5)最後の戦い-1(殲滅の巨像)

 鎧を纏い立ち塞がるマセスとディナ。その状況を見たマニオスは小さく溜息を付いて、静かに話した。


 「結局の所、騎士である我々は言葉だけでは事は決まらんか……やむを得ん、出来るだけ傷付けぬ様に一瞬で終わらせよう」


 “ズニュ!”

 

 そして、徐にマニオスは自身の左手で、己が左目を抉り取り、左手で握りつぶしてその血を地面に注いだ。すると……


 “ズズズズズズズズ!!!”


 そんな地響きとともにマニオスの足もとに巨大な何かが蠢きだした。それは巨大な単眼だ。大きさは200mは有る。巨大な目は盛り上がり、形を成そうとしている。


 圧倒的に巨大な何かを……


 そんな状況の中、静かにマニオスは語る。マニオスの左目は眼孔の中に白い光が生まれている。


 「俺は“此れ”でゲユラヒーエ国を滅ぼし、ワエルクメト国を追放した。残るは小汚いマールドムだけ……お前達に出来る事等何も無い。もう諦めろ……」


 成長を続ける何かを背にしてマニオスは静かに語る。


 その様子を見た、マセスは恐怖と緊張で身を強張らせる。横に控えるディナも同様だ。マセスは気丈にも叫ぶ。


 「私は! 諦めない! エニと、私の願いの為に、必ず! 貴方を止めて見せる!」


 そう叫ぶマセスに対してマニオスは不敵な笑みを浮かべて油断なく宙に佇んでいる。


 「……添翼のマセス、参ります!!」

 「……殲滅の巨像マニオスお相手致す」

 

 そしてマセスとディナは圧倒的に不利な状況の中、マニオスに飛び掛かって行った。



 エニが見ている過去映像は途切れることなく状況を映し続ける。エニは映像では有るが二人に叫ぶ。


 「お願い! 止めて二人とも! 戦わないで! 如何して二人が……」


 そう言って涙を流すが……誰も応えてはくれなかった。



 空中に佇むマニオスに対し、空を駆け迫る、マセスとディナ。


 マセスがディナに叫ぶ。


 「まだ、巨像は完全じゃない! 巨像が完成したら、私達に万が一つの勝ち目は無いわ! 巨像が完成しきる前にマニアスを止めないと!」

 「分りました! マセス様! 私は巨像を抑えますので、マセス様はマニアス様を!」

 「ええ! 分ったわ!」


 マセスとディナは空中で二手に別れようとしたが……



 すると二人の前に、ガリア達5人の騎士長が立ち塞がった。5人の騎士長達は悲しそうな顔をしている。その中で生真面目な性格のガリアが口を開く。


 「……マセス様、此処はどうかお控えください。マールドム殲滅はアガルティアの国是です。マセス様が行っている事は背信行為に当たります。どうか武装を解除して我らと共にアガルティアに戻って下さい……お願いします」


 ガリアは目を赤くしてマセスに懇願する。しかしマセスは……


 「……久しぶりね、ガリア……私達の事を心配してくれて有難う……でも! 私はエニの想いを無駄には出来ない!」

 「……マセス様……」


 ガリアがマセスの拒絶を受け呆然としていると後ろからマニアスが静かに問う。


 「……お前達……何故付いてきた? 俺はウォルスと共に城の警護を命じた筈だが?」


 マニアスの問いに対し、静かな印象の男性騎士トルアが答える。


 「同じアーガルム族のゲユラヒーエ国とワエルクメト国が消えた今、我が国にとって残る脅威はマールドム族のみです。その殲滅にお館様お一人行かすと有っては騎士の名折れ。命令に背いた処罰は後でお受けします。今は御傍に控える事をお許しください」


 トルア達5人の真剣な眼差しを受けたマニアスはふぅ、と溜息を付いて呟いた。


 「……勝手にしろ……しかしマールドム殲滅は俺一人でやる。皆を守れなかった、俺の当主としての責務だ……お前達は手を出すな」

 「「「「「ハッ」」」」」


 マニアスの指示に5人の騎士長達は一斉に答えた。


 そしてガリアが二人の前に立ち、降伏を強く促した。


 「マセス様、ディナ……武装解除をしてこちらへ」


 ガリアだけでなく他の騎士長達も二人に迫る。

 


 迫る騎士長達に対し、マセスとディナは一旦急速度で後退した。


 “ギュン!”


