188話 眠る民達

 「……ふぅ……ちょっとびっくりしちゃったわ」


 「早苗、ゴメンなさい……皆嬉しくて仕方無かったと思うの。貴女の中に眠るエニと会えたのは本当に……本当に久しぶりだったから……」



 透明な少年少女達に取り囲まれた早苗だったが……興奮した彼らに順番に話し掛けられ、再会の喜びに涙を流された。


彼らを諌めるアリエッタの言葉も中々通らず……彼等が落ち着くまで早苗は解放されなかった。




 そしてアリエッタに連れられ半ば無理やり違う場所へと転移して来たのだった。




 「フフフ、珍しく早苗が狼狽える姿を見れて面白かったわ」


 「……行き成り15人に囲まれたら誰だってビックリするんじゃない? 所で……今度は何処に連れて来られたのかしら」



 からかう様な薫子の口ぶりに、早苗は文句を言いながら周りを見渡して問う。



 そこは一面がガラス状のシリンダーが一面に立ち並ぶ巨大な空間だ。



 その空間は幅広く奥が広すぎてどこまで続くのか分からないほど長い回廊の様な空間だった。


 ガラス状のシリンダーはその回廊に所狭しと並べられ、一体どれ程の数が有るのか分からない程だ。


 早苗がシリンダーの一つに近づいて見ると……、その中には目を瞑った美しい女性が入っていた。


 顔色が良く肌も綺麗な事より、中の女性は死んではいない様だ。


 早苗が立ち並ぶ他のシリンダーを見ると、その全てに人影が見える。



 「何……コレ……? 人が……沢山……」


 「此処は、寝所です……。アガルティアの民が眠っている……。先程、言ったマニオス様の緊急凍結の結果……この国の民、全ては一斉に凍結睡眠されました。

 着の身着のまま、眠ってしまった全ての民を……中央制御装置に繋がった、私達16人が……レリウスや能力を駆使して此処を改築し大きく広げた後……全ての民を運んで……皆を安置させたの……」


 「……そう……なの……。私達は一人じゃ無いのね……」



 アリエッタの説明に、早苗は大量に立ち並ぶアーガルムが眠るシリンダーを見つめ優しく呟いた。


彼女の中に居る小春達が感じているのだろうか、暖かい気持ちで胸が一杯になり……静かに早苗は涙を流した。


そんな早苗に薫子とアリエッタは静かに寄り添うのだった。



寝所を見せた薫子は、早苗に別な場所を案内すると誘ったが……、自分の考えを整理したかった早苗は此れを断った。


その為、薫子は早苗を連れ、アリエッタと共に最初に訪れた城の大広間に転移したのだった。




  ◇   ◇   ◇




 3万人のアーガルムが眠る回廊から大広間に戻った薫子は早苗にこの城について問うた。



 「早苗……どうかしら、これが貴女の城、アガルティアよ。人類より遥かな高度な文明を持ち……それでいて此処に居るアーガルム達は、一人一人が圧倒的な力を有している。其れが私達」


 「ええ、その点は私も良く理解した……。こんな巨大な城を浮かせる事が出来る存在……。そんなアガルティアと人類がマトモに戦い合った時が有ったなんて……改めて考えると信じ難いわ」


 「早苗の言う通り……人類は何の力も無く弱い存在だった。だからこそ人類は……私達の祖を“召喚”し……私達アーガルムの英知を受けて繁栄した。それだけに留まらず、人類は……私達アーガルムの力を独占しようとした。そして……人類は恐ろしい力を使った。私達アーガルムが思い付きもしない方法を使ってね」


 早苗いに薫子は小さな溜息をついて淡々と話した。


 「……さっき貴女が道すがら教えて貰った話ね……」


 「……あの時、人類は私達の子供を捉えて兵器にした。つまり……私達の子供を人質にした挙句、私達の能力を使って……戦争を始めたのよ」


 早苗の呟きに、薫子は感情を消し去った顔で頷き話し出す。



 「私達アーガルムと人類の戦いは終わっていない。遥か過去に起こった人類と私達アーガルムとの世界戦争……。あの酷い戦いは終わったけど……人類と、私達との溝は決定的に断たれてしまった。

 このアガルティア城には3万のアガルティア族が眠っている。しかし、その殆どは人類を恨み、憎んでいる……。それ程かつての戦いで人類が行なった愚行は酷く残酷なモノだった。

 その結果……マールドムでありながらアーガルムの為に尽くして来たエニを殺してしまった。それが切っ掛けで……静かで穏やかだった私達の王を修羅に染め上げる事になったの……。

 早苗、貴女も知っている通り……半年先か、一か月先か……そう遠くない未来に、私達の王マニオス様が覚醒する……。マニオス様が真に御目覚めに為れば……人類に未来は無い」


 「……模擬戦でも、ちょっとだけ目を覚ましたわね、そのマニオスって奴……。行き成り廃墟をふっ飛ばしたし、会話なんて通じなさそうなのは分った……。マールドム、いえ人類に強い憎しみを持っているのは、強く感じ取ったわ」


 薫子に言葉に早苗は相槌を打つ。模擬戦で中途半端に覚醒したマニオスは、行き成り力を発動して廃墟を5キロに渡り押し潰した。


 その後で仁那を眠らせ、周りに居た前原達を呪詛で麻痺させた。その行動には一切の躊躇も無く、覚醒と同時にマニオスは人類を滅ぼそうとするだろう。



 「そう……玲君の中に居るマニオス様と、貴女達と共に居るマセス様は……互いを愛し合っておられたけど……人類に対する考えは真逆なの。どちらもエニの事が起点なのだけど……。

 マニオス様は人類の殲滅を望まれ……マセス様は貴女達を救おうとされる……。長い時を経ても其処は変わらない。

 事実、過去の大戦で私達と拮抗する程栄えていた人類の文明を滅ぼしたのはマニオス様御一人の御業だった。かつてマニオス様に唯一並ぶ存在だったマセス様も……マニオス様を救う為、今はその力を無くしマニオス様には、もはや誰にも及ばないの……」


 早苗の言葉に、薫子は悲しそうな声で呟くのだった。


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