7)最後の戦い-3(二人の想い)
地上に居たマールドムの兵士達が歓声を上げる。
「一匹! 殺してやったぜ!」
「まだだ! 止めを刺せ!」
「ウオオォ!! 凄い力が湧いてくるぜ!」
一斉に叫びながら、強化された生き残りの兵士達はマセスに凄まじい速度で迫る。
「マセス!!」
驚愕したマニアスは大急ぎで降下し落下したマセスを地上すれすれで受け止める。そして地上でマセスをそっと寝かせ彼女に叫ぶ。
「マセス!! しっかりしろ!」
対してマセスは血を吐きながら答える。
「だ、大丈夫よ……」
アーガルムは人類より生命力が強いため、刺された位では死なない。ほっとしたマニアスは背後から迫る兵士達に気付かなかった。
その様子を映像で見ていたエニは叫ぶ
「マニオス様! マセス様! 危ない!」
しかし……
“ザス!” “ガシュ!” “ザン!”
生き残った兵士達は一斉にマニオスに切り掛かった。普段のマールドムの攻撃なら傷など追わないだろう。しかし彼らを攻撃したのはマセス自身が強化した人外の攻撃力を持つ兵士達だ。マニアスは油断していた事も有り大きなダメージを喰らってしまった。
「ぐう! 貴様ら……死ぬがいい!」
マニアスは大きな傷を負ったが一瞬で再生し、腕から光を放った。
“カッ!”
“ガガン!!”
そうして襲ってきた兵士達を皆殺しにした。
「……マールドムの為尽力してきたマセスを襲うとは……クズ共が……やはり奴らは害悪でしかない!! 今! 此処で滅ぼしてくれる!!」
マニアスは怒りに狂い、このまま残るマールドムを殲滅しようとした。
腕をマールドムの残党に向け手の平に非常に強力に意志力を込めた。
“ギキイイイイイイン!!!”
先ほどの山を吹き飛ばした破滅の光より圧倒的に強力な力が集まる。そして迷う事無くマールドムに放とうとしたが……
「ダメよ! マニアス!!」
そう言って、先程まで横に寝かされていたマセスが突如立ち上がり、マニアスの腕を掴んで制止しようとした。マセスの立ち位置では放つ光がマセスに命中してしまう。
そんなマセスに慌ててマニアスは腕を曲げて光の方向に変えようとした。しかしマセスが掴んでいた為、余計な力を入れてしまい反動で右腕が自身の左肩の方に向けてしまった。そして……
“ガガガアアアン!!!”
マニアスを中心に大爆発が起こった。先程ディナが放った攻撃よりも遥かに大規模な爆発だった。爆発の後、そこには豪炎が立ち上っていた。
その爆発を過去映像で見たエニは震えながら叫ぶ。
「な、何て事!! マ、マセス様!! マニオス様!!」
エニにも分っていた。自分が見ている映像が過去のモノだと……しかし、目の前に繰り広げられるショッキングな状況に我を忘れて叫ばざるを得なかった。誰もその声を聞く事は無かったが……
豪炎が立ち上る中、突如、中から強力な風が発生し、立ち上る豪炎を一瞬に消し去った。
“ゴォオウ!!”
豪炎を消し去ったのはマニアスだ、ひどい重傷を負ってしまっている。左肩と左胸が大きく抉れており明らかな致命傷だ。
マニアスの眼前にはマセスが居る。マセスもマールドムによって与えられた胸の傷と、先程の爆発により右腕を大きく損傷している。どちらも酷い怪我だ。
二人とも、よほど消耗しているのか傷も治そうとしない。
互いに致命傷を受けた状態で、マニアスが苦しそうな息を吐きながらマセスに問う。
「ハァハァ……何故だ、マセス……奴らはお前を殺そうとした……にも関わらず、うぐ……何故庇う?」
問われたマセスも苦しそうな息を吐き、
「うぐ……さ、さっきも言った筈……ハァハァ……マールドムの中には沢山のエニが居るの……その子達の殲滅を、エニを愛した貴方にさせる訳にいかない! きっとエニもそんな事は望んでいない! エニは、最後まで諦めなかった……ならば、私も諦める訳にいかない!」
「……ハァ、ハァ俺も同じ思いだ……エニの様な子を、グウ……こ、これ以上生む訳にいかない!! 不幸の連鎖はマールドムが常に呼ぶのだ! 不完全な奴らは此処で殲滅し、その連鎖を断ち切る!!」
そう言って、マニオスは左目の眼孔の白い光を激しく光らせる。すると……
“グウウウウオオオオオオウ!!!”
そんな叫び声を上げ、完成途中の巨像が再度動き出した。胸から上だけが完成している巨像は巨大な単眼をマールドムが居る方に向けた。やがて単眼は真白い光を徐々に放ち出した……
“ギュイイイイイン!!!”
