4)すれ違う恋人たち

 次に急に過去映像の場面が代わり、言い争っているマセスと“彼”の姿を映した。


 「一体どう言う心算!? 降伏したマールドム軍を殲滅するなんて!? 戦いは終わった! もう彼らに戦う力なんか無いわ!」


 「……戦いが終わった?……寝ぼけるな、マセス……まだ、奴らが残っているだろう? 奴ら! 小汚いマールドム共を一匹残らず殲滅しない限り! 真の平穏は訪れない!」


 「本当にどうしてしまったの、貴方!? 昔の貴方は、そんな事絶対言わなかった! 確かにマールドム族は間違った戦いを起こした! だけど戦争はもう! 終わったの!」



 マセスの話を聞いていた“彼”が突然、右手を上げ、その手から、光を放った。


 “キュン!”

 “ガガガガアン!!”


 その光の所為で、城の天蓋に大穴が空いた。


“彼”が怒りの為、放った一撃だ。落ち着きを取り戻した“彼”は静かにマセスに語る。


 「……この話は、今はもう終わりにしょう、マセス。マールドム殲滅は愛するお前の為でも有るんだ……そして、いつか転生するエニの為にも……」

 「……エニの為、なのね?……」

 「……お前達アーガルム全員とエニの為さ」


 そう言ってマセスを抱き締めてから、“彼”は12騎士達を引き連れ、その場から離れた。


 「エニ……私はどうしたらいい? エニ、貴方さえ居てくれたら……こんな事には……」


 マセスは一人になったその場で静かに涙にくれる。


 

 エニはそのマセスの姿に駆け寄って抱き締めようとしたが触る事すら敵わなかった……



 次に映し出された過去映像では、“彼”の配下の12騎士長の姿が映し出された。


 映っているのは二人、エニに対し特に良くしてくれたセミロングの女性騎士とその恋人のアッシュブロンドの若い男性騎士だった。


 彼らの話が聞こえる。とても悲しい雰囲気だった。


 「……どうしても行ってしまうのかディナ」

 「……御免なさい、ウォルス。私はマセス様を一人にはしておけない」

 「しかし、マセス様はマールドム側に付く心算だぞ、それはこのアガルティアの国是と異なる……それは明らかな背信行為だ。俺からもう一度マセス様に上申する。だから考え直してくれ、ディナ」

 「無駄よ、あれ程愛した“彼”の言葉でもマセス様は変わらなかった。私や貴方が幾ら説得した所で同じ事よ……」

 「しかし、このままでは……君と、俺は……」


 「ウォルス、私は貴方に誓う。戦災孤児の私はマセス様に拾われ、マセス様の近衛騎士を経て12騎士長になった。だから、マセス様への忠誠は変わらない。だけど、同じ様に貴方への愛は変わらない、此れだけは絶対に。

 私がマセス様の傍に仕えてマセス様を説得する。そしてマセス様を連れてこの国に戻ってくるわ……だから……それまで待ってて欲しいの……」


 ディナと呼ばれた女性騎士は涙を堪えきれず、俯き呟いた。其れに対しウォルスは、彼女の肩を掴んでしっかりと伝えた。


 「ああ、幾らでも待つさ。ディナ。俺の隣は君しか有り得ない」

 「……ウォルス……有難う……」


 ディナは泣きながらウォルスに口付した。ウォルスは、そんなディナを静かに抱き寄せた……


 エニは二人の悲しい様子を見て彼らに呼び掛けようとしたが無駄だった。エニは無力感で一杯だった……



 次の過去映像を見てエニは絶句した。死体だ、沢山の……死体が延々と転がっている。


 死んでいるのは、あの侵略軍の兵士達だ。いや……兵士だけではない、老人や子供達、男女の区別なく余りにも多くの死体が転がっている。死んで目を見開いているがその目は黄金色ではない。死んでいたのはエニと同じく、マールドムと呼ばれる種族だった。


 (なに、これ……一体、何が?)


 “ドドドオン!!”


