げたかったが、座り込んでいる妹の為にも勇気を振り絞って巨漢の男に対応した。



 ちなみに小春の脳内では仁那が心配そうに“替わろうか、小春?”と声掛けしてくれたが、妹の事を見捨てられ無かった小春は自分が対応すると、優しく断った。



 「ああああ、あの……どどど、ど、どちら様……」


 恐怖と焦りでドモリ捲る小春の様子に、巨漢の男は静かに話し出す。


 「うむ……我が名はドルジ……。そなたが……小春殿か……?」


 「え? そ、その小春は私ですけど……?」


 ドルジと名乗った巨漢の男に尋ねられた小春は、戸惑いながら名乗りを挙げた。


 

 するとドルジは、右手をぬぅっと伸ばして……。“ガシガシ!”


 「!? え、えーっと……これは……ど、どう言う……?」


 「お、お姉ちゃん!?」


 ドルジは目の前の少女が小春と分った途端、右手を伸ばして彼女の頭を乱暴に撫で始めた。


 突如小春の頭を撫でるドルジに、陽菜が心配して声を上げる。



 心配そうな陽菜の様子を察知したのか、ドルジは小春の頭から手を引いて呟く。


 「……任務前に……自分の目で、改めて無事を確認したかった故に……許せ……。それと此れは土産だ」

 

 ドルジはへたり込んでいる陽菜に、左手で掴んでいた黒っぽい大きな球を渡す。



 「こ、これは!? 最高級スイカと名高い、北海道産のアレでは!? こんな高価なモノを!」


 ドルジから渡されたのが有名な最高級スイカと分り、現金な陽菜はあからさまに態度を変えて小躍りしながらキッチンへと引っ込む。スイカを切って冷やす為だろう。



 「……それはアジトでシャリアが持たせたモノ……喜んで頂き僥倖……」


 最高級スイカを貰って喜んだ陽菜を見て、静かに話すドルジ。



 小春はドルジが話した“シャリア”と言う名に聞き覚えが有った。



 (……アジト? 悪い人なのかな……でも、確かシャリアって……ファミレスでローラ達を迎えに来た人だよね……。それに良く見れば……この人の服装って、あの時のローラ達にそっくりだ……)



 目の前のドルジに、最近仲良くなった友人の共通点を見つけた小春は……躊躇いがちに彼に問うた。


 「あ、あのー? も、もしかして……ローラ達と……お知り合い、ですか?」


 「うむ……アレらが童の……時よりの付き合い……。そなたと同様に……」


 小春の問いに片言で返すドルジ。そう言いながら何かを思い出したのか……また、ごつい右手で小春の頭をガシガシと撫でる。


 (……何だろう……、ずっと以前も……この人に、頭撫でて貰った様な……)


 “そうだね……私もこの大きな人……知ってる気がする……”


 ドルジに頭を撫でて貰う内に、遥かな過去に同じ様な感覚が有った事を思い出す。


 すると、仁那も同じ様な事を脳内から伝えてきたのだった。



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