15)猛獣との同居生活(小姑編)
早苗同様、小春に脳内同居している仁那の暴挙についてだが……
例えば……小春と同化し、石川家で仁那や早苗達がすっかり受け入れられた頃の事だ。
その日、小春の体は仁那が使い、小春の妹である陽菜と一緒に格闘ゲームをしていた。仁那は元々不完全な肉体を持って生まれた為、満足に動ける事が出来なかった。
しかし同化した後は、生れつきの素養の問題か、類まれな運動能力を発揮した。本来の肉体所有者である小春より遥かに……
従って、格闘ゲームで陽菜を圧倒する事等造作も無かった。
「あー! また負けてしまいました……仁那ちゃん、強すぎなのです……」
「えへへ、ゴメン、また勝っちゃった。違うキャラでやってみようか?」
「いいえ、仁那ちゃんには何をしても勝てる気がしないのです。ふぅ、今度は違うゲームで勝負です……でも、ここでお茶にしましょう」
陽菜と仁那は精神年齢が近いため、すぐに二人は仲良くなり、本当の姉妹の様だった。もっとも仁那が使っている体は小春自身なので肉体的には姉妹だったが。
陽菜がお茶の為にリビングから離れキッチンに行った際、仁那はボーっと窓を見ていた。すると、窓の外には一匹の巨大なデブ猫が塀の上歩いていた。デブ猫は自分を見つめる仁那に気が付いて“ナァー”と一言鳴いた。
その様子を見た仁那は、もはや我慢できず外に飛び出していった……裸足で……
デブ猫は石川家の塀の上に居る。仁那は猫という生き物を自分の目(正確には小春の目)で見るのは初めてだった為、好奇心が抑えられなくて飛び出して行ったのだ。
仁那がジーっとデブ猫を見ているとデブ猫は撫でてくれ、とばかり後ろ首を向けてくる。仁那は目を輝かしてデブ猫の首を撫でてやった。デブ猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。仁那がデブ猫を撫で捲っていると脳内で小春が仁那に注意してきた。
“仁那! 裸足で外に出たらダメよ! ちゃんと靴を履かないと!”
小春の注意を受けた仁那は素直に答えた。
(うん、小春。分っ……)
そう、小春に脳内で返している途中でデブ猫が突如、塀からカーポートの屋根に飛び乗った。そして仁那に振り向き“ナゥー”と仁那を呼んだ。
その誘いを受けた仁那は、更に目を輝かせた。そして満面の笑みを浮かべて……塀に飛び乗った。仁那は、その類まれなる運動能力と、操る体に能力を付加させて強化している事により、小柄な小春の体でも人外の動きが可能だった。
塀に飛び乗った仁那に小晴は脳内から慌てて大きな声で静止する。
“に、仁那! 塀から降りて!”
(……う、うん、分っ……)
しかし、小春と仁那のやり取りを黙って見ていた早苗が仁那を煽ってしまった。
“仁那ちゃん、その子の事が気になるのね……知りたいと思った事、見たいと思った事……我慢する事なんか無いわ……今まで、仁那ちゃんはしたくても出来なかったもの……いいわ! お母さんが許します! 構わないから仁那ちゃんがしたいと思った事は、遠慮せず好きにドンドンやりなさい!!”
(うん!! 有難う! お母さん大好き!)
嬉しくて仕方ない感じで早苗に答えた仁那は目を輝かせてデブ猫の誘いを受けカーポートの屋根に飛び乗り、次いでそのまま家の屋根に飛び乗って……駆け出した……
小春は慌てて仁那を制止する。
“ちょっと、ちょっと待って! 仁那! 早苗さん! 何であんな事言うんですか!”
“子供は自分の思い通りに生きるべきよ、そして大人がその責任を取ればいいの……まぁ私はこんな状況だから取れないけど”
“今の状況で言う事じゃ無いでしょー!!”
脳内でそんなケンカをしている二人を余所に仁那はデブ猫と駆けていた。
もう仁那は止らなかった。デブ猫と一緒に屋根や、他人の家の庭などを駆け回った。その際、ご近所さんから……
“あら? 石川さんちの娘さんよね? 随分……活発でいらして……”
と有り難いお言葉を受けて、それを脳内で聞いていた小春は、絶叫したい気分だった。
仁那がデブ猫と家々の屋根を駆け抜ける姿は街歩く人々の目に移り、携帯端末で画像を取られネットワークサービスを介して情報が拡散した。幸い駆け抜ける速度が異常に早かったので顔は全く分からなかったが、しばらくこの地域は“妖怪屋根走り女”が出る、という事で話題になった……
(なお、後日騒ぎが大きくなった事を懸念した玲人が上司の安中大佐に相談し、情報操作で揉み消して貰ったのだった)
その後走り回った二匹の獣(一匹は仁那)はすっかり仲良くなり、別れ際、デブ猫は仁那に自分の獲物を渡した。それは新鮮なトカゲの死骸だった。よく猫が飼い主に良くする有り難くない行為の一つである。
しかし、仁那は大層喜び、そのトカゲの死骸を持ち帰り、“新しい友達に貰った!”と陽菜に見せて、大絶叫された……
小春の魂に同化する早苗と仁那はこの様に本能で行動し、小春を激怒させた。
そして今日も早苗と仁那は小春に怒られている。3人はシェアハウスに居た。シェアハウスは小春の体を使っている間、他の2人が待機する為に早苗が小春の意識内にイメージして作った仮想的な家だった。
シェアハウスにあるコタツに小晴は早苗と仁那を正座させ、そして二人に説教を始めた。
何故、二人が怒られる事になったかと言うと……
先ず早苗だが、早苗はニョロメちゃんの実証実験をしたいと言い出したのが発端だ。ニョロメちゃんとは、小春が新たに開発した能力で浮遊する一つ目の物体だった。それを対象に憑依さす事で操る事が出来る能力だった。
しかし人間の様に意志を持つ対象だと、抵抗が大きく操作が困難になる。
それを訓練して克服したいと早苗は突然言い出した。そして訓練する為の実験台として玲人を小春の自室に連れて行き、ニョロメちゃんを玲人に憑依させた。
此処までは良かったのだが其処からが不味かった。
ニョロメちゃんの所為で上手く体を動かせない玲人を見てチャンスとばかりに、玲人に目を瞑って横に為る様に命じた。そして早苗は玲人に覆いかぶさり(体は小春)そのまま、玲人の貞操を奪おうとして……
“ちょ、ちょっと!! いいい一体何する気ですかー!!”
そんな風に脳内で小春に早苗は、叫ばれ、怒られたのだった……
一方の仁那は何をしでかしたかと言うと、今日の昼間の事だ。仁那は、ハマっている大好きなバトルアニメの影響受けて、そのアニメの主人公に為り切っていた。
そして、仁那は主人公の使う絶断豪斬破という名の脳天チョップの練習をしていた時に事件が起きた。
男の子なら誰しも通る黒歴史だが、アーガルムである仁那がそれをすれば、シャレに為らない事態になる……
リビングルームのテレビには仁那がチョイスしたベストシーンが繰り返し再生され、仁那は右腕を高く上げながら大声で、
「絶断豪斬破!」
と、技名を叫び手刀を上から打ち下ろす。非常に綺麗な型だが、顔は不満げだ。仁那はアニメの主人公に為り切って呟いた。
「うぬぅ……闘気が足りぬ……やはり2年前の戦いの傷がまだ癒えぬか……しかし、俺は負けん! 今こそ武神の加護を借りる時! フオオオオ!」
仁那はお気に入りのセリフを叫びながら、目を瞑り、高く振り上げた右手の手刀に意志力を込める。すると右手の手刀は白く光り出した。
意志力が発動された事に気が付いた小春が脳内から仁那に大声を上げて注意した。日常生活では能力の発動は禁止されていたからだ。
“拙いよ! 仁那! 力を押さえて!”
小春は脳内で叫んだが、仁那は夢中になり過ぎて、小春の声が届いていない。
そして……
「絶断豪斬破!!」
と、叫び手刀を打ち下ろした結果、手刀から白い光が放たれ……
“バカン!!”
そんな音と共に、目の前に有ったソファーとテーブルが切断された……
大きな音がした為、2階から降りてきた玲人は、事態を一瞬で把握し、仁那に強めのデコピンを喰らわして涙目にして撃沈した後、叔父の弘樹に丁重に侘びながら電話しテーブルとソファーの交換を依頼して、テーブルとソファーは即日配達されたのだった……
そんな事が続いてブチ切れた小春によって早苗(ヤンデレ姑)と仁那(お子様小姑)はシェアハウスにて正座させられていたのだ。
今日も小春は二人に叫ぶ。
「二人が今、怒られてる理由、分ってますか!?」
怒られている二人は恐ろしい事に本気で分らない様だ。各々目を逸らして呟く。
「……もしかして……妬いている?」
「……絶断豪斬破のキレが悪かったから?」
「全く違うわー!!」
大声で叫んだ小春はその後、二人に長々と説教したが飽きた早苗は漫画を読みながらミカンを食べて寛ぎだし、仁那は目を開けながら寝ていた。
全く反省していない二人に小晴はブチ切れ“二人とも謹慎です! 今日は体を渡しません!!”と言い放ち、二人からは“横暴よ! 小春ちゃん!”だの“小春のオニ!”など不平が出たが、小春はスルーし、シェアハウスを出た。
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