182話 始まりの場所

「……此処は……? 確か……この場所って……」

 

 早苗が薫子と共に転移してきた場所は……、早苗に取って何処か見覚えが有る場所だった。


 其処は殺風景な円形の造りの大部屋であり、部屋の中心には輝く様な白さの巨大な台座がが置かれている。


 その台座の周りには幅1mはある六角形の真黒な黒曜石の様な材質の太い柱が6本取囲む様に円状に並んでいた。


 6本の柱には忙しく走る回る線上の光が明滅していた。


 そうーー此処は、小春と仁那が同化して……そして全てが始まった場所。タテアナ基地の最下層だ。



 「思い出した? 此処は終わりにして、始まりの場所……。本当の意味の聖域……。正しく此処で、マセス様の転生体である仁那ちゃんを小春ちゃんが救い……全てが一つの存在となった場所……。早苗、貴女が新しく生まれた場所でも有る」


 早苗の問いに答える代わりに薫子は目に涙を溜めて語る。


 「そう……だったわね……。そう言えば、初めて目覚めた私は、薫子姉様……貴女をコードでグルグル巻きにしちゃったわ。あの時、ワザとされるがままだったのね」


 「フフフ……そんな事も有ったね。確かに、私はどうとでも出来た。だけど……しなかったのは、貴女や小春ちゃん達の怒りを受ける必要が有ったから……。仁那ちゃんの為とは言え、好き放題して来た私は罰を受ける理由が有った……。本当にゴメンなさい」


 当時を思い出して呟く早苗に対し、薫子は真摯に謝る。



 「薫子姉様、最初から教えて……。貴女や安中さんは……一体何者なの? 何が目的で私達の横に居るの? 私は先ず、最初それを聞かなくちゃならない」


 「ええ、説明するわ。最初は私の事ね……。ここで、過去の私……薫子が死んだ理由を話すわ。生前の薫子の記憶が私に有るから……。あの時の私は、大御門家に居たの。剛三の怒りが面倒でね。生前の安中さんも同じ様に大御門家に居たみたいね。


 私はあの時、大御門家に居たけど剛三が嫌いだったから部屋から出ずに居た所に……あの爆発が……。そして以前の薫子は死んで、その器たる肉体を本当の私が再生し転生して今の私になった。


 その後の事は貴女も知ってる通り……仁那ちゃんとして生まれ変わったマセス様を何とか助けようと……色んな方法を使った。アーガルムの技術を適用したけど、それでも足りずマールドムの技術も当てにしたりね……。最終的にはエニだった小春ちゃんが全てを助けてくれたけど」


 「本当の私……? その、貴女はやっぱり……私達や玲君達と同じアーガルムなのね」


 「ええ、本当の私はアガルティア国の12騎士が一人ディナよ。13000年前、マニオス様に敵対し、マセス様と共にマールドム……いえ人類を守る為に戦った……。でも本音は人類なんかどうでも良かった。私はただ、マセス様をお守りしたかっただけ」


 早苗の問いに薫子は遠い目をして答える。


 「薫子姉様、貴女達アーガルム族は、薫子姉様以外に何人居るの?」


 「アーガルム族全体として……この世界に現存しているのは3万人ほど……。でも彼らはアガルティア国にて眠っている。そして起きて活動しているのは、ほんの数十人程度ね。

 王であるマニオス様不在の現状では、指揮権を持っているのはアガルティア国12人の騎士長よ。私達12人は、マニオス様に次ぐ“力”を持っている。

 もっともあの御方と私達では天と地程の差が有るけどね……。残りの数十人は従騎士で私達12騎士長の指示で動いている。貴女達が出会った、ローラ、キャロ、レーネの三人、そしてファミレスで彼女達を迎えに来たシャリアがそれに当たるわ」


 「……あの可笑しな3人組ね……、すっかり小春ちゃんと仲良くなったみたいだけど……。それじゃ安中さんとか、模擬戦で浮いていた美人二人組は……12騎士長って訳? 何で安中さんは大佐なんかやっているの? 意味が分からないわ」


 薫子の答えに早苗は、出会った奇妙な3人組や安中達の事を思い出し首を傾げる。



 「安中さんの本当の名は12騎士長が一人トルアよ。模擬戦に見学に来ていたのは同じくガリアとリジェ……。私達、アーガルム族全体の目的は……他ならぬ主の復活。最強にして最高位の王である……マニオス様と、その伴侶であるマセス様の復活よ……。

 でも、マセス様の復活は貴女も良く知る通り……エニ、いえ……小春ちゃんが成し遂げてくれた。残るはマニオス様の復活のみ。私を除いた他の12騎士長はマニオス様の復活の為、全身全霊で行動している。

 安中さんは、自衛軍の立場を利用してマニオス様の復活を……、つまり玲君の成長に尽力してる。そしてガリア達は外側から玲君の成長を促してるの。

 ローラ、キャロ、レーネの三人は貴女達の護衛よ。そして私は……、他の12騎士と異なりマニオス様では無く、マセス様……つまり貴女達に仕えている」


 「……成長を促す? マニオスって玲君の……? そして、薫子姉様は私達に仕える……? どう言う事かしら?」

 

 淡々と説明した薫子の言葉を受けて、事情が良く分っていない早苗は混乱してきた。



 「……私以外の12騎士長は、玲君の中に眠るマニオス様を覚醒させる為、玲君に戦いの場を提供している。私達の王で有るマニオス様は戦いを司る存在だから……。ガリア達はマニオス様を復活させる為なら何でもするわ。対して私は13000年前よりマセス様……つまり貴女達に仕えている。

 愛し合っていたマニオス様とマセス様は……有る事を切っ掛けに対立する様になった。その時から、私だけはマセス様にお仕えする様になったわ……」


 「そうだったの……。所で……エニって、どんな子だった……?」


 「……貴女も良く知ってる通り……小春ちゃんの前世がエニよ。エニは13000年前……戦争孤児として彷徨っていた所を、マセス様が拾われた。そして……マセス様とマニオス様の養女として育てたの。お二人は本当にエニを愛されていた。そしてエニを襲った悲劇が……御二人を、世界を変えてしまった……」

 

 「……その辺りはマセスから少し聞いたけど……一体何があったの?」


 目に涙を湛えながら悲しそうに話す薫子に早苗は問うが……。


 「ゴメンなさい……これ以上は私達の国に来て貰ってから説明させて……。アリエッタ、姿を見せて」


 薫子が静かに呼び掛けると……彼女の横に突然、人形の様にとても美しい少女が現れたのだった。

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