【第16章】幕間 エニの旅路

1)死んでからの再会

 目覚めると、其処は真白く境界の無い世界だった。



 遮るものも何も無く、ただ……その少女はその真白い空間を漂っていた。



 (どこまでが夢、なんだろう? わたしは確かにあの時、死んだ筈……)


 少女は自分が死んだ時の事を思い起こしていた。 


 (たしか……突然襲ってきた兵隊から、あの子達をかばったら、撃たれてそして、そのまま燃やされて……そして、死んだ……)


 少女の最後はお世辞にも綺麗な死に方じゃない。惨たらしく、生きたまま焼かれて死んでいった事は少女もしっかり覚えていた。

 


 (あの子達、無事だと良いんだけど……)


 少女はそんな風に考えて漂っていると、周囲に誰か居る事に気が付いた。

 


 それは、光のカタマリだった。強く光ったり弱く光ったりを繰り返しながらそこに居た。


 少女は光のカタマリが何故か怖いと思わず話し掛けてみた。


 「あなたは誰?」


 光のカタマリは光ながら答えてくれた。声じゃ無く少女の頭の中に……


 “君を守り、導く者だ”


 わたしは頭に響くその声に覚えが有った。


 「……もしかしてお父さん!?」


 “ああ、エニ……しばらくぶりだね、でも……俺はずっと君を見てたよ“



 少女の名はエニといった。


 生前、エニは父に育てられた。エニの母は小さい時に伝染病で亡くなり、エニの父が母の代わりに彼女をずっと育てた。戦争で父が死ぬあの日まで……



 「お、お父さん、会えて……ホントに良かった……グスッ うぅ うあぁあん!!」


 エニは久しぶりに会えた父に感激して、涙が止まらなくなり、泣きに泣いた。



 “エニ……俺も会えて嬉しい……苦労を掛けたね……”


 「うぅ グスッ うん……もう、大丈夫……こうして、会えたから……」


 “ああ、エニ……共に行こう……”


 「どうやって進むの? その、ここ、地面が無くて……」


 “この世界は、想い描いた事が即座に現れる……だから……エニが願った事が何でも出来る……君が進みたいと望むなら、君がその様に願うだけでいい……”


 「うん……やってみる」


 エニが前に行きたいと願うと、父の言った通り、漂っていたエニの体は前に進みだした。


 “さぁ……行こう……”



 エニは光となった父と共に真白い世界を浮かびながら進んでいく。



 エニは父に自分がどこに向かうか聞いてみた。


 「お父さん、わたしはこれからどこに行くの?」


 “心配しなくていい……君はこれから俺達と一緒に長い旅に出るんだ……長い輪廻の旅に……”


 「そうなんだ……」

 

 エニは父と共に進みながら父に気になっていた事を聞いてみる。


 「お父さん、お母さんはどこに居るの?」


 “彼女は……この先で……君を待っている”


 「……そうなんだ、良かった……早く会いたい……」


 “すぐに会えるよ……”



 随分と進んだ二人だったが、やがて一際大きな光の前に着いた。その光は山ほどの大きさである巨大な光の玉だった。



 “さぁ、エニ……この中に入って……この中に君のお母さんも待ってるよ……”



 エニは父に促された通り、巨大な光の中に戸惑いながら入って行った……


 その中は、沢山の意識達に溢れていた。一体どれくらいの人が居るのだろうか……いや、きっとこの光の玉自体が父の様な光の意識達の集合した形なのだろうとエニは予想した。



 光の中に入ったエニの横にいつの間にか、明滅を繰り返す小さな光が居た。その光は明滅を繰り返し興奮している様だった。


 そして……


 “エニ! 会いたかったわ!”


 エニの頭の中に強く大きな声が響いた。


 「もしかして、お母さん? なの?」


 小さい頃に母を亡くしているエニは、母の記憶が余り無かった。その為、半信半疑に問いかける。


 “そうよ! 私は貴方のお母さんよ……貴方を残して先に逝ってしまって御免なさい……悲しい想いをさせたわね……”


 「うぐぅ! うう……ぐすっ お母さん……ぅう、ぐす……お母さん、会えて……本当に嬉しいよ……」


 “もう大丈夫よ、エニ、これからずっと一緒よ……私達は旅に出なくちゃならない……その為に、エニ……貴方の人生を振り返り……そして洗い流して、次に進むの……”


 そう言った母の横にエニの父がいつの間にかエニの横に来て、エニに囁く。


 “さぁ、エニ……俺達と一緒に君の生きた証をここで振り返ろう……”



 エニの父がそう言った瞬間、エニの周囲にエニとして生きてきた記録が非常に精細な映像で眼前に投影された。



 その映像は、エニが生まれた瞬間から始まっていた。


 そこには早くに亡くなったエニの母親も映し出された。不思議だが、自分が見た視点が映像として再生されているのだ。エニの母親の事はもう覚えていないが自分が見た姿がしっかりと魂に記憶されているらしい。


 エニの母親は若く優しそうで綺麗だった。母と一緒に居る肉体を失う前の父の姿も有った。



 ただ、静かで幸せな光景な映像が流れていた。しかし……


 幸福な時間は長くは続かなかった。母が死んでいく姿が映し出され、母を愛していた父は墓前に娘を一人、守る事を誓っている映像が自分の目を通した映像で映し出された。


 やがて父と二人きりの質素で穏やかな生活が映し出された。大変だったが、父とエニは笑いあい幸せだった……



 そして……あの時が来てしまった……



 その日は突然に訪れた。突然、武装した兵隊達が、エニ達が住んでいた村を襲って来たのだ。理由は良く分らないが、記憶の中の映像で誰かが“侵略だ!!”と叫んでいた。


 エニと父は手を取り合って逃げたが、先回りした兵隊に囲まれ……石弓の様な不思議な武器で撃たれた。エニは父の腕の中に包まれ倒れ……そのまま意識を失ってしまった。

 


 次に記憶映像が映したのは、血だらけの自分が黄金色の瞳を持ったブロンドの美しい女性に抱かれているシーンだった。その女性が自分に“もう大丈夫……”に囁いている状況が映し出された。


 次の映像は、その女性の恋人だろうか、逞しくそして若く美しい男が自分の頭を撫でている状況が写った。彼の瞳も美しい黄金色だった。

 その時からエニはその“彼”にもどかしくて暖かい感情を抱いてしまった。

 


 映像ではエニが父と死に別れた後の生活が映し出された。


 エニが拾われた後、住んでいたのは空に浮かぶ巨大な人工の島の様な所に建てられた荘厳な城だった。

そこには色んな人達が居て、彼らを沢山の騎士が守って一緒に幸せそうに暮らして居た。


 ブロンドの美しい“彼女”は小さいエニを抱き寄せながら“あなたは私の娘よ”と微笑みながら言っていた。“彼女”はマセス、という名前らしい。その日からエニは“彼女”の事をマセス様と呼ぶ様になった。


 そして淡い憧れを抱いた“彼”はいつもマセスの傍に居た。


 “彼”には多くの騎士たちが仕えていた。特に配下の12人の騎士長達はいつも“彼”のと共にあり、皆、麗しく暖かかった。彼らとはエニは拾われた時から兄や姉の様に接してくれた。


 12人の騎士長達は底抜けに明るい女性騎士や生真面目で真っ直ぐな女性騎士、そして巨漢で寡黙な男の騎士、他にも優しく陽だまりのような温かさを持った女性もいた。


 その中で特にエニに良くしてくれたのは、優しくて芯の強いセミロングの女性騎士と、その恋人のアッシュブロンドの若い男性騎士は二人でエニと良く遊んでくれた。


 エニの記憶映像はその二人と一緒にいる映像が映し出された。



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