183話 透明な少女との再会

 薫子の呼掛けで虚空から突如現れた透明な少女。彼女は黄金色の瞳を持ち、真白い肌に髪型はドールバンクのウエーブが掛かった銀色の髪を靡かせていた。


 しかし、この美しい少女は投影された映像の様に透けて背後が見えており、実体が無い様だ。


 「この子……姿が透けている……?」


 「初めまして、早苗。私はアリエッタ……アガルティアを守る、守り人が一人です……そんな事より……あ、貴方の……」


 早苗の前に現れた透明な少女アリエッタは、俯き何故かソワソワと落ち着かない様子だ。



 何かを我慢している様に見える。その様子を不思議に思った早苗がアリエッタに声を掛ける。


 「……貴方の、何……?」


 「…………」


 アリエッタは早苗の問いに答えず、もう我慢ならないと言った様子で早苗に抱き着く。しかし実体の無い、少女の体は早苗に触れる事は出来ない。


 だがアリエッタは構わず、早苗に抱き着き、涙を流し続けた。



 突然のアリエッタの抱擁に驚いた早苗は彼女に声を掛けるが……。



 「ちょ、ちょっと如何したの貴方……いきなり……え?……」


 早苗はアリエッタに声を掛けて驚いた。その理由は、早苗が自分でも気が付かずにまた、涙を流している事に気が付いたからだ。



 そして……早苗は、誰に言われた訳でも無く、抱き着いている実体の無いアリエッタの頭を自然な様子で撫で始めた……。


 何故だか分らないが早苗は嬉しくて愛おしくて堪らず、ただ、静かに涙を流しながらアリエッタの頭を撫で続けていた……。



 そんな二人の様子を見守っていた薫子が、静かに早苗に声を掛けた。


 「……早苗……彼女を紹介するわ……彼女はアリエッタ……。エニの、いえ小春ちゃんの親友だった子よ。エニはマセス様の養女でアガルティアの皆に愛されていた。……そしてエニは……アリエッタ達を庇って死んだの……」



 薫子の言葉を涙ながらに聞いていた早苗は誰に聞かせるでも無く呟いた。


 「……そうだったの……そうか……私達は……貴女に会いたかったのね……ずっと……」



 「……わ、私も! ……ずっと! ……エニと! ……マセス様と! ……う、うう……うぐ、うあああ!!」



 アリエッタは堪えきれず早苗に抱き着きながら号泣した。


 早苗も、理由は分らないが今日初めて会った、この透明な少女がどうしようもなく愛おしく思え、ハラハラと涙を零しながら頭を撫で続けた。



 早苗は実体の無いアリエッタに触れる事は出来なかったが、そんな事等どうでも良く、ただ……彼女が傍に居るだけで良かった……。



 どれくらい、二人はそうしていたか分らなかったが、すっとアリエッタの方から早苗より離れて、涙を湛えた美しい笑顔で早苗に話した。


 「……今日の所は……此れで我慢します……私ばっかり狡いって、他の子達に怒られるから……早苗……私と一緒にアガルティアへ……」


 そう言って、アリエッタは右手を差し出し早苗の手に手に触れた。


 早苗は掴む事の出来ないその、美しく小さな白い手に自分の左手を重ね、アリエッタに話し掛けた。



 「ええと……アリエッタで良かったのかしら……。アガル……ティア……って確かアーガルム族の国の事よね? そこに行くって事? フィラデルフィアじゃ無く?」


 「フフフ、フィラデルフィアには後日、私が行くわ。でも……今は貴女を本当の故郷に案内したいの。……そう、アガルティアは私達が住まう城塞都市……。其処へ早苗を案内するわ……。正に女王の帰還よ」



 早苗の問いにアリエッタでは無く薫子が答えた。薫子の言葉に合わせる様にアリエッタが両手をそっと広げると……暗い部屋に光り輝く輪が現れた。



 「……さぁ、早苗……このゲートを通って下さい……」


 「大丈夫よ……何も心配する事は無いわ。私が先に行くから、早苗もついて来て」



 アリエッタに促された早苗の背後から薫子が声を掛け、率先してアリエッタが現した光の輪の中に入って行った。


 戸惑いながら早苗が横に居るアリエッタを見遣ると美しい顏で微笑んでいる。早苗は、薫子に続いて自ら光の輪へと進むのであった。




  ◇   ◇   ◇




 光の輪を通り抜けると、その先では……世界が一変し信じられない光景が広がっていた。


 早苗は天高く伸びる塔が立つ巨大な寺院の様な城の前に居る。そして空を見上げれば、様々な色の光が輝き、空模様が色合いを変えて輝いている。


 空は様々な色の光が輝き、夕日や青空の様な空模様が様々に色合いを変えて輝いていた。


 城の外周は、巨大で高い城壁がぐるりと都市を囲んでおり、城の四隅には塔を中心に4本の塔が均等に設置されている。


巨大な城や不可思議な空、城下町をグルリと取囲む圧倒的に巨大で精緻な構造の城壁を見ながら早苗は素直に感嘆し呟く。



 「……これが……アガルティア……本当に、凄いわ……!」


 「……流石の早苗でも驚いて貰えたようね。折角だから場所を変えましょう。歩きながら貴女にはこの城と……私達について説明するわ」


 薫子は早苗を連れて巨大な城に向かって歩き出す。早苗に城下町を見せる心算らしい。



 歩きながら、薫子は早苗に自分達アーガルムに関してと、このアガルティアに関して話すのだった。


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