174)メイの尋問
夏休みも折り返し時期に来た土曜日の午後中学生の石川小春は茹だる様な暑さの中、親友の山中メイに呼びつけられ先日のメールにつて問い詰められていた。
尋問会場は駅前のファミリーレストランで、メイと小春は窓際に座った。メイが小春に迫る。
「……で? 小春君? あの彼氏は何?」
「いいいいや、そ、その……かか、彼氏っていう程では……」
声を低くして迫るメイに小晴はドギマギして答える。山中メイは、偶然にも玲人の上官である奥田中将閣下の孫娘である少女だ。
メイはベリーショートのボーイッシュな髪型だが、小顔で可愛らしい顔の為、髪の短さが可愛さを引き出していた。
背丈も元々小柄な小春に負けない位低い為、幼い印象を持った美少女だ。性格は容姿に反して言いたい事をズバッと言う逞しさがあった。
そんなメイが苦しい言い訳をした小春に対し、物証を持って追及を激しくした。
「ふーん……それじゃ、大人の女の小春君は……彼氏じゃない人と……こんな真似出来ちゃうのかな……?」
“ピ!”
そう言ってメイが小春に対し、携帯端末に示したのは一枚の画像だ。
……その写真はお尻を付きだして萌えキュンハートを作っている姿の奥田とディープキスしている小春と玲人の写真だった。
その写真を見た小春は、一瞬で真っ青になり取り乱して叫んだ。
「わー!! わー!! メメメイちゃん! その画像、すすっすぐに消して!!」
「ちょ、ちょっと、小春落ち着いて!」
結構な大声で小春が叫んだ事に、メイは驚いて、声を抑える様、声を大きくして注意した。其処へ満面の笑顔を浮かべた女性店員が音も無く近づいて、小春達に声を掛けた。
「……お客様? 大変、恐れ入りますがもう少しお静かに御願い頂けませんか?」
女性店員は、凄い笑顔だが、目が笑っていない。対して小春とメイは“……ゴメンナサイ……”と二人して謝ったのだった……
「……小春の所為で大恥掻いちゃったじゃない! ……で? もう一回聞くけど、この彼氏さんとの関係は?」
女性店員に謝った後、先程より凄みを増してメイは小春に迫る。対して小春観念して溜息を付きながら呟く様に答える。
「はぁ……分ったよ、メイちゃん……だけど、話せない事も有るの。其処はゴメンね」
「……うん、お祖父ちゃんのお仕事で、大体分ってる。だから小春の話せる範囲で良いよ!」
メイは自衛軍中将という立場を持つ祖父の影響で軍に関する秘匿事項について理解していた様で、小春に対し気遣ってくれた。一方の小春は玲人を通じて予め安中大佐から、情報開示の制限事項を聞いていたので、それに基づいて話せる範囲で話す事にした。
「えーとね、メイちゃん……写真の人は大御門玲人君って言って、わたしの学校の同級生で……色々な言いにくい事情で……そ、その……こここ婚約したんだ」
小春の説明を聞いたメイは、呆れ顔で返答する。
「……ざっくり過ぎて何も分らんぞ……もうちょっと噛み砕け!」
「うん……そうだよね……」
小春がなんて説明しようか悩んでると、脳内から小春の参謀役である早苗が声を掛けてきた。
“……悩んでるのね、小春ちゃん?”
(……はい、早苗さん……何処まで話せば良いか分んなくて……)
“……私達や玲君達の能力の事は拙いと思うわ。何なら私が小春ちゃんに替わって説明してあげるわよ?”
此処で早苗は、小春にとって魅力的な提案をして来た。話下手の小春としては是非お願いしたかったが、先日の奥田に対する胸キュンハート事件を想い返し、苦言を言った。
(うーん……それは有り難いんですけど……この前、そう言って早苗さんは奥田さんにとんでもない事したでしょ?……そもそも、今日メイちゃんに呼び出されてる理由は……早苗さんの所為だし……何より、早苗さんの事知らないメイちゃんからすれば、早苗さんが急に来たら凄く戸惑うと思うんです……)
“そのお詫びも兼ねて、私が上手く説明してあげるわよ! それに私がそのまま説明するんじゃ無く、私が小春ちゃんの振りして説明すれば大丈夫よ!”
そう言って来た早苗に、小春は折れて早苗に説明を替わって貰う事にした。
(……それじゃ、早苗さん……お言葉に甘えちゃおうかな? でも私の振りしてるんですから、絶対メイちゃんに酷い事したらダメですよ?)
“はいはーい! 全く小春ちゃんは心配性ね? それじゃ替わってくれる?”
早苗がそう言って来たので小春は目を瞑り早苗と替わる事にした。
「……メイちゃん、それじゃ改めて説明するよ……全部は言えないから、そこはごめんね! 実は……」
小春の振りして小春の口調のまま、早苗はメイに説明を行った。小春達の能力の事や、同化の事は一切言わず、自衛軍の任務に就く玲人と婚約し、その手伝いをする為に自衛軍の技官として任務に就く事になった……と、そんな風に早苗(小春の振りして)は饒舌にメイに説明した。
「……て、訳なんだ……口止めされていたにしても……ゴメンね、メイちゃんに話すの遅くなって……」
小春を装った早苗の適格な説明に対し、メイは納得した様な表情を浮かべている。その様子を脳内で見ていた小春は感心していた。
するとメイは早苗(姿は小春)に凄い笑顔で問うてきた。
「うん! 良く分ったよ! 急に説明上手くなったな。今までの経緯は分ったけど……じゃ、この写真についてはどう、申し開きするの?」
メイはそう言って携帯端末の画像を示す。
要は玲人とキスの事と奥田中将の胸キュン姿勢について説明を求めて来た。問われた早苗は、神妙な顔をしてメイに話した。
「……実は、玲人君への溢れる想いの所為なの。あの時……生れて初めて見た玲人君の軍服姿に……わたしは恐るべき衝撃を受けたの……」
「……え? 小春、何言ってるの?」
突然始まった小春の振りをしている早苗の独白を受けてメイは戸惑う。一方脳内にてこの様子を見た小春は凄く嫌な予感がして、早苗を制止する。
“ちょ、ちょっと!? 早苗さん、何言い出すんですか!?”
脳内からの小春の叫びを聞いた早苗はニヤリと笑い、メイへ力強く語る。
「つまりは……大いなる欲情がわたしを支配してしまったの……だって仕方無いでしょう? 軍服よ!? 幼さを残した若く逞しい体の彼を包む……勇ましくも堅苦しい軍服! わたしには彼が全てを解き放って、と言っているしか思えなかった! 今すぐこの戒律の象徴を凌辱してほしいと!」
早苗(小春演技中)はカッと目を見開き、メイの両手を掴んで語る。
「メイちゃん! 貴方のお爺様はわたしと玲人君の事を応援頂いたのよ! だからこそ恥を忍んであんなお姿を……くっ!」
そう言って早苗は涙を流してメイに語るが、対してメイは顔をひきつらせながら、引き気味に小春(実は早苗)に呟く。
「……ちょっと、小春さん? 頭打った?」
脳内に居る小春は、本気で拙いと思って早苗に叫ぶ。
“早苗さん!! 今すぐ替わって下さーい!”
そんな二人の様子を感じた早苗はメイの手を放し、熱い一人語りを続ける。
「……お爺様の熱い思いを受け取った、その時のわたしは、躊躇する事を止めた!」
そう叫んだ小春(早苗演技中)は立ち上り、拳を握り締め大声で叫ぶ。
「だからわたしは辛抱堪らず、玲人君の唇を奪わずに居られなかった!!」
「……おーい……小春帰ってこーい……」
大声で叫んだ早苗(小春演技中)は、すっきりとした顔でメイに向き直り、静かに語る。
「分かったかしら? メイちゃん……海よりも深い事情によって綴られたあの時のドラマを……これ以上は言葉はいらない……それじゃ、本人がさっきから替わってって煩いから、私はわたしに替わるわ……」
又しても散々やらかした早苗は、小春に唐突に替わった。途端小春は涙目で呟く。
「……おのれ……あの猛獣め……今度はわたし自身にやらかしてくれたよ……」
「……色々……大丈夫か? 小春?」
涙目で何やら深刻なダメージを受けている小春に、メイは本気で心配(頭の方を)して声を掛ける。
其処へ先程小春達に注意した女性店員が、音も無く傍に立ち、笑顔だが青筋を浮かべながら静かに迫った。
「……お客様? もう一度、言いますが……お静かに御願い頂けませんか?」
「「はい、申し訳有りません……」」
小春とメイは真摯にお詫びするのであった……
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