189話 妻として、母として

 マニオスを思い、悲しそうに薫子は呟く。対して早苗は気になっていた事を問う。


 「確かにマセスも……そんな事を言ってたわね。所で……マニオスって奴が復活すれば……玲君や修君はどうなるの……?」


 「貴女と同じです、早苗。……マニオス様と、その転生体である“雛”の玲人様……、そして元マールドムの修一様。同じ肉体に、貴女と同じ様に同居する事になるでしょう。

 長く転生を繰り返す内に、時間を掛けて完全に一つになるでしょうけど……。

 しかし、同じ肉体に同居するマニオス様ですが……、貴女が、たった今……小春や仁那に行っている様に、互いの自我に干渉し眠らせる事も可能でしょう。

 そうなった場合……肉体を支配するのはマニオス様となると予想されます。そして……その後は一方的なマールドムの殲滅が始まるでしょう」


 「何よ……そんな事許される訳無い。玲君の過去世か何か知らないけど……闇落ちした王様なんかに、私の息子と夫を汚させる訳には行かないわ……! 上等よ、やってやる!」



 薫子の代わりに答えたアリエッタの言葉を受け、早苗は力強く宣言した。



 「絶対的な力を持つマニオス様相手に、そんな啖呵を切れるのは貴女位よ……、早苗。……貴女の問いには全て答えた。その上で……私は早苗の考えに従うわ。指示を頂戴……」



 早苗の宣言を受け、薫子は笑いながら自らの考えを示した。薫子は早苗の疑問に全て答え、そして見せてくれた。後は早苗達がどうするかだ。



 「薫子姉様、どうも有難う……今までの事は全て理解した……。此れからの事で、ちょっと聞きたいんだけど……私達小春組はマセスと同化している。

 対して安中さん達はマニオス側の立場……。マニオスを止めようとする私達と、安中さん達とは敵対する事になるのかしら?」


 「それは有り得ません、早苗。このアガルティアに眠る凡そ3万のアーガルム族……、そして城の全てを司る私達16人。そして……12騎士長を始めとする騎士達……。

 その全てが、早苗……貴女達を守る味方です。もし貴女達を害する存在が居れば、相手が例え12騎士長であろうが……私が、そして……私達アガルティア国民全てが、立ち塞がります」

 


 問うた早苗に対し、アリエッタはきっぱりと言い切った。



 「早苗……貴女はこのアガルティア国の王妃であるマセス様であり……マセス様の娘であるエニでも有ります。そんな貴女をこの国の者達が害なす筈は断じて居ないわ。

 だけど……人類は別よ……。過去から生きる我々アーガルムからすれば、人類は明確な敵……。王であるマニオス様が人類の殲滅を望めば……配下であるアガルティア国の者達は、それに従うでしょう。いや、正確にはマニオス様は誰の手も汚す事は望まない。

 かつての大戦でも……そうだった様に、あの御方は御一人で人類を殲滅しようとするでしょう。そして騎士達はそんなあの方を支える為、行動を共にする」



 「成程……そして、小春ちゃん、仁那ちゃんは……そんな事許せない。許せる筈が無い。私ですら……、でも小春ちゃんの友達や、陽菜ちゃんや甥の大樹を見殺しなんて出来ない。

 玲君達がマニオスに取り込まれて人類を滅ぼす破壊神になるって言うなら……絶対止めて見せるわ。それが家族ってモンでしょ。私達の決意は、この前の模擬戦で見せた通り……。

 私達はマニオスから人類を守る為、頑張る心算だけど……薫子姉様はどうするの?」



 アリエッタに続いた薫子の言葉を受けた早苗は、自分達の決意を示した上で彼女に問う。すると薫子は跪いて早苗に誓う。



 「私は……1万と3000年前より、貴女と同化したマセス様に仕える騎士です。だから早苗が決めた道こそ……我が道です。貴女がマニオス様に立ち向かうと言うならば……無論、私も従います。あの時と何も変わらず……」


 「私も、僭越ながら早苗達の為に全面的に協力します」


 跪いて誓う早苗と、協力するのが当たり前と言った様子のアリエッタを見ながら早苗が気になった事を問う。


 「大袈裟ねー、薫子姉様は……。そんな重い感じで動く心算無いんだけど。でも、薫子姉様もアリエッタも有難う……。私達だけじゃ大した事出来ないからね、助かるわ。

 ……だけど貴女達、立場的に拙いんじゃないの……? 相手は一応、この国の王様なんでしょう?」


 「……元よりこの私は……マニオス様が国是として定めたマールドム殲滅に対し……叛意したマセス様と、この国を飛び出した身。

 だけど……マニオス様は、そんな私を責める所か……労いのお言葉を掛けて頂いた……。あの御方に取って最も大切なのは……マセス様とエニなの。だから私は早苗、貴女に仕える事は……あの御方に報いる事だと思っています」


 早苗の言葉に、薫子は跪いたまま答える、横に居るアリエッタも何度も頷くのであった。


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