8)最後の戦い-4(封印そして旅路へ)

 マセスが展開した障壁に阻まれたディナは、悲痛な顔をして叫ぶ。


 「マセス様!!」

 「……ディナ、ハァハァ……すべては私の責任……うぅ、私自身の魂でマニオスが助かるなら何の問題もありません」


 マセスはアーガルムにとって根幹である魂を分け与えているせいか生気が無く辛そうだ。そんな様子見て分ったディナが叫ぶ。


 「しかし!!」


 「うぐ、違うのです、ディナ。ハァハァ……これは私がそうしたいのです……そ、そしてエニもここにいれば迷わずそうしたでしょう……うぅ……わ、私はマニアスの迷える心は救えなかったけど、ハァハァ……せめて命は助けたい……マニオスを愛したエニもそう望むでしょう……」


 「マセス様!! 今すぐやめるんだ!!」

 「お止め下さい!!」

 「他に方法が有る筈です! マセス様!」


 マセスの覚悟の言葉を聞いて、他の騎士達も慌ててマセスを制止した。



 過去映像を見ていたエニも詳しい事情は分からないがマセスに危険が迫っていると思い何とか止め様と叫んだ。


 「マセス様!! お願い、やめて!!」


 エニの叫びも空しくマニオスにマセスの魂は注がれ、マセスは急激に弱っていく……



 マセスに魂を注がれている状況の為、体が動かせないマニアスはマセスを救う為、ある決断をした。マニオスが自分の意志でマセスを止める方法は唯一つしかない。


 ……封印だ……


 巨像に堪っている力の一部を使い、マセスとマニオスを封印する事でマセスを止める事が出来る。封印されている間は魂の働きは一切停止する。マセスの魂の分与も停止する筈だとマニオスは確信した。


 巨像は左目を介して廻した魂の一部で制御されているのでマセスからの干渉は影響が無かった。


 何もしなければ、待って居るのはマセスの消失だ。其れは、其れだけは絶対に許容できなかった。エニを失ったマニアスには耐えられなかった。


 その為、マニオスの決断は早かった。


 

 まず、マニオスは“心通”による精神通信で此処にいる6人の騎士長とアガルティアにいるウォルス達、残りの騎士長達に此れから起こす事、今後の方針を一方的に伝えた。


 (……皆、聞いてくれ……俺とマセスは……もうすぐ封印される……すべては愚かな俺を救わんとするマセスを守る為……アガルティアは今、崩壊寸前……俺が居なくともマセスが居れば扶翼の力で皆を支えられるが……俺とマセスの二人が不在の中ゲユラヒーエ国の残党どもやワエルクメト国が舞い戻れば確実にアガルティアは滅ぼされるだろう……それだけは、何が有っても絶対に避けねばならない……その為、巨像に溜めたすべての力を使い切りアガルティアを凍結保護し、その上で別次元に転送する)


 “本気ですか!! お館様!”

 “オイオイ、馬鹿なこと止めろ!!”

 “もう一度ご再考を! お館様!!”


 一斉に騎士長達から非難の声が上がるがマニオスは意に介さず、“心通”による精神通信を続ける。


 (……すまない、マセスの魂を救う為には封印しかない。このままでは確実にマセスは消滅する。そして俺たちのせいでアガルティアの民に危険な目に合わす訳にはいかない。

 どうか分かってほしい……全ては俺一人の責任だ……お前たちに当主として最後の指示を出す。どうか最後だと思い聞いて欲しい。 

 一つはアガルティアの国と民達の事を頼む。今のアガルティアはゲユラヒーエ国の攻撃により非常に危険な状態だ。民の安全を第一とし国の再興を優先してくれ。

 もう一つはマセスの事だ。封印が解けた際、俺たちは適当な器に転生する筈だが、どうかマセスを守ってほしい。方向性は違うがマセスは常に俺たちの平和とエニの残した想いの為戦っていた。だから彼女には罪はない。全ては混乱を招いた俺一人の責任だ……どうか彼女を助けてやってくれ。以上の事を最優先事項として守ってほしい……それでは……始める)


  “お館様!!”


 一方的に“心通”による精神通信を切ったマセスに対し、アガルティアにいるウォルスが叫ぶがもう届かない。



 マニオスは巨像が周囲からため込んだ莫大なエネルギーを行使した。


 巨像から激しい光が迸り、空中に浮かぶアガルティアの国を一瞬で包む。そして……


 “ガガキキキイン!!!”


 そんなつんざく様な大音響が響いて、アガルティアの都市全体が凍結された。



 次いで凍結されたアガルティアの背後に渦巻く巨大な黒い闇が現れた。別空間への扉だ。


 “ズズズズズ!!”


 巨大な闇は静かに凍結されたアガルティアを飲み込んでいく……それと同時に、巨大な巨像は力を失いつつある為か、崩れ出した。


 “ゴゴゴゴ!!”