 ここでディナは背後に逃げ惑うマールドムを見た。ディナはマセスと違ってマールドムなどどうでも良かったが、仕えるマセスの為だけに彼らを守っているだけだった。


 「マセス様! 私に考えが有ります! 一度、彼らの所へ」

 「……ええ、分ったわディナ」



 マセスとディナはマールドムの所に戻った。そこにはマールドム軍の兵士達が沢山居た。


 ディナが彼らに叫ぶ。


 「マールドムの兵士達! お前達は逃げ惑うだけで良いのか!? 此処におられるマセス様はお前達の為にお一人で戦っておられるのだぞ! 貴様たちも力を貸せ!」


 すると彼らマールドムの兵士達は力なく各々呟く。


 “しかし俺らは、アンタらみたいに戦えねぇ”

 “どうやってあんなバケモンと戦うってんだ”

 “そんなの無理だ……”


 彼らの呟きを聞いたディナは戦う気力の無い彼らに呆れ、マニオスの代わりに彼らを殺してやりたかったが、我慢して自分の考えをマセスに伝える。


 「マセス様、私が彼らに“雷同”を使って従わせます! そこでマセス様は彼らに“扶翼”を掛けて力を与えて下さい!」


 ディナが言う“雷同”とはディナが持つ固有の能力で対象の相手の意志を無視して従わす能力だ。そしてマセスの“扶翼”もマセスだけの能力で使った相手の存在能力を劇的に向上させる力だ。非力なマールドムでもマセスの“扶翼”を使えば超人化する。


 「……でもディナ……疲弊している彼らを戦わす訳には……」

 「いいえ! マセス様! どうせこのままでは彼らは全滅します。マニオス様だけでは無く騎士長達も居るのです。万が一にも彼らが助かる道は有りません。それなら少しでも可能性が有る道を選ぶべきです」


 そう言ってディナはマセスを強く促す。実はディナにとってマールドム等どうでも良かった。ディナが考えたのはマセスを何とか守る為に絶望的な戦力差を埋める為に利用する考えだった。


 しかしこの作戦が悲劇の切っ掛けになる事になる……



 「其れでは行きます!」


 そう言ってディナは両手を眼前に向かい合わせにして、手の平を白く光らせた。次いで両の手の平を前方に突き出し、戦う意志の無い兵士達に光を注ぎ、“雷同”を掛けた。すると兵士達の瞳から光が消え、意志が奪われた。


 「……其れじゃやるわ……」


 マセスも続いて、“扶翼”を使った。自身の体を白く光らせ、両手の平を頭上に上げた。手の平を中心に光の輪が生じ、それが広がりながら羽毛の様な光を舞い散らせる。

 光に触れた兵士達は体の表面が薄く光っている。マセスの意志力が付加され身体能力等が劇的に強化された様だ。


 その様子を見たディナが自ら操る彼らを使って戦闘に参加させた。


 マールドムとはいえ、マセスにより強化されディナが操る事で兵士たちは強力な戦力となった。空を飛べない彼らにディナは成長を続ける巨像を攻撃させようとした。



 彼ら、マールドム兵士の人外の動きを見たガリア達は地上に降りて、彼らに応戦した。


 その様子を見たディナはマセスに話す。


 「……今です、マセス様。騎士長達は兵士達に気を取られています。もう一度、マセス様はマニアス様の所へ。私は巨像を攻撃し、完成体になる前に破壊します!」


 そうして二手に分かれたマセスとディナは、マセスは空中に浮かぶマニアスへと向かう。ディナは地面で蠢いている巨大な何かの元へ向かう。



 地面で蠢いているそれは、巨大な単眼の何かだ。地面の砂を黒曜石状に変えながら、急速に形を成している。


 単眼の直径は200mは有ろうか……単眼は円筒形の筒の様な端面に現れている。今地面で形成されているのは巨大な何かの頭部に当たると予想される。


 今の所、頭部しか現れていないが単眼の部分が顔に当たり、円頭部が首に当たると考えると、体を成した時の全高は1000m近くになる……


 そんな巨大なモノが動き出す事を予想すればどう考えてもマセスとディナには勝ち目は無いだろう。



 ディナは地面の単眼に向けて攻撃を開始した。ディナは真黒い黒曜石状の鎧を纏っている。鋭角な形状の其れは甲虫の様な形状の鎧だった。そしてディナが得物として持っていたのは双剣だ。鎧と同じく黒曜石状の材質だった。


 ディナは双剣に意志力を込めると、黒い双剣は真白く輝きだした。


 “キイイイイイイィン!”


 白く輝く双剣は強力なエネルギーが込められているのが分る。


 「喰らいなさい!!」


 ディナはそう叫びその輝く双剣を、成長を続ける単眼に振り降ろした。


 ”バシュン!!”


 双剣から十字に交差した眩い光の刃が超高速で放たれ、単眼の頭部に命中した。


 “ゴガガガアァァン!!!”

 

 大地が震える様な爆発音を上げ、地上に数百m級の火球が形成され、単眼の頭部は豪炎に包まれた。爆発の衝撃波で大地が震えたがディナの攻撃を見たマセスは地上に障壁を展開し地上に居た兵士達や逃げ惑うマールドム達に被害が及ばない様にしていた。



 ディナの双剣による攻撃は先程、マニアスが放った破滅の光にも劣らない破壊力だ。この時点で、単眼の頭部はマニアスが消滅させた山同様、崩壊したかと思われたが……


 “ズズズズズ!!!”


 単眼の頭部は全く傷ついておらず、それどころか寧ろ、巨大化して、円筒形の首から肩の部分が形成されつつ有った。


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