[閑話] 170)安中の残業-3

 真国同盟の激しい攻撃を難なく凌いだ安中だったが、此処で心底つまらなさそうに呟いた。


 「……今度は此方のターンでいいな?」


 安中がそう呟くと、安中の背後に5cm位の黒いリングが10数個程、突如現れた。


 「……お前達を殺すのは息を吐くより簡単だが……生憎、止められているからな……幸運に感謝するがいい……」


 安中はそう静かに言って、右手を緩やかに伸ばし、人差し指をツイと動かした。


 すると、男の頭上に有った、真黒いリングは真国同盟の連中が携帯するアサルトライフルや小銃に目掛け、音より速く放たれた。


 “ヒュヒュン!”


 黒いリングは銃器に接触するや否や、甲高い音を立てて切り裂いた。


 “カキン! パキン! カキキキ!!”


 安中が放った黒いリングによる不可思議な攻撃を見て、真国同盟の男達は、攻撃を受けた銃器を見て、ギョッとしたのであった……



 真黒いリングによる攻撃を受けた銃器を見て、真国同盟の男達は口々に叫ぶ。


 「な、何だ此れは!?」

 「アサルトが……切り裂かれた!?」

 「こ、こんなバカな……」


 男達が驚くのは無理は無い。彼らが手にしていたアサルトライフルや小銃は、まるでナイフで切り取ったバターの様に、非常に美しい光沢を持った断面を見せ切断されていたからだ。



 真国同盟の男達が、自身の銃器が奇異な攻撃で破壊されて驚愕している最中、安中は静かに語る。


 「……お前達は、さっきこう言った……“痛みを平等に分配すべき”と……その点について私も同じ気持ちだ……だからお前達は、自ら与えた痛みを平等に知るべきだ……」


 そう言って安中は配置されていた真黒いリングに意志力を込めた。


 すると、浮かんでいた四つのリングは急激に回転が速くなり、次いで何かを大量に発射した。


 “キュキュン!”


 四つのリングから発射された、其れは真国同盟の男達が発砲した弾丸だった。真黒いリングの中に吸い込まれた弾丸は、リングの中の亜空間に発砲された状態のまま、保管されていた。


 安中がリングの亜空間を一部開いた上で、吸い込まれた銃弾は安中の意志力によりテロ組織の男達に恐るべき速度で発射されたのだった。

 

 「ギャアア!!」「アグウ!!」

 「グギャアア!!」「ガアア!」


 安中が真黒いリングから放った銃弾は、真国同盟の男達全員の手足に命中し、男達は絶叫しながら倒れ込んでのた打ち回った。


 その様子を見た人質達は叫び声を上げた。


 「ウワアアア!!」「た、助けてくれ!」

 「キャー!!」 「イヤアアア!!」


 叫び声を上げ、一斉に人質が逃げ出そうとした時、突然銃声が鳴り響いた。


 “ダン! ダン!”


 その銃声で、人質達は恐怖で静まり返り、動けなくなった。


 

 発砲したのはリーダーの男だ。彼は膝を付いた中腰の状態で、天井に向けて発砲したのだ。そして彼はゆっくりと立ち上った。


 部下達が安中の攻撃で蹲る中、一人立ち上ったリーダーの男は良く見ると手足の衣服は穴だらけで確かに銃弾は命中した様だったが、大したダメージを受けていない。



 安中はリーダーの様子を見てつまらなそうに呟く。


 「……強化サイボーグか……珍しいな」


 安中がリーダーを見遣ると、男は銃弾でボロボロになった衣服を破り捨てた。その衣服の下から出て来たのは銀色の帯が巻かれた様な金属の体だった。衣服を破り捨てたリーダーの男は静かに語る。


 「好きでこんな体になった訳じゃ無い……俺は、大戦で自分の体と家族を失った……それからは復讐の為に生きている……俺達を踏みにじった奴らに鉄槌を下すまで、俺は止らず戦い続ける。先ずはこの国の中枢で胡坐を掻いている無能な連中を叩き潰す……」


 リーダーの男が暗い目をして安中に語るが、安中は同調せず怯えている人質を手で指し示しながら返答した。


 「……復讐か……それなら何故、ここに居る彼らを巻き込む必要が有る? お前一人で勝手にやっていろ」


 「この連中も同罪だ……俺や俺の家族達の受けた痛みを知ろうともせず、のうのうと生きている……何故俺達だけが! 痛みを受けるばかりなんだ!? ……全くこの世は不公平だ……だからこそ、こいつ等にも知る機会を与えてやらんとな……」


 リーダーの男が語る動機を目の当たりにして安中は侮蔑して突き放した。



 「……お前の生い立ちには、私と重なる点もあり多少同情する余地はあるが、現時点でのお前の行動には嫌悪しか感じないな……やはりお前達と私達は違う生き物の様だ」


 「ふざけるのはそのイカれた格好だけにしろよ、コスプレ野郎……どんな手品かは知らないが、飛び道具がダメならコイツで刻んでやる!」


 安中の嘲りに怒ったリーダーの男は、機械化されたその両手首から、長さ20cm程のブレードを飛び出させた。丁度仕込みナイフの様だった。

 

 リーダーの男はサイボーク化された、その両腕の仕込みナイフを独特の形で構えて、や安中に迫った。対する安中は心底下らなそうに呟いた。


 「……道具に頼らねば戦う事すら出来ぬ醜く下等なマールドムが……貴様如きに、刃を交える価値も無い」


 そう呟いた安中は、自らの周囲に新たに四つの真黒いリングを生成した。


 新たに生まれた四つのリングは大きさが10㎝程度と小さく、四つとも垂直に立ち高速で回転しながら安中の眼前で一列に並んでいる。


 「……這いつくばるがいい……」


 “ギュン!!”


 そう安中が呟いた瞬間、四つの真黒いリングは音よりも早く飛び立ち、一瞬でリーダーの男を切り刻んだ。


 “キキキン!!”


 四つの真黒いリングはリーダーの男の機械化された頑丈な両手足をあっけなく切り刻んだ。


 “ゴトン! ガン!”

 

 そんな音と共にリーダーの男の両手首は切断されて地面落ちた。両脚は、関節部の人工筋肉を切断され、立つ事が出来なくなったリーダーの男は崩れ落ちて這いつくばった。


 安中は連行される際の移動を懸念して、敢えて完全に切断しない様に配慮し、脚部は人工筋肉部のみを切断したのであった……


 「……ぐぅ!」


 リーダーの男は両脚の関節部人工筋肉を切断されてうつ伏せに倒れた為、顔面を強打し痛みで呻いた。其処に安中が歩み寄り、リーダーの男の頭部を踏み付けた。


 “ガッ!”


 「あがぁ!!」


 リーダーの男は痛みで悲鳴を上げたが、安中は構わず頭を踏む力を強めていく。


 安中の表情は仮面を被っている為、事の成り行きを黙って見ていた人質達の誰にもその表情は窺い知れないが、真横に居たバンドメンバーの若い男には、安中が強い怒りを抱いているのが伝わった。

 

 四肢を切り刻まれて転がる、リーダーの男の頭部を踏み付ける安中に対し、バンドメンバーの若い男が大声を上げて安中を制止する。


 「お、おい! アンタ! もう止めろ!」


 対する安中は無言で、更に頭部を踏み付けた……



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