 そんな音を立てながら巨像は砂に戻って行く。



 「マ、マニアス? 貴方一体……?」


 アスガルティアの変化に驚いたマセスが魂の分与の為か弱弱しくマニアスに問い掛ける。


 「……国を凍結させ、安全な領域の別次元に転送させた」

 「な、何で……うぐ……そんな事を……?」


 淡々と答えるマニアスにマセスは力なく、聞き返した。マニアスはマセスの魂が入り込んでいる為か、容体がかなり軽減された様だ。致命傷も徐々に治ってきている。


 逆にマセスは急激に弱っている。そしてマセスの体は純白に光ったままで、魂をかなり分け与えた為か肉体の存在が既に希薄だ。そんなマセスを見ながらマニアスが答える。


 「……国を守る為に必要な事だ」

 「なぜ……?」

 「間もなく、俺とお前は封印される。マセス……お前を消滅などさせるものか……どんな手段を使ってでもお前を守る!」

 「ハァハァ……なんて……事を……マニ、オス……貴方は、分ってるの?……封印は、うぐ! ハァハァ……いつ解けるのか誰にも……分らない、のよ……?」


 マニアスの答えに苦しみの中驚いたマセスは答えるが、マニアスは微笑んで話す。


 「……その間、お前と二人きりだ……そんな旅路も悪くない……お前達……12騎士長のお前に“楔”とのアガルティアを付与する。だから……間もなく転移が始まるだろう……転移した後は民と同じくお前達も凍結保護される……凍結保護は俺が覚醒するまでの間続く。覚醒した後の俺達は転生し全ての記憶と力を忘れた“雛”となっている。その間、済まないが国とマセスを頼む……」



 マニオスはその場にいた6人の騎士長に告げ、6人に意志力を送った。すると6人全員に白い靄の様な光が纏い、やがて吸い込まれた。マニオスの言う“楔”だろう。


 「マニアス様! アンタ、其れで良いのか!? アンタ……何時だって一人で決めちまって、一人で突っ走って……残されたモンの事考えた事アンのかよ!」

 

 堪らずマニアスに食って掛かったのは12騎士長のリジェだ。彼女は泣きながらマニアスを責める。


 「済まない、リジェ……マセスを失う事だけは有り得ない……そんな事になったらエニに怒鳴られる……」

 「……マ、マニアス……」


 マセスは苦しみの中マニアスの顔を涙ながらに見つめる。マニアスがマセスの事を思っての行動が嬉しくも有り悲しかったからだ。

 やがて、マニオスとマセスの体に黒い靄の様なモノが纏わり始めた。封印が始まったのだ。封印は対象の魂だけを石に閉じ込める技だ。封印された魂は、封印が解かれるまで眠った状態になる。

 


 黒い靄は球状にマニアスとマセスを覆い、二人の体は光り始めた。もう間もなく二人は封印され、長い時を過ごすだろう。


 「……あぐ!……ハァハァ……マニアス……此処まで来たら……止められない……うぅ……魂の分与は後、もう少しで……うぐぅ!……終わると言うのに……馬鹿な人……」


 そう言って弱ったマセスはマニアスに体を預け涙を流しながらキスをする。


 「お前を失う事だけは有り得ない……エニの様な想いはもう……嫌なんだ……お前達……済まんが、後は頼むぞ……」

 「「「「「「…………」」」」」」



 言われた6人の騎士達は何も答えない。彼らは顔を見合わせ何かを企んで居る様だ。


 もう間もなく封印が始まろうと黒い靄が完全に球状になった時、6人の騎士長達は、合図したかのように一斉にマニアスとマセスに寄り添った。

 ”ダッ!!”


 驚いたのはマニオスとマセスだ。彼らに強く問い掛ける。


 「止めろ! 此れではお前達まで封印されるぞ!? 俺の命に背くのか!?」

 「貴方達……今すぐ止めて……うぐ!……」



 すると6人の騎士達長達は互いに悪戯っぽく笑い軽口を叩いて答える。


 「……先程、お館様が下した最後の命令は確かアガルティアとマセス様の件の二つだけと思っておりますが?」

 「ぐすっ、そうだぜ! だ、だから此れは命に背いた訳じゃねぇ!」


 そう泣き笑いながら軽口を叩くのはガリアとリジェだった。


 「私が進む道はお館さまと共にある!!」

 「……うむ!!」


 強く答えたのは静かな男性騎士トルアだった。そのトルアにドルジが強く頷く。


 「僕は何時だってお館様に仕えると言った筈!! 何処へでもお供します!」

 「そうよ!! 私だってマセス様とマニアス様と共に行くわ!」


 ロティとディナも強く答える。


 そんな6人の騎士長達にマセスは上を向いて一言呟いた。


 「……バカ者どもめ……勝手にしろ……」


 黒い靄はマセスとマニオスと6人の騎士長達を完全に包み、大きな球状になった。中に居る彼らの体は真っ白に輝いている。やがて黒い靄は急速に絞られる様に小さくなり黒い球も小さくなっていく。



 封印が始まったのだ。そんな最中、マニアスが呟く


 「……エニ……お前との約束少し時間が掛かりそうだ。しかし真の平和は必ずお前の生きる時代に、必ずもたらすと約束しよう……其れまでは小汚いマールドム共……貴様らの命運……預けて置こう……精々祈るがいい」

 「……マニオス……貴方は……まだ……」


 “ゴゴン!!”


 マニアスとマセスが呟いたが最後、黒い靄の玉は一瞬で圧縮され、大きかった黒い靄の玉は真黒い1m位の石の玉に形を変えた。

 


 同時に、黒い闇にアガルティアは完全に飲み込まれた。それを見届けるかのように、崩壊が進んでいた巨像は一瞬真白く光り……


 “ドガガガガアア!!”


 突如爆発し、巨大な火球を形成し、その後、豪炎が立ち上った。


 

 その過去映像を見て、エニは叫ぶ。


 「マセス様!! マニオス様!! 皆! こんな、こんな事って!!」

 

 記録映像を見ているだけのエニには細かい事情は分からない。だが、目の前の映像は、只事ではない事だけは分り、声を大にして叫ぶ、しかしその叫びは誰にも届かない……



 マセスが守ろうとしたマールドム達は、何とか逃げ延びる事が出来た様だ。もはや彼らが最後のマールドム族だった。残された彼らがやがて文明を広めていく事になる。

 そして辺りは静寂が支配していた――

 


 ここで記憶映像は途切れていた……


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