161)模擬戦(目玉召喚)-28
小春が意志顕現力で作り出した目玉の“オモメちゃん”により加重攻撃を受けた玲人だったが、その“オモメちゃん”を消滅させた玲人が小春に向かい満足そうに語る。
「……済まない、小春……俺は君を侮っていた様だ……認識を改めよう! 小春、君は強い!」
玲人は嬉しそうに小春に叫ぶ。対して小春は冷静に答える。だがその顔は笑顔だ。
「玲人君、わたしの目玉は“オモメちゃん”だけじゃ無いよ! おいで! “アツメちゃん”!」
小春はそう叫んで、右手の眩く光る錫杖を掲げた。すると、小春の頭上に光が集まり……その中から、炎を纏った10cm位の目玉が現れた。小春が生成した“アツメちゃん”だろう。
小春は右手の錫杖を前に掲げ、“アツメちゃん”に命ずる。
「“アツメちゃん”! 炎の壁よ!」
小春の叫びを聞いた、“アツメちゃん”と呼ばれた炎の目玉は、自身を輝かせた。すると今度は玲人を囲む様に、高さ10m程の炎の壁が、玲人を囲んだ。
“ゴオオオオ!!”
そんな音ともに突如発生した、見上げるほどの高さの炎。対して玲人は何て事無い様に小春に向かい叫ぶ。
「小春! 見事な炎だが、障壁を展開できる俺には何の意味も無いぞ!?」
問われた小春も叫び返す。
「分ってる! だから! その子だけじゃない! おいで、“カコメちゃん”!」
叫びながら小春は眩く光る錫杖を又も掲げた。今度は網状のツタに覆われた目が生成され、“アツメちゃん”の横に並んだ。
「“カコメちゃん”! 玲人君を縛って!」
小春に“カコメちゃん”と呼ばれたツタに囲われた目は小春の声に反応し、自身を光らせた。すると、突如光るツタが幾重に玲人の足もとに生じ、玲人を縛り付けた。
“ギュルルル!!”
こうして玲人は、光るツタに体を拘束され、同時に炎の壁に囲まれたのだった……
光るツタと炎の壁ににより玲人を閉じ込めた小春は、今の内に前原や沙希そして伊藤をを安全な場所に能力を使って移動させた。
そんな小春に早苗が驚いた様子で脳内から呼び掛ける。
“何よ! 小春ちゃん! 貴方、こんな凄い召喚技が使えるなんて!”
対して小春は辛そうに答える。
(……い、いいえ……この子達は、ニョロメちゃんを誕生させる時に……色々考えていた子達です。わ、わたしは昔から、こんなキャラ考えたり……フェルトで人形作ったりするの得意でしたから……色々考えてイメージだけは頭に有ったんですけど……さ、早苗さんがニョロメちゃんを使ってゴーレムを作った時に……この子達を生み出せないか、て……思い付いたんです……“
小春は脳内でその様に早苗に返答した。小春の生み出す目玉達は、小春がニョロメちゃん誕生時に小春が沢山創作したスケッチから産み出したものだ。
大人しい性格の小春は早苗の様に直接、能力を発動させるよりも、生み出した様々な特徴を持つ目玉を媒介にして能力を発動させる方が効果が大きかった。意志顕現力の発動イメージを目玉に介した方が小春には合っていた為だ。
目玉について小春の説明を聞いた早苗は、その件より小春の辛そうな状況を案じて問う。
“……大丈夫? 小春ちゃん、意識の乱れを感じるわ……貴方、無理していない?”
(……も、問題、有りません……わたしはこの模擬戦で……玲人君に、絶対負ける……訳にはいかないんです……)
“小春ちゃん……貴方……”
早苗は小春の強い想いを受け取って絶句した。そんな早苗を気遣い小春は明るく返答した。
(有難う御座います! も、猛獣の早苗さんも……優しい所、有るんですね?)
“……珍獣は、元気じゃ無いと面白く無いのよ”
(誰が、珍獣ですか……!!……っと……玲人君には、炎の壁も、光のツタも……大して時間稼ぎには為らなかったですね……)
小春が脳内で早苗に呟きながら、玲人を囲む炎の壁を見ると、玲人の黒いモヤが炎を侵食している状況が見られた。玲人が小春の技を破るのも時間の問題だろう。
その様子を小春の目を通じて感じた早苗が小春に問い掛ける。
“……何か玲君に勝つ策は有るのかしら?”
(はい、早苗さん。玲人君に対して力では絶対に勝てません……だから力で攻めるのではなく、玲人君を閉じ込めて拘束して……此れを使います)
そう言って小春は左手に持っていたペイント弾を握りしめた。沙希が放って障壁で跳ね返されたペイント弾を小春がさっき拾ったモノだった。小春が握ったペイント弾を察した早苗が呟く。
“……なるほど……ペイント弾を玲人君の体にぶつけたら私達の勝ちって訳……考えたわね、小春ちゃん”
(い、いえ……全部、ぶっつけ本番の……お、思い付き……)
そう、小春が脳内で早苗に返答しようとした時だった。
“キュキュン!!”
そんな風切り音と共に、小春の頭上に浮いていた“アツメちゃん”と“カコメちゃん”に玲人が放った黒針が突き刺さり、二体の目玉は霧散してしまった。
“アツメちゃん”と“カコメちゃん”が霧散した事で、玲人を足止めしていた炎の壁と光のツタは消失した。
「……小春の能力は、変化に富んでいて本当に面白いな……」
玲人はそう言って小春を見遣る。対して小春は玲人に大声で返答した。
「まだ! 取って置きが有るよ! 玲人君!」
そう叫んで、又も錫杖を頭上に掲げる。但し今度は錫杖の輝きは比類なく周囲一面を照らす程の輝きを放った。次いで小春