178)カリュクスの騎士-2

 予想外の状況に怯える小春に対し、早苗は叱りつける。


 “しっかりしなさい! 小春ちゃん……玲君達の為になら、私達は何にも屈しない……そう誓った筈でしょう? 私達は、あの強い玲君達に模擬戦で勝った……それに比べたら……あんなの恐れるに値しない……違うかしら?“


 早苗に叱られた小春は、冷静さを取り戻して早苗に礼を言った。


 (……はい! ゴメンなさい、早苗さん。玲人君の事思い浮かべたら、ちょっとだけ怖く無くなりました)


 “その意気よ……でも……此処は仁那ちゃんに任した方が良いわね? 格闘戦なら無敵でしょうし”


 早苗の言葉を聞いていた仁那は明るく力強く答える。


 “うん! お母さん、私に任して! 何て言ったって”さすらいの拳士豪那“だから、 怪獣だってやっつけて見せるよ!”


 早苗は仁那の脳内からの声に苦笑しながら同意した。確かに仁那の技なら、ティラノサウルスでも瞬殺だろう。


 “それじゃ、お願いするわね。仁那ちゃん! 小春ちゃんも其れで良いかしら?“


 (はい、早苗さん。問題有りません)


 “それじゃ、念のため私が必要に応じてバリアー展開するわ。小春ちゃんは念のため治療の準備しといて。仁那ちゃん……準備はいい?”


 少し怯え気味な小春の為に、早苗は敢えて自分が指揮を執る。早苗は子供達に絶対の安全を確保する為に自らが障壁を展開し、小春には治療の準備をさせた上で、仁那の士気を削がない様に動いて貰う考えだった。




 こうして小春から替わった仁那は、公園の方に向かって奥に進んでいく。人目に付かない所で付いて来る男の対応をする様、早苗の指示を受けた為だ。


 仁那はどんどんと公園の奥に入り、サイクリングロードを抜け林の中に入って行った。





   ◇   ◇   ◇





 一方、小春を追っている男は、小春が公園の奥に向かって行く事に内心焦りを覚えていた。思わず苛立ちを口にする。


 「……クソッ! 一体何処に向かっているんだ!?」


 余り近づくと気付かれるとの思いから、男は距離をあけて尾行していたが、裏目に出た様だ。林に入った小春の姿を失ってしまう。


 「! しまった!」


 男は慌てて林の中に入ると、そこはバーベキュースペースなのだろうか、少し開けた場所だった。周囲には誰も居ない……


 「……まさか見失っ……」


 男がそう言いかけた時だった、突如黒い影が前に降りたった。そして凄い勢いで男の眼前に現れたかと思うと大きな声が響いた。


 「列断旋風脚!」


 “バゴォ!!”


 男の前にいきなり現れた仁那は、怪しい男に対して中段の回し蹴りを加減して放った。


 「ウギャ!!」


 怪しい男は受け身も取れず情けない声を上げ、仁那の回し蹴りを受けて後方に遠く吹き飛ばされた。



 飛ばされた男に対し仁那は追撃を加えようとして駆け出そうとしたした時だった……



 “ザン!” “ザザン!”


 男の周囲に3人の人影が矢が降り注ぐが如く現れた。それは、昼間ファミレスで現れた奇怪なローブ姿の3人組だった。


 3人組が現れた事で仁那は男への追撃を止め、警戒しながら3人の様子を伺う。



 3人の内の一人が転がっている男を踏み付けて凄む。


 「……オイ……テメェどういう心算だ? 返事に依っちゃ……このままテメェの汚ねぇ体を地盤ごと踏み潰すぜ?」


 「ヒイイイィ!!」


 不気味な仮面を被るローブ姿の存在に脅された男は失禁しそうな勢いで怯えている。


 そこに別な一人が待ったを掛ける。


 「……まぁ待て、キャロ……アリエッタ様から滅多な事では殺すな、と言われているではないか……それに、この男の目的を知らねばな……レーネ、頼む」


 「うん……分ったよ、ローラ」


 レーネと呼ばれたローブ姿の一人は、男の額に右手を向け、手の平を白く輝かす。キャロと言われた少女に踏まれている男は何をされるか分らない恐怖で大声を出す。


 「ななな、何だお、お前達……俺は怪しい者じゃ……あ……」


 男は大声を出して弁解しようとしていたが、気を失った様だ。どうやら、レーネと言う少女の仕業らしい。


 気絶させた男の記憶を読んでいたレーネだったが小さく呟く。


 「……この男は……刑事、つまり兵士の様なモノね……名前を中崎祐二……年齢は25歳……目的は……トルア卿の“残業”を調査中の……黒田と言う上官の指示で……エニ達を尾行……こんな情報で良いかしら?」


 レーネという少女が男の記憶を読み取り皆に説明する。


 小春を尾行していたのは、黒田の部下である中崎と言う刑事だった。


 レーネに問われたローラと言う少女が満足げに話す。



 「うむ……目的と素性も分かったし、良いだ……」


 「……君達は誰……?」


 ローラが話している所に暫く様子を見ていた仁那が3人に話し掛けた。その疑問の声を聞いていた小春が脳内から仁那に話し掛ける。


 “……仁那、この人達はこの前……ファミレスで会った人だよ。確か安中さんの知り合いとか何とか……それと……あの男の人、警察署で会った刑事さんだと思う”


 (ふーん、そうだっけか……どっちもあんまり覚えてないな……小春、知ってるなら替わってくれない?)


 “……う、うん……いいよ”


 そして仁那は小春と話し合って、小春と替わるのであった。



 その間にローブ姿の3人は静かに片膝を付き、ローブのフードを下して仮面を外した……すると、其処に現れたのは絶世の美少女達だった。姿を見せた少女達は年の頃は、小春達と変わらない。


 しかしその肌は皆、透き通る様に真っ白で髪の色こそ違うが、各々が可愛らしく目を引く顔だちをしていた。

 


 その彼女達が小さく声を出す。


 「私の名は、ローラ。この地ではローラ、ブランドナーを語らせて貰う事になる。貴方の事は貴方以上に知っている……小春……ずっと会いたいと思っていた……此れから御身は私が必ず守る……此れから如何か良しなにして頂きたい」


 そう、力強く語った少女は、アッシュブロンドを長く伸ばした目鼻立ちの通った美しい顔だちの少女だ。すらりと背が高く、手足が長いモデルの様な容姿を持っていた。

 

 「アタシはキャロ……確か……キャロ・マイステルって名乗ると思う。宜しくな!」


 次に口を開いたのは小柄な背丈だが、燃える様なレディシュ(赤毛)をセミディに纏めた気の強そうな少女だ。少し吊目だが二重瞼が良く目立つ美少女だ。一見ちょっと悪そうに見えるが、小柄な背丈と小顔が相殺され何ともいい意味で目立つ存在だ。

 

 「私はレーネ……この地ではレーネ・セアーズと名乗る事になります……マセ……いえ、小春様……どうぞよろしくお願いします!」


 レーネと名乗った少女は人懐っこい大きな目をした少女だ。金色に輝くボブショートが可愛い顔に非常に似合っている。

 

 3人の少女達は其々口を開いて自己紹介した。小春は突然の事で上手く言葉が繋げず口籠ってしまう。


 「……あ、あの……」


 そこへ、林の奥から声が聞こえてくる。


 「オイ、護衛対象はこっちか!? 急げ!」


 どうやら自衛軍の護衛が小春を探して居る様だ。その声を聞いた3人の少女達は顔を見合わせて頷き、その内の一人、アッシュブロンドの少女ローラが小春に呟いた。


 「……どうやら潮時の様です。我等は人目を避ける必要が有りますので、今日の所は失礼します」


 “ザザン!!”


 そう呟くが早いか、3人の少女は舞い降りた時と同様に、矢のように飛び去ったのであった……



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