160)模擬戦(わたしの戦い)-27
玲人は横になっている小春の手を握りながら見つめていたが、その小春が目を覚ますのを見て驚いた。
「……確かに、小春を眠らせた筈だが……?」
目を開けた小春は静かに半身を起こし、玲人に向かって言った。
「玲人君……わたしの中ではまだ、戦い終わって無いよ?」
「……しかし、小春。もう模擬戦は終わったぞ?」
玲人の問いに対し、小春はゆっくりと立ち上がり、後ろに下がって答えた。
「玲人君……模擬戦の勝敗は、確かペイント弾に当たるか、相手が拘束された場合よね!? そういう意味ではわたしはまだ、終わってない!」
「小春……君の強い気持ち……俺は感嘆する……だが、君は戦う術も仲間も居ない……状況は何も変わっていないぞ?」
玲人の中ではもはや模擬戦は終わったと認識されているのだろう。そう思われるのも無理は無い。小春以外の分隊の面々は全員、玲人によって気絶させられ、残った小春も精神疲労している。そんな小春に早苗が脳内に話し掛ける。
“……大丈夫なの、小春ちゃん? さっきのマセスと小春ちゃんの会話、私は聞いていたけど……貴方、本当に玲君と戦うつもり?”
早苗は小春の事を案じている様だ。早苗はいつも小春の事をからかって弄る事を常としているが、なんだかんだ言いながら、小春の事を案じている。対して小春はそんな早苗の脳内に響く声に微笑を浮かべ、答える。
(……アハハ、大丈夫です、早苗さん……心配してくれて有難う……でも、此れは模擬戦ですから大丈夫!)
“相手が玲君だから、安全なのは分ってるわ……わたしが言ってるのは、模擬戦の勝敗よ。あの玲君に本気で勝つ心算なの?”
早苗は小春の返答にやや、呆れながら返した。対して小春は明るく脳内で応える。
(勝敗はやってみないと分りませんが、簡単に負けない自信もあります……そのヒントは……早苗さんが教えてくれたんですよ?)
“私が? 一体如何いう事、小春ちゃん?”
小春が軽快に答えた言葉の意味が分らず、早苗は脳内で聞き返した。
(……まぁ、見てて下さい、早苗さん!)
“分った……何か有ったら替わってあげるわよ?”
小春の自信有り気な態度に、早苗は取敢えず小春の様子を見守る事にした……
小春は眼前の玲人に向かい、話し掛けた。
「……玲人君、わたしはこの模擬戦にどうしても負ける訳にはいかない……だからまだ、続けるわ!」
「もう止めよう、小春……君は良くやったよ……勝敗は決した、これ以上続けると君の負担が大きくなる」
玲人は心配そうに小春に話すが、小春は自身の耳に装備されている通信機で梨沙に対して叫ぶ。
「坂井さん! わたしは、まだ戦えます! 模擬戦続行させて下さい!」
問われた梨沙は驚きを隠せない様で戸惑いながら小春に問う。
『し、しかし小春ちゃん、もう模擬戦は終わったんだぞ?』
梨沙の返答に小晴は強く応える。
「坂井さん、お願いです! わたしは、玲人君にわたしの戦いを見せていない! 続行させて下さい!」
『…………』
小春の叫びに、一瞬間が空き坂井少尉の代わりに安中が小春に応対した。
『……石川技官、私は安中だ……君の体調さえ問題無ければ、君と大御門准尉との模擬戦を再開させる。石川技官、それで良いか?』
安中に問われた小春は、迷いなく答えた。
「はい! 有難う御座います、安中さん! わたしは何も問題ありません!」
『……分った……バイタルサインに問題が出ればすぐに中止させる……其れで良いな、大御門准尉』
小春のやる気に満ちた声を受けて安中は、やむなしと言った様子で玲人に続行を促す。言われた玲人はため息交じりで安中に応える。
「……了解しました。石川技官を安全に、速やかに無力化し模擬戦を終わらせます」
こうして小晴と玲人の一騎打ちという形で模擬戦は再開された……
小春の強い意志により、再開された模擬戦。まず小春は能力を使って後ろに跳び、そして玲人に叫ぶ。
「玲人君! わたしからいくね! おいで、“オモメちゃん”!!」
小春はそう言って眩く光る錫杖を掲げた。すると錫杖の石が光を放射し、小春の頭上に雲の様な光を生み出した。光は玲人の頭上に移動し何かを形作った。
それは……直径1m位の目玉だった、但し形状が少しおかしい。目玉は球体では無く蕩けた餅の様に潰れた形状をしていた。それを見た玲人は首を傾げながら小春に問う。
「……小春? コレは何だ?」
問われた小春は悪戯っぽい笑みを浮かべ、そして自身有り気に答える。
「玲人君! コレはわたしの得意な、目玉ちゃん作成能力を使った技よ! 言うなら目玉召喚! まずは! “オモメちゃん”からよ! “オモメちゃん”玲人君を重くして!」
小春がそう叫んで、錫杖を光らせる。すると“オモメちゃん”と呼ばれた物体はブルブル体を震わして、その体を発光させた。すると……
“ズズン!!”
そんな音と共に玲人を中心に2m位円状の面積に強力な重力が掛かった。言うならば重力魔法だ。
「ぐぐう!」
玲人に突然掛かった強力な荷重。今、玲人には自身の何十倍の重力が掛かっている。玲人は能力で肉体を強化している為、潰れずに済んでいるが、普通の人間なら押し潰されているだろう。重力の影響を受けている範囲は、地盤が丸く沈みだした。半端ない重力に玲人は玲人は素直に感嘆し呟く。
「うぐ、凄い能力だ……小春! だが、俺も倒れる訳にいかない!」
そう言って玲人は、自身の体の周囲に黒いモヤを生み出した。モヤは大量に生み出され、玲人の肉体を包んだ。そして淡く光りを放って発行した。すると、玲人に生じていた“オモメちゃん”の能力に寄る重力加算が遮断された。
次いで玲人は黒いモヤから1m位の黒針を生み出した。そしてその針を玲人の頭上に居る“オモメちゃん”に向けて発射した。
“ズキュ!!”
そんな音と共に、貫かれた“オモメちゃん”は煙の様に消滅しだした。同時に玲人を中心に生じていた重力加算は無くなった……
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