 当然、遠くから轟音が鳴り響いた。その方向を振り返ると、土煙が立ち上っている。その背後にはエニ達が暮らして居た国が浮かんでいた。よく見るとボロボロで崩壊寸前だ。一体何が有ったのだろうか。


 エニは音がした方に意識を向けて、一瞬でその場に移動した。



 すると、そこには……



 “彼”が宙に浮かんで佇んでいた、一人で。いや、正確には彼の遠く後ろの方には5人の騎士長が居た。

 その中にはあのロティも居た。他には陽気なリジェや、巨漢のドルジ達の5人が居た。あのウォルスは居ない……彼を含むその他の騎士長は崩壊寸前の城の方に居るのか、ここには居なかった。


 5人の騎士長は“彼”に同行を認められていないみたいで“彼”から距離をかなり空けて浮かんでおり、“彼”を見守っている様子だった。

 

 一人佇む“彼”の正面にはマセスが居た。そしてマセスの背後には、敗走する非常に沢山のマールドムの民と、12騎士長の一人ディナが居た。

 

 “彼”の背後には先ほどエニが見て来た様に沢山のマールドムの死体が転がっていた。“彼”が1人で殺したのだろう。


 その“彼”が笑顔でマセスに語る。


 「……久しぶりだな、マセス。会えて嬉しいよ」

 「……私も嬉しいわ、“マニオス”こんな場面じゃ無ければね」


 マセスは“彼”の事をマニオスと呼んだ。それが彼の名前の様だった。


 「そうだな、早く終わらせるから、共にアガルティアに帰ろう」

 「……もう、やめましょう。マニオス……此処にいるマールドム達は戦う力も気力も無い……どうか見逃してあげて欲しい……」


 「……見逃す? ふざけるなよ、マセス。一体誰が戦いを始めたと思っている? さっきお前は“見逃せ”と言ったな? そいつらは! 一度でも見逃した事があったのか!? 城に居る孤児の子供達の親、兄弟、友人! 安置されている兵器にされた物言わぬ子供達! 彼らを守り救う為に戦った騎士達! ……そしてエニも!!…… そいつらは一度も見逃さなかった!……

 だから俺もアガルティアの当主として見逃さない……一匹残らず殲滅する!……だがお前とディナは傷付けないから安心しろ」


 “彼”いやマニオスは強い口調でマセスに話した。そして何気にマセスの背後に広がって逃げ惑う沢山のマールドムを見つめた。次に右手に軽く光を集め、マセスやディナに当たらない様大きく距離を取って放った。


 “ボヒュン!!”


 放たれたその光は逃げ惑うマールドムを一掃するには十分な破壊力を秘めていたが……


 “シュン!”


 マセスが一瞬で放たれた破滅の光の前に転移して何重もの光の壁を展開し、受け止めた。


 “ガガガガイン!!”


 「ぐうぅ!! はあぁ!!」


 受け止めた破滅の光は、マセスが何とか軌道をずらして方向を変え、遥か右側遠方の山の方に飛んで行った。破滅の光は山に命中し、そして……


 “ドガガガガガアァン!!!”


 大音響の轟音と共に山が大爆発し、山が消滅した。山が有った場所には豪炎が立ち上っていた。


 その様子を呆然と眺めるマールドム達は、恐怖の為か動こうとしない。誰一人言葉も発していなかった。その様子をつまらなそうに見た“彼”いやマニオスは静かに語る。


 「邪魔をするな、マセス……今ので終わっていたのに」


 対してマセスは一瞬で転移してマニオスの前に立ち、悲しそうな表情でマニオスに語る。

 

 「マニオス、貴方は忘れてしまったの!? エニはマールドム族だったのよ! 後ろの、彼らの中にはエニの様な、いい子が沢山居るわ! エニの! エニの想いの為にも! 私は彼らを守るわ!」


 「無論、忘れていないぞ。マセス。エニは確かにマールドムだった。だが、お前こそ忘れていないか? エニは! 同族のマールドムに殺されたのだ! エニの父も同じだ! 

 分るか、マセス。マールドムは不完全だ。俺がマールドムを殲滅する事で その魂は時間は掛かるだろうがアーガルムの器たる肉体に転生するだろう……

 この星には、マールドムは不要だ。この星に生きるのが全てアーガルムになった時、真の平和は訪れる……そしてエニ、あの子も平和を望んでいた、いつだってな……

 俺が奴らを滅ぼさない限り、延々とこの不幸は繰り返され、やがてお前にも降りかかるのだ! 俺はお前を愛している! だからこそ! エニの時の様な失敗はしない!」


 マニオスの話を、目を瞑ってじっと聞いていたマセスは目を開いて涙ながらにマニオスに語った。


 「……マニオス、貴方は気付いていないでしょうけど、貴方が本当に愛していたのはエニだったのよ……だから壊れてしまった……でも私はどんな貴方でも愛している……いつだってね……そしてきっとエニも……その為に、貴方を私は止めて見せる!!」


 マセスはそう叫んで、全身を光らせた。すると……


 マセス自身が光輝く鎧を纏い、その腕には大きな錫杖が握られていた。そしてマセスの横に同じ様に黒い鎧を出現させて装着した、ディナが彼女を守る様にマニオスの前に立った。


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