巨像は音を立ててその巨大な単眼に破滅の光を溜めている。
「うぐ……巨像は、いかなる攻撃も無意味……そしてアレの放つ破滅の光は星を抉る……そこに居るマールドム等……一匹残らず消し去るだろう……ハァ……ハァ」
マニオスは巨像を起動した瞬間から激しく消耗し始めた。元より巨像を完成途中とはいえ維持するだけでも莫大な意志力を行使する必要が有った。その為、致命傷だったとしても傷など治す余裕が無かった。
従って、致命傷を負った状況では巨像を動かす事自体で死期が高まっている。顔は痛みと苦しみでゆがみ、立っているのもやっとの様だった。見るからに取り返しのつかない危険な兆候だ。しかしマニアスは止めようとしない。自身に死が近づこうとも、一歩も引かない姿勢だった。
其れを見たマセスはマニオスの事情を察し唇を噛み、涙を零す。
そんなマニアスとマセスの元に騎士長達が降りたち、各々叫ぶ。
「マニアス様! もうお止め下さい!そのお怪我で、巨像の起動は消耗が激しすぎます!!」
「危険です! マニアス様!!」
「マセス様! 此処は一旦引きましょう!!」
しかし二人は聞く耳を持たなかった。
“キイイイイン!!”
マセスはそんな音を立てながら自身の体を真白く光らせた。自分自身に強力な負荷を掛けて居る様だ。マセスも深い重傷を負っているが治す気が無い様だ。武器も持たず、真白く光輝いた体でマセスはマニアスに凄まじい速度で迫った。
”ビュン!!”
対するマニアスにはマセスが決死の攻撃を仕掛けてきたと判断した。そこでマニアスは右手を上げて迫るマセスを迎撃し、牽制しようと考えた。左手が使えず、自身にも死期が迫る中、加減は難しいが、マセスなら簡単に避けられるだろうと……
“ギュン!”
眼前に迫るマセス。対してマニアスは右腕を振り降ろした。きっとマセスは回避すると予想して。
しかし……
“ザン!!”
マセスは避けようともせず、マニアスの右手の斬撃はマセスの左肩から胴までを斜めに深く切り裂いてしまった……
「馬鹿な!! マセス! 何故避けなかった! お前なら出来た筈!」
叫ぶマニアスにマセスはそのまま突進してそのまま激突した。
“ドゴオォ!”
「マセス様!!」
「マニオス様!!」
「お館様!!」
6人の騎士長達は一斉にマセスとマニオスの元に駆けよった。
過去映像を見ていたエニも思わず叫ぶ。
「マセス様! マニオス様!」
此処でも声は届かなかったが……
マセスとマニオスの所に皆が集まると……そこには、マニオスを押し倒したマセスの姿があった。マセスは涙ながらに言う。
「ウグ……マニオス……ご免なさい……わ、私がマールドム達に寄り添ったばかりに……分ってとは言わないわ……ハァハァ……私はどうしてもエニの想いを守りたかったの」
そう言ってマセスはマニアスの体に自身の輝く体を預けてキスをして……更に体を発光させて、マセスは自分の魂をマニアスに与え始めた。
“キイイイイン!”
慌てたのはマニアスだ、既にマセスが魂を与えている影響で満足に動けない。
「や、やめるんだ!! マセス! お前自身も危険な兆候だ! そんな状態で魂を俺に与えたら!」
叫ぶマニアスにマセスは静かに答える。
「ハァハァ……いいのです……マニアス、私には分りました。貴方は最初から死ぬ心算ですね……だから、傷も治さず、致命傷のまま巨像を起動した……ハァハァ……アレは魂を著しく消費する。激しい損傷を負った貴方の魂では……貴方は助からない」
「…………奴らを殺した業を背負うのは俺一人で良い……元より、その心算だった」
「いいえ……貴方一人に押し付けない。私が全ての責任を取ります……ハァハァ……私自身の魂を貴方に捧げ、貴方を生かします……」
「!!……やめろ! お前は! お前だけは! 死なさない!」
そう叫ぶマニアスを余所にマセスは体を更に発光させ、マニアスの魂に自分の魂を注いでいく。魂の分与は一度始めると止める事は出来ない。
そしてマセスの魂も先ほどまでの激しい戦いにより消耗していた。このままでは確実にマセスは消滅する。それを知っているディナが叫んで制止する。
「いけません!! マセス様! それ以上は止めて下さい!!」
そう叫んだディナはマセスを押し退けて止めさせようとしたが……
“キン!”
突如、マセスが弱った状態にも関わらず障壁を展開しマセスとマニオスに近付けなくなった。
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