176)憧れのあの人
奇怪な3人が通路上で立ち竦んで話しあっている所に、応対した女性店員が上ずった声で声を掛ける。
「お、お客様? ここ、この通路上で立たれると……他のお客様のご迷惑になりますのでお席にお願いします」
そんな風に言われた3人組は、静かに答えた。
「……良かろう……我等はそこの席に座らせて貰おう」
そう言って奇怪な3人組は、小春達の席から通路を挟んで隣の席にドカッと座った。そして3人共が揃って小春の方を凝視している。
……見るからに異様な状況だった。
奇怪な3人組は何故か、小春の方を3人共ガン見している。気味が悪いハーフマスクを被っている為、表情は伺えないが完全に危険人物にしか見えず、公道であれば間違いなく警官に職質されているだろう。
凝視されている小春は居心地悪そうにしながら、完全に怯えている。
その様子に気付いた、3人組を案内した女性店員が、雰囲気を変えるべく奇怪な3人組の所に来て注文を促す。
「……お客様、注文はお決まりですか?」
女性店員に問われた3人組の内の一人が、小春の方を指差して呟いた。
「……彼女が食していたモノを頂こう」
「他には御座いませんか?」
「ああ、ソレを人数分頂こうか」
やがて運ばれてきたパフェをローブの3人組は揃って珍しそうに眺めながら、恐る恐る口にする。
「な、なんだコレ! ムチャ美味いぞ!」
「……おのれ……マールドムの分際で生意気なマネを……」
「まぁ、ローラ……今はその事忘れようよ……」
何やらボソボソ口に出しながら一心腐乱に3人共パフェを食べている。
その様子を横目に見ながら隣の席に座っているメイは小春に囁く。
「……小春……あのコスプレ集団……本当に小春の知り合いじゃ無いの?」
「……まず、仮面被っている時点で誰か見当も付かないよ? でも何のアニメのコスプレかな? 見覚えないし……」
そんな事をメイと話していた小春の脳内で早苗が声を掛けた。
“……小春ちゃん、ちょっといいかしら?”
対して小春はさっき早苗にエライ目に遭わされたので文句を言いながら返答する。
(……早苗さんの所為で、凄く恥ずかしい思いしましたよ! 私の体使ってる時に変な事しないでって、いつも言ってるじゃないですか!?)
“変な事をした覚えは、私には全く無いわ。私は自分に正直に生きてるだけ……それよりも、目の前のローブの子達……ちょっと話させてくれる?“
(……本能で行動するから、わたしが振り回され……え? 早苗さん、あの3人組と話す心算ですか?)
早苗の言い分に脳内で文句を言い掛けた時に、小春は早苗の一言が気になって聞き返した。
“ええ、ちょっと気になる事も有るし……。替わってくれる?”
(えええー? また、変な事するんじゃないですか?)
早苗の提案に小晴は警戒して渋ったが、早苗は気にせず続ける。
“流石に続けてしないわよ? 面白鮮度が余り無いし”
(……何ですか、その野菜みたいな表現は……分りました……でもメイちゃんにも、わたしにも変な事しないで下さいよ!?)
“もうしないわ……それじゃいいかしら”
そう約束して早苗は小春に替わった。すると早苗は3人組の前に立ち、詰問した。
「貴女達……おかしな格好して、私達の事観察してるけど……どちら様かしら?」
仁王立ちして詰め寄る早苗に対し、3人組は顔を見合し呟き合う。
「何か気配が変わったぞ?」
「……この感じは……ガリア様が言われていた混ざり者か……」
「確かそうだね……一つの体に3人の意識が有るって話だったわ……。今話し掛けてるのは……エニでも、マセス様の転生体でも無いね……。でも、何だか怒ってる様な……」
「……私の言葉理解してる? 何が目的で私達の所へ来たの?」
ヒソヒソと話し合う3人組に早苗がイライラした口調で問う。対して3人組の一人が答える。
「我々は怪しい者では無い……。御身を守る為に遣わさせれた騎士なり」
「はぁ? 騎士……うん? そう言えば安中さんがお伽噺で、そんな話してた様な……。ねぇ、貴女達は一体何者なの?」
「我等は多くを語る事は許されてはいない。しかし、我らの使命は御身を守る事……」
「あーもう良いわ、ちょっとも前も同じ様にはぐらかされたから。そういうやり取りは結構よ」
早苗に問われた3人組の1人が答えると、早苗はウンザリと言った様子で話す。
先日安中に適当にあしらわれた事を思い出しイラついている様だ。早苗は携帯端末を取り出し電話を掛ける。
「あー、もしもし、安中さん? 私です、そう、早苗です。今、私は小春ちゃんの友達と駅前のファミレスに来てるんですけど……私達の前に……ローブ姿におかしな仮面付けた3人組が居るんですが……多分コレって……安中さん所の関係者ですか? 何かこの人達、行き成り現れて……私達守るとか言ってる割に、何も答えようとしないんですが……。良いですか、安中さん……。何も教えてくれない癖に、突然こういう事されると余計にストレス堪るんですけど。……はい、はい、あーそうですか、それじゃお願いします」
早苗は安中に言いたい事だけ言って電話を切った。
横に居たメイはポカンとした顔をしている。恐らく、行き成り態度と言葉使いが異なる小春(早苗)に驚いているのだろう。早苗はその様子を見て、苦笑しながらメイに説明した。
「あーゴメンね、メイちゃん……あの3人組は、玲君の上司の知り合いみたいなの。今、連絡したら迎えが来るらしいから……そう言う事なので、小春ちゃんに替わるわね?」
そう言って早苗は小春に替わったのだった……
奇怪な3人組がパフェに喜喜として格闘中の中、メイが小春に疑問をぶつける。
「……なーんか、おかしいよね? 小春? 小春が小春で無いみたい……さっきから絶対変だよ……?」
「……うう……」
小春は、今、メイに疑いの目を向けられていた。メイからすれば今日の小春は雰囲気がコロコロ変わり過ぎて変に思ったのだ。
対して小春は自分自身の事情を上手く説明出来ず固まっていたが、誠意を持って対応する事にした。
「……ゴメンね……メイちゃん……わたし自身の事は、話せる時が来たら全部話すよ……それまで我慢してくれないかな?」
「……分ったよ! 何か理由が有るから自衛軍の手伝いなんてやってるんだろうし……話せる時が来たら、教えて!」
「うん! 有難う……」
メイの返答に、小春が礼を言った時だった。ファミレスの女子トイレの奥が白く光った。
「うん? 今、アソコで何か光った……?」
そして小春がその事に気が付いてトイレの方を見ると、割烹着を来た長髪のブロンドヘアーを持った美少女がトイレから現れ、小春の方をじっと見つめ此方に来ようとしていたのだった……
◇ ◇ ◇
一方、3人組に応対した女性店員は従業員用トイレで一人、愚痴っていた。まだ後退の休憩時間では無かったが、トイレでこっそり休憩を取らないと気分的にやっていけない状況だった。
「……何なのよ……一体!」
一人愚痴る女性店員の名は、柴田友美と言い女学校に通う女子高生だった。彼女はアルバイトとしてこのファミレスに働いていた。
友美が愚痴るのも無理は無い。唯でさえキツイ接客業のバイトに予想外のややこしい案件(客)が2組も一日に現れたからだ。一組目は可愛らしい少女の二人組だが、大声で叫びまくる困った客だった。
その後に現れた、コスプレ三人組に至っては、存在が事故その物だった。しかも問題の少女二人組にいきなり絡み、通路で立ち往生する等、こちらも困らせる客だった。
そんな事故案件を一日に何度も接した為、友美のストレスは限界に来ていた。こんな時、疲れ切った心を一瞬で癒す存在が、友美には居た。それは美しく気高い女性で、友美が通う女学校の先輩だった。
その憧れの人を一目見るだけで友美の心は天にも昇る様だった。今日の様に大変な目に遭った時はこうして、誰も居ない所で憧れのあの人を隠し撮りした画像を見て、自分を癒すのだった。
「ああ、シャリア先輩……この可愛そうな私をどうか慰めて……」
そう呟きながら表示した携帯端末の画像を見て友美はうっとりする。
そこに表示されていたのはセーラー服を来たとても美しいブロンドの少女だった。
友美が憧れる先輩は海外から転校してきた少女で、長く伸ばしたブロンドヘアーの白い肌の彫が深く美しい少女だった。
ブロンドの少女は海外からの謎の転校生という事も有り、美しさと尊大な物言いと、それで居て周囲の気配りを忘れぬ優しさを持っていると評判より、友美が通う女子高ではあっという間に崇められる対象になり、密かにファンクラブも作られた。
……ちなみに友美もその会員である。
友美は女子トイレの中で一頻り憧れの先輩シャリアを鑑賞し、十分英気を養ってから呟いた。
「シャリア先輩……友美……頑張れそうです!」
友美はそう口に出して、気を取り直しフロワに戻るのであった。
しかし、友美が英気を養ってからフロワに戻ってみると、其処には……なんと……
――居るではないか、あの麗しの人が!!
愛しのシャリア先輩は何故か、白い割烹着を来てローブ3人組の前に立ち、仁王立ちで何か怒っている様に見える。
シャリアの姿を見たファミレスのバイト店員、柴田友美は残念ながら壊れてしまって……
「キャアアアアア!! シャリア先輩ィィ!!」
壊れた友美はバイト中にも関わらず、大絶叫と共にシャリアに抱き着いた。
その大声は、このファミレス開店以来初めての大音量を響かせ、後に友美はファミレス店長から随分と怒られる羽目になったのだった……
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