185話 レリウス

 城門を守護していたレリウスが道を空け、城門へ進む薫子。



 扉の奥は分厚い城壁のトンネルを形成している。トンネルは高さも有り、早苗が普段目にする様なコンクリート製とは異なる。


 光る膜の裏側から出口まで形成されたトンネルの材質は白い金属質であり、鏡面加工をした様な、美しい仕上がりだった。


 何処にも継ぎ目は無く、人の手で加工した様子は見られない。


 先に進む薫子の背中と、不可思議なトンネルを見比べた後……。そして自分を見下ろす門番役のレリスを再度見あげた。


 自律稼働するレリウスは二体とも頭部を早苗の方に向け、揺らめく一つ目の様な模様で自分を見ている様だ。


 巨大な門に並び立つ美しいレリウスは、巨大で有りながら磨き上げられた芸術品の様な精巧さを持つ存在だ。


 唯の彫像ならいざ知らず、不思議な光を湛えながら目の前の門番は、自立した動きを見せる機械だ。


 早苗が模擬戦で見たエクソスケルトンは人類が最先端技術の粋を集めて開発したモノだが……関節や各種金属チューブやアクチュエーターが犇めく武骨な姿だ。


 しかしレリウスは機械と言うよりも生物の様な精緻さを持つ存在だった。



 早苗がレリウスの姿に見入られていると、横に居たアリエッタが笑顔で話し掛けた。


 「此処に居るレリウスに随分と興味を持たれた様ですね……。ですが、ディナ卿は先行しております……。そろそろ前に進みませんか?」


 透明な少女、アリエッタに促され早苗は頷いて薫子の後を追ったのだった。



 アリエッタに促され、長い城壁のトンネルをくぐった早苗。トンネルを抜けた先には広大な湖と緑が広がっていた。


 「……ここは森……? 中央の城があんなに遠く……」


 長い城壁を抜けた後、広大な森が広がっていると思わなかった早苗は、進むべき道が予想より遥かに遠い事に驚きの声を漏らした。


 「……巨大でしょう? この城塞都市は直径が約10km程になるわ……。今でこそ時空の海に浮かんでいるけど……13000年前では、この城は地球に有った。さっき説明した通りね。

 さて……このままノンビリ歩いて森を抜けるのも楽しそうだけど……早苗も疲れるでしょう。アリエッタ、城へと空間を繋いで貰えないかしら?」


 驚いた顔で呟く早苗に、説明した薫子は横に居るアリエッタに指示する。


 「……ディナ卿、早苗は随分とレリウスに興味を持たれていました。折角ですので、貴女のレリウスで運ばれては如何でしょう?」


 「確かに……空間転移したのでは、この都市の全体像も掴めないし……分ったわ」


 アリエッタの言葉に納得した様子の薫子は右手を挙げて叫ぶ


 「我がレリウスよ! 姿を示せ!」



 すると――。



 “ヴォン!!”


 ブラウン管を付ける様な音が響き……突如早苗の頭上が暗くなった。


 彼女が空を見上げると……、巨大な人型の何かが浮かんでいた。


 「……アレは……?」


 「この機体は、ディナ卿……いえ薫子様が保有するレリウス……搭乗型のレリウスです。強力な意志顕現力を持つアーガルムが使役する事で……自身の能力を大幅に増強し……強力な戦力を得る兵器です。

 強化すると言う目的では身に纏う鎧と同じですが……強大過ぎるマニオス様の巨像……その格差を少しでも縮める為に比較的最近に考案されたのです。

 強力過ぎる為……対人戦用の鎧と違い、選ばれた騎士に……然るべき時にしか使役する事を許されていません……」


 早苗の頭上に突然現れた人型のロボット? を見てアリエッタは淡々と説明する。


 頭上に現れた薫子のレリウスと呼ばれる“ソレ”は、全高がざっと目測で12m程の大きさだ。



 門番役のレリウス同様、銀色の体躯は継ぎ目が無く、細身だが女性の様な曲線を描いている。


 ボディ全体には幾何学模様の様な赤い光が幾筋も走り、先程見たレリウスとは明らかに違う何かを感じさせられる。


 腰にはスカート状の装甲板が固定されず、浮かんだ状態で纏っている。肩と背後にも細長い装甲板がフヨフヨと浮かんでいた。


 頭部は鎧兜の様に武骨な造りだが、小振りで流線型であり何処と無く女性らしさを感じる構造だ。


 そして顔面は門番のレリウス同様、一つ目を示す様な光の靄が輝いていた。



 「……これで都市部に向かいましょう。まぁ、あっという間に着いちゃうけどね……」


 空に浮かぶ巨大なレリウスを眺める早苗に、薫子は静かに答えた。


 そして薫子は重力を受けていないかの如く、ヒラリと舞い上がり自らのレリウスの肩に乗る。


 すると彼女のレリウスは眠りから覚めたかの様に、体中の赤い光が一斉に輝く。そして静かに地面に降り立ち、腰を曲げて早苗の前に両手を差し出した。


 “ズズン”


 「……乗れって事?」


 目の前に降り立った巨大な彫像の様なレリウスが、自分に両手を向けている姿に早苗は呟く。


 「……そのままじっとしていてね……」


 “ブウウン!”


 薫子の言葉に反応するかの如く、差し出されたレリウスの両手から白い光が広がり早苗はその光に包まれた。


 光が完全に早苗を覆った事を確認した薫子は、レリウスの肩に立ったままで早苗に話した。


 「……このまま城へ向かうわ……。折角だから空からの風景を楽しんで」


 “ヒイイイン!”


 薫子の言葉と同時に、甲高い音と共にレリウスが浮かび上がる。


 両手は早苗を覆う光の球を掴む様に備えている。アリエッタは光に包まれた早苗の横に浮かんだ。



 そして次の瞬間――



 薫子が駆るレリウスは急上昇し、凄まじいスピードでアガルティアの中心に聳える城へ向かって飛び立った。



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