12)降臨
エニと共に運び出された石の玉は大きな地下室に運ばれた。石は円形の階段状の台座の上に設置され、札が取り付けられた荒縄で石の玉は囲われた。
やがて石の周りには祈祷師達が座り、何やら一心に祈りを捧げ始めた。また、白衣姿の者達が忙しそうに動き回っていた。
エニは奇妙な彼らを見ながら、何となく理解した。この者達は石の玉に眠る彼らを目覚めさせようとしていると。石の前に集まる者達は彼らを目覚めさせる為、色々な事を試みたが無駄であった。酷い時は血や臓器を捧げたりしていた。
エニはそんな様子を見て、吐き気と嫌悪感を覚えながら思っていた。
(……そんな事をしても、あの人達は余計に心を閉ざすだけ……何でそんな事も、分らないの?)
無駄な事に挑戦し続けた彼らだったが、ある日、石の玉の前に黒服の男達が少年、少女を連れて来た。
少年は少女の事を気遣い、少女は少年に身を寄せていた。エニは直ぐに分かった、この二人は愛し合っていると。
また、この二人は生贄にされる為に連れて来られたという事も。
少年が少女に語る言葉をエニは聞いた。
「早苗姉さん、約束するよ。次の人生は早苗姉さんと赤ちゃんを絶対守ってみせるよ。誰より何より強く、絶対 絶対に二人を守る。だから何があっても一緒に来て」
「うん、うん、一緒に、一緒に修君と生きるわ!! 絶対に」
二人は見つめ合って互いに涙を流しながら頷きあった。
エニはそんな二人の姿を見て、自分の過去と重ねてしまった。
マニオスを愛してしまったが、告げずに死んでしまった自分。
そして互いに愛し合いながら離れざるを得なかった12騎士長のディナとウォルス。
最後に愛し合っている為に、戦い合うしか無かったマセスとマニオス。
(……こんな、こんな悲しい事は……繰り返してはならない!! 何とかこの二人を助けないと!!)
そんな思いを抱いた、エニだったが目の前の二人に触れる事も出来ない。
焦るエニを余所に二人は嫌らしい笑みを浮かべた初老の男が指示を出す。
「……さっさと始めろ。時間の無駄だ」
「お父様!! 後生です! 修君とお腹の子だけは助けて下さい!!」
初老の男を見た少女は必死な形相で男に懇願するが初老の男は少女に見下した笑みを浮かべるだけで無視した。この男は少女の実の父親らしい。男の指示で祭壇に寝かされ、二人は荒縄で口を縛られた。その上で、鎖で手足を縛られた。
そして白装束の姿の男が刃を持って二人の前に立った。
エニはその様子を見て我慢出来なくなり大声で叫んだ。エニは愛し合う二人を見て、同じ様に愛し合っていたマニアスとマセスの姿を少年達に重ねた。だからこそ放ってはおけなかった。
「馬鹿な事は止めて!! そんな事をしてもあの人達は目を覚まさないわ! 今すぐその子達を放してあげて!!」
エニの叫びは連中には聞こえなかった。エニは構わず、少年と少女の前に立ち塞がり、何とか彼らを守ろうとした。刃を持った男の手を思いっ切り引っ張ろうとしたが触る事が出来なかった。
やがて男は刃を振りかぶり、少年の胸に目掛けて突き刺そうとした。
エニはもう一度叫んだ。
「止めて!! そんな事をしても無駄よ!!」
しかし叫びは届かず少年は凶刃により息絶えた。次いで男は迷う事無く少女の方も刃を向けて、刃を頭上にあげた。
エニは堪らず叫んだ。
「誰か! 誰か! この子達を助けて! お願い!」
そんな叫びも空しく、少女の方も刃で突き刺された。怒りに狂って中々死なない為か何度も少女の体を突き刺した……
エニは死に絶える少年少女の姿を見て、戦い合い石に閉じ込められたマニオスとマセスの悲劇が脳裏に浮かんだ。
(こんな! こんな! 結末はダメだ! マセス様とマニオス様の悲劇は、もう沢山だ!!)
エニは絶叫した。心の底から、命懸けで愛しい彼らに懇願した。
「マセス様!! マニオス様!! あの二人を! 助けてあげて!! マニオス様! お願い!!」
その時である、1万3000年間沈黙していた石の玉は突然白く光り 次に明滅を繰り返した。そして丁度時を同じくして息絶えたばかりの少女の体が大きく痙攣を繰り返した。
痙攣を起こしていた少女のお腹は不自然に大きくなった。其れに追従するかのように、石はさらに激しく明滅を繰り返した。
そして……
“ビカッ!!”
突然、石の玉は稲妻のように周囲を真っ白にするほど光った。
静寂に包まれた中、エニは息絶えた少年と少女の姿を見ると安らかな顔をして事切れていた。
事切れた少女の足もとには……
眠っている首だけの女の子を抱えた一歳くらいの男の子が立っていた。男の子は殺された少年に瓜二つで女の子の方も死んだ少女の顔その物だった。ただし、女の子の首から下は体が無く動物の手足の様なものが何本も生えていた。
エニは女の子の姿に驚愕したが、一目で分った。目の前の幼児達はマニオスとマセスが転生した姿なのだと。
エニが石の玉を見ると、石の玉は……割れていた。そして石の玉には何の気配も無い、もぬけの空だった。マニオスとマセス以外の騎士達も石の玉から抜け出た様だ。
エニは目の前の幼児に大声で呼びかけた。
「マセス様!! マニオス様!! わたしです! エニです!!」
しかし、エニの叫びも空しく幼児達には届いて居ない様だ。そこに、嫌らしい笑みを浮かべていた初老の男が叫んだ。
「でかした!! 早苗!!」
その叫びに女の子は目を覚まして……
「グゥゥギギィイイイオゴォォォ!」
人間では理解出来ない何かを叫んだ。
……瞬間。
地下実験場にいた全ての者達が昏倒した。エニはその状況に驚いたが、目覚めた彼らが能力を発動したのだ、と理解した。
しかし地下室にいる連中は、その状況に驚いた為か、生まれたばかりの幼児たちを炎で焼き尽くそうと、豪炎を放射した。
エニはその様子に絶叫し、制止させようとした。
「……!! 止めて!! 止めなさい!!」
だが、エニの心配は杞憂だった。放射された豪炎は展開された障壁により彼らを焼き尽くす事は無かった。男の子の右手が前に差し出され、その掌の前に全ての炎は球状に収束されている様だった。
そして、女の子が首の下から生えている動物の様な手足の一本を動かして、そっと男の子の右手の甲に重ねて、一言呟いた。
「ゴゥゥィエァ……」
――瞬間、男の子の右手の前の収束された炎の玉が真っ白に輝き巨大化した。そして男の子を中心に真っ白な光は広がり、突然すさまじい衝撃が生じ、凄まじい大轟音と共に全ては吹き飛ばされた。
“ドドドォオオン!!!”
全てが終わった後、エニは瓦礫の下に埋もれていた。瓦礫を抜け出て周囲を見ると……
石が置かれていた地下室は幼児達が居た祭壇を中心にすり鉢状のクレータが形成され、天井部が吹き飛んで星空が見えていた。地下室の周りはあちこちで大きな火災が発生している。
幼児達の居る祭壇は白く光る障壁で保護されていた。祭壇には少年と少女が息絶えており、彼らに寄り添う様に幼児達が眠っていた。
エニは幼児達に呼び掛けた。
「マセス様! マニオス様! 目を覚まして下さい!」
しかし、エニの声は幼児達には届かなかった。エニは幼児達に近づこうとしたが展開された白い障壁により魂となったエニも近付けなかった。
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