184話 アーガルムの歴史

 薫子とアリエッタにより、アガルティア城に招かれた早苗。そこで歩きながら、薫子からアーガルム族とこの城について聞かされる。




 ――かつてマールドム(人類)とアーガルムと言う種族が共存していた事。


 やがて二つの種族は争う様になった事。


 その後、アーガルムの中で人類を擁護する者達と絶滅させようとする者達で互いに争う様になった事。


 長い戦いの末、アーガルム達は次第にその数を減らした事。


 戦いの中、マールドムの孤児だったエニをマセスが拾い、マニオスと共に養女として深く慈しみながら育てた事。


 そのエニがアリエッタ達を庇ってマールドムに虐殺された事……。


 エニの死により、怒り狂ったマニオスがマールドムを殲滅し始め、マセスがそれを止めようと立ち塞がり……、二人が戦い合う様になった事……。

 



 そして最後の戦いで……最強の存在であるマニオス(玲人の前世)とマセス(仁那の前世)が戦い合い、アーガルム族は滅んだ事を話した。




 「……マニオス様とマセス様の戦いの後……図らずも死に至りそうになったマセス様を守る為……マニオス様はマセス様と共に封印されたの。

 私や……他の配下の者達も共に封印される事を望みました。アリエッタや生き残った者達はアガルティアの城塞都市毎……凍結された上で時空の狭間に飛ばされ、長い長い時を経たのです」


 「…………」


 薫子の話を聞いていた早苗は、立ち止まって言葉が出ず……ただ静かに涙を流していた。


 早苗自身が涙を流しているのではない。自分の奥底で眠るエニだった小春やマセスだった仁那が泣いているのだと理解した。



 もはや自分自身となった彼女達が泣いているのだと。



 早苗は自分の中に小春や仁那が居る事が誇らしく……ただ愛おしかった……。



 泣いている早苗を、横に居た薫子はそっと彼女の背を撫でて寄り添い、アリエッタは涙を湛え二人を見つめていた。



 どれ程そうしていたか分らない……。短く無い時間泣いていた早苗は漸く泣き止み……そして薫子が話した事は全て事実で有る事を理解した。



 「……有難う、薫子姉様……貴女は私に、いえ私達に真実を教えてくれた。漸くマセスが言ってた事や、安中さんのお伽噺の事が繋がったわ……」


 早苗は今迄断片的に得ていた情報に、薫子の話を聞いて全てを理解し、涙で赤い目をしながら微笑んで答えた。

 

 「話すのが遅くなってゴメンなさい、早苗……。私もやっと本当の事を伝えられて安堵しているわ。所で……どうする? このまま貴女の城、アガルティアを見せたいけど……、一旦戻る?」


 「いいえ……薫子姉様。このまま、全てを知って置きたい……。それで私が、私達がどうするべきか見つめ直したいの……」


 「……分った……それじゃ、アガルティアの城に案内するわ……」



 

 そう言った薫子は、早苗の手を引き歩き出した。そして彼女は、薫子と共にアガルティアの城下町に入ると言う正門の前に立った。



 その城下町を取囲む城壁……。その城壁は巨大なお椀の様な形状でありながら精緻な作りを見せる城を取囲むそれは、高さが百メートル近く有り、近くで見ると圧倒的な存在感が有った。


 城壁の作りも継ぎ目のない白い陶器の様な材質で、鋳造されて建造されたかの様だった。



 城壁から城下町に入る門も高さ20M程も有る大きさで、アーチ状の門は淵が白く輝いており膜の様な扉を形成していた。


 更に不可思議だったのは門を守る大きな彫像だ。その体高は10m程だろうか、細身の彫像が二体、城門の脇に左右に設けられた台座の上に立っている。



 白く光り輝く銀製の彫像は円筒形の頭に、一つ目の様な模様がモヤの様に光輝き浮かんでいた。


 その体は騎士鎧の様な装甲を纏っているが滑らかで継ぎ目が無く僅かな関節の隙間からは青い光が覗いている。


 両手甲には白い光を絡み付いた剣が剥き出しで装備されている。巨大な彫像は2体とも、装備した剣を構えて臨戦態勢で薫子達を迎えていた。



 それは、今にも飛び掛かってきそうな体勢だった。



 この2体の巨大な彫像は唯の彫像かと思えば、薫子や早苗の動きに対し頭部を動かして行動を逐一監視して居る様だ。



 「動いてる……。ロボットって事? 模擬戦で見たエクソスケルトンなんかとは比べ物にならない……巨大だけど……何て精巧で美しい構造……」


 「……門番役のレリウスよ。……貴女の世界風に言うならば自律稼働する人型の兵器って所ね。


 私達が直接乗り込んで能力を増強するタイプのレリウスも有るけど……此処に居るレリウスは自律してアガルティアの門を守護しているわ。


 自律稼働型のレリウスは様々な種類や役割を持ってるの。まぁ、それ程珍しいモノでも無いし……

さぁ……門をくぐって、都市の中に入りましょうか? レリウス……此処を通して頂戴……」


 “拝承しました、ディナ卿……“


 薫子の言葉に反応した巨大な門番のレリウスは、言葉を発して応えた。但しその言葉は音声では無く直接脳内に響いた。


 薫子の言葉に従った様に、門番を務める巨大な自律兵器レリウスは、二体とも動きを同じくして白く光らせていた両手の剣を下げ、警戒態勢を解いた。


 それと反応する様に、光る膜の様な扉が独りでに消えた。 薫子は先に開いた巨大な扉の奥に進むのだった。



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