13)旅路の終わり

 障壁の所為で傍に行けないエニは焦った。漸く、マセスとマニオスが目覚め、転生した。一刻も早く皆と共に御傍に行かねばならないが、エニの姿は相手には映らず、触れる事も、声も伝わらない。



 (どうしよう、このままではいけない……何とか、何とかしないと……せっかく目覚められたのに……うん? 目覚め? そうだ……そう言えば、確かお父さんが、あの時……)


 エニは父との最後の別れの際に掛けられた言葉を思い出した。


 (確か、お父さんは……こう言っていた……“彼らの目覚めを目にした時、僕達を探せ”……って。よし! やってみよう!)



 エニは父に言われた通り、意識を集中してエニの父と母を探した。すると……



 エニの意識に、石からそう遠くない距離に建てられた四角い建物の中に、一組の夫婦のイメージが浮かんだ。その夫婦はさっきの爆発に怯え手を取り合っている。


 エニはその夫婦に見覚えが有った。肌の色や顔こそ違うが、間違いない。何故か明確に理解出来た。彼らはエニの生前に見た父と母だ。


 

 そして母のお腹には新たな命の器が、まるでエニを誘う様に小さく光っていた……

 


 エニはその様子を見た瞬間から涙が止まらない。自分がどう有るべきか、完全に理解した……そして父と母の、自分への愛の深さも。


 「うぅ……そう、そういう事だったの……せ、全部、全部、わたしの……うぐぅ、願いを……叶える為に……ぐすっ ううぅ! うわああああ!」


 大泣きしながら、立ち竦んでいると、急に体が引っ張られる感じがした。


 よく見ると先程まで無かったのに自分の胸から細い銀色の糸が生じており、それがエニの母親のお腹まで繋がっているイメージが見えた。エニの魂と、母の胎内にいる新しい肉体との繋がりが生じた事が理解出来た。


 ……新しい体に転生する時が来た様だ。自分ではどうにもならない凄い力で引っ張られる。まるで長く離れていた肉体にエニの魂が戻ろうとしている様な感覚で、凄い力で引きずられそうになる。


 エニは父と母の元へ引きずられる前に、転生したマセスとそしてマニオスに向かって涙を流しながら叫んだ。


 「……マセス様!! マニオス様!! エニは! エニは! 必ず、必ず! 御二人を迎えに行きます!! お願い! マニオス! どうか、待ってて!!」



 そしてエニは、新しい肉体に魂が引きずられ、転生した……こうしてエニは、石川高志と石川恵理子の長女として転生する事になった。

 

 そして……2082年12月19日、転生したエニである石川小春は誕生した。



 1万3000年もの間、愛する人達の為に孤独と戦い寄り添い続けた奇跡の女の子の誕生だ――



 その後、エニ、いや小春は母方の実家で幼少を過ごすが、父、高志の仕事の関係で他県に引っ越した。この頃、幼児に転生したマニオスとマセスの二人は第三次大戦後に編制された自衛軍に身柄を移していた。


 彼らの当時の名前は01(マルヒト)と02(マルフタ)と番号で呼ばれ、この国への侵略者を殲滅する目的で兵器として使われていた。


 ……そんな彼らにも転機が訪れる。


 自衛軍内部でクーデター事件が発生し、彼らの身柄が、彼らの母方に所縁がある大御門家に引き取られ、ようやく人間らしい扱いを受ける事になった。


 そしてマニオスとマセスに番号でなく名前が与えられた。


 マニオスは玲人、マセスは仁那という名前だ。玲人と仁那は叔父の弘樹と叔母の薫子によって大切に育てられる。玲人と仁那は強力な能力を持つ為、国内外の武装組織に狙われていた。玲人は体が不自由な仁那を守る為に、自らの意志で自衛軍に従軍する事になる。

 

 この時、小春と仁那、そして玲人は出会うことは無かった。小春が他県に引っ越していたからだ。


 時が過ぎ、小春が 小学5年生の時に父の高志をテロ事件により失う。大好きな父が居なくなった石川家は悲嘆にくれた。結果母の実家で祖母と同居する事になり、今の家に引っ越したのだった。その為小春は玲人が通う私立上賀茂学園に通う事になった。



 そして時はまた、巡り……小春が中学二年生になった時、漸く小春と玲人は出会った。クラス分けで初めて玲人を見た小春は自分でも説明出来ない衝撃を受けた。


 心を鷲掴みにされた様な感覚だった。


 小春は玲人を初めて見た筈だったが、何故か良く知っている、とても懐かしい様な不思議な感覚だった。そして気が付くと無意識に涙を零していた……



 その事が有ってから小春は玲人に惹かれ始めた。いや、彼を思い出していたのだろう。玲人の親友である東条カナメやクラスメイトの松江晴菜の助けも有って小春は玲人と友人として付き合い始める。


 そんな中、玲人の姉の仁那とも不思議な出会いを通じ、小春と仁那は親友となった。


 その仁那は生れつき肉体が不完全で再生と崩壊を繰り返していた。小春は仁那にも説明のできない強い既視感と親近感を感じていた。そして小春は、何故か彼女だけは悲しませたくないと強く感じていた。



 やがて、仁那に死期が近づく。



 小春は仁那と玲人の為にその身を犠牲にして姉の仁那と同化する事を選ぶ。それが仁那を救う唯一の方法だったからだ。

 小春は自身が消えてしまう覚悟も受け入れ、襲い来る恐怖の中……小春は、エニは、此処でも迷わず彼らの為に生きる道を選んだのだ。


 そうして挑んだ、仁那と小春の魂同化の際、心の世界で予想外の出会いを果たす。


 仁那の魂には仁那以外に、殺された筈の仁那の母、早苗と……エニが待ち続けた“彼女”が居た。



 遂に、1万3000年を経て、エニいや、小春とマセスは会う事が出来た。



 マセスは出会いの最中、小春に語る。


 “どうか、私をエニ……貴方の中で休ませて……貴方と私達はもう、一つの存在……私は貴方になり、貴方は私になる……エニ……貴方なら、いいえ貴方だからこそ……この戦いを止める事が出来るの……その事を……忘れないで……そして、エニ……どうか……“あの人”の事を、お願い……”


 マセスは小春に、マニオスいや、玲人の事を託した。



 そして……小春は、仁那と早苗とマセスと同化し、マニオスと同じアーガルム族となった。小春の体の中に、小春と仁那と早苗の三人の意識が存在する事になったのだ。

 また、玲人は仁那達を助けた小春の願いと小春達を生涯守る為に、玲人は小春と婚約する事になった。


 なお、今の世のマニアスである玲人の心の中にも早苗と一緒に殺された筈の修一が魂の状態で実は存在していた。修一と玲人は小春と仁那達の同化した瞬間に初めて会う事が出来たのだ……まるで封印が解けた様に。


 そして玲人の魂の深奥に眠るマニオスの存在も修一の出会いの際に確認は出来たが、深く眠っている為、今は会う事は出来ない状態だった。

 


 こうして……小春との同化によって崩壊するはずだった仁那とマセスと早苗は救われ、同時に玲人と修一は出会える様になった。


 小春の決断によって引き裂かれた筈の者達が出会い、その運命は重なり共に廻り出したのだ――


 しかし、小春の体の中に、小春と仁那と早苗の三人の意識が存在する事は、小春にとって波乱の日常の始まりだった……



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