180)騎士の誓い

 屋根の上で小春を見ていた、ローブの3人組は他者が自分達に気付かない様に、光を歪めて隠れていたが仁那の野生の勘であっさり見つかり、こうして小春の家に連れて来られた。小春は連れて来た3人組を自室に呼んで、冷蔵庫に残っていたグレープソーダのジュースを3人に配るのであった。


 「か、かたじけない……」

 「あんがとっす!」

 「……有難う御座います……」


 堅苦しい応対をするのはローラと言っていたアッシュブロンドのモデル体型の美少女だ。砕けた物言いの美少女は赤毛の気の強そうなだが小柄のキャロだ。

 最後に丁寧にお礼を言ったのは金色に輝くボブショートが可愛い顔に似合うレーネだ。


 彼女達は小春が出したグレープソーダを不思議そうに、そして難しい顔をしながらチビチビ飲んでいる。まるで初めて炭酸ジュースを飲んでいるかの様だった。


 小春は初めは彼女達の様子を恐々と言った様子で観察していたが、極めて慎重にグレープソーダを飲む3人の様子を見て、何となく気が抜けた小春は意を決して話し掛けた。


 3人にある事を伝えたかったからだ。


 「あ、あの! こ、この前は……あ、有難う御座いました!」


 対して3人の少女達は顔を見合わせて、頷き代表してローラが答える。


 「……いえ、礼には及びません。我等は、貴方様を守護する事が任務故に……」

 「えーと……それって確か早苗さんが言っていた……安中さんから頼まれたって件?」

 「……安中?……あぁ、トルア卿の現地名か……ええ、その通りです。我等はその安中の関係者です」


 小春はローラ達3人が安中に派遣された護衛と理解した。そんな風に彼女らを見ているとレーネと呼ばれていた彼女が俯いて震えていた。その様子を見て小春がレーネに問う。


 「?……だい、じょうぶ……?」


 “ガバッ!”


 小春の心配そうな声を聞いたレーネは辛抱堪らない、と言った様子で抱き着いた。その目からは涙が留止めなく流れている。



 「ずっと! ずっと! 会いたかったんだよ! ずっと……ううぅ……うぐぅ……ぐすっ、うあああん!!」


 レーネはずっと我慢していた様に滂沱の涙が流しながら小春を抱き締め泣き叫んだ。その様子を見ていたキャロやローラもレーネと小春に寄り添って号泣した。


 「!?……ど、どうしたの!? ……あ、あれ? ……なんで、わたし……泣いてるの……?」


 小春は突然3人が自分に寄り添って泣かれる理由が分らず戸惑ったが、そんな小春自身が涙を流していた事に気付き驚いた。自分が涙を流す理由は小春も理由は分らないが、何故か涙が溢れて仕方なかった。


 小春はもう覚えていないが、小春がエニとして生きた時、エニはレーネ達3人と同じ時を生きた家族同士だったのだ。

 

 だからこそ、レーネ達3人は小春との出会いを強く望み、小春自身もキャロやローラもレーネの3人とこうして出逢えた事を心奥で強く激しく喜んでいたのであった……




 そして一頻り号泣した小春とレーネ達は、誰からともなく微笑み合った。心が通じ合ったのだと、感じた小春は自然に提案していた。


 「……もし……もし、良かったら友達に……なってくれないかな……」

 「「「…………」」」


 小春の突然の提案に3人は、驚いて一瞬黙ったが、また涙を流して口々に喜びの声を上げながら、逆に小春にお願いするのであった……


 こうして、すっかり仲良くなった小春とローラ達だったが、小春の要望で連絡先を教え合う事になった。

 しかしローラ達は携帯端末を持たされてはいたが、全く使い方が分っていなかったので、小春が説明しながら自分で番号登録をしてあげた。


 その様子を何故かローラ達3人はキラキラとした憧れの目で小春を見つめるのであった。


 その後、3人は小春の部屋で小春が好きな漫画を見せられたり、和気藹々と談笑していたが、いつの間にか夕暮れ時になった。




 「……ご飯食べてったらいいのに……」


 小春はそう、残念そうにローラ達に言う。対してローラが代表して答えた。


 「いえ、それには及びません。既に余りにも過分なご厚情を頂いて居ります故、これ以上は……」


 ローラは非常に丁寧な言い方で答えるが、その言い方に小晴は苦笑しながら話す。


 「アハハ、なに、その堅苦しい言い方……もうわたし達友達なんだから、敬語は要らないよ?」

 「そ、それでは……改めて……こ、小春……今日の所は所用が有る故、失礼する」

 「……まだ固いよー……でも、今日の所は勘弁してあげるね!」



 まだ堅苦しさが抜けないローラに対して、小春は明るく返した。其処にレーネが話し掛ける。


 「……こ、小春……さっきも言ったけど、もうすぐ小春と同じ学び舎に入る事になるの……その時、宜しくね」


 「そう言ってたね、でも凄いよ! 3人共同じクラスだなんて……」


 小春の驚いた声に、事情を知っているローラが静かに答える。



 「……詳しい事は分らないが、私達が他国から来た、という事で配慮されたのだと思う。いずれにしても小春の傍に居れる事はとても素晴らしい事だ」


 「そーだな! それに住むトコも、小春んちの傍になるからな! もうすぐご近所だ!」


 ローラの言葉にキャロが嬉しそうに答える。対して小春は驚いている様子で話した。


 「不思議な偶然だよね! でも凄く楽しみだよ!」

 「ああ! アタシもだ!」



 小春とキャロはそんな風に言い合って手を取り合った。小春は驚いていたが、実はローラ達が小春と同じクラスに為る事も、小春の家の近所に住む事も、全て調整された事だ。


 しかし元来、ほんわかした性格の小春はその点を余り気にしていない為、事情については不思議に思わなかった。


 小春の中に居る早苗も、この事は安中に聞いていたので、小春の中から見ていても疑問に思わなかった。そして早苗は小春とローラ達の再会を敢えて静かに仁那と共に見守っていたのであった……




 そんな訳で小春とローラとキャロやレーネとの喜びに満ちた再会の後に親交を深め合って友人となった。小春に見送られて3人は去っていた。3人を見送った後、小春は家の中に戻ったが……


 ローラ達は小春が家の中に入った事を確認すると、突如3人共飛び上がり、小春の家の屋根に飛び移った。


 そして仁那に見つかる前の様に、見えない空間を作り出して自身の姿を覆い、外部からは完全に姿が見えなくなった。どうやら小春を影から守る気らしい。



  ◇     ◇      ◇



 その隠された空間の中で、ローラ達3人は今日の小春との思い出を語り合う。


 「やっぱ、エニは転生しても可愛くて、いい奴だな?」


 キャロが嬉しそうに話すとレーネも答える。


 「そうだねー……でもマセス様は、アリエッタ様が言ってた通り面影無かったね?」


 レーネの言葉に対し、ローラが冷静に返す。


 「崩壊と同化の影響で幼くなった為らしいな……確かに慣れないが、感じた波長は間違いなくマセス様のモノだった。不思議な感じだがな」


 「まぁ、親しみ易くなって良いんじゃね?」


 ローラの発言に対し、キャロが返すと、レーネが同意した。


 「そうね! 所で……ディナ卿、久しぶりにアガルティアに戻られるみたいだけど……もう戦い合う事は無いのかな?」


 「……それは目覚めたマニオス様次第だろ? 今は休戦状態って奴さ。マニオス様と小春達の考えが違えば、あの時と同じ事になるだろな」


 「その時……私達は選択を迫られるだろう……マニオス様に従い、小春達と相対するのか? ……それとも……?」




 レーネとキャロは互いの意見を言い合い、最後にローラが皆の顔を見ながら問い掛けた。すると、レーネが凛とした態度で明確に言い放った。


 「そんなの答えは決まってる。私達はカリュクスの騎士……マニオス様の為に、小春の身も心も……そしてその想いも守り抜くわ……かつてのディナ卿の様に……それが例えマニオス様のお考えと違ったとしても、私達は小春と共にある! 私達はその為に剣を持ちこの地に居るのだから!」


 「レーネの言う通りだぜ!」

 「確かに……聞くまでも無い事を聞いた。許せ……」


 レーネの言葉にキャロとローラは同意した。


 彼女達3人はこの時気付いていなかったが、この時の彼女達の決意が、後の小春達の戦いに大きな影響を及ぼすのであった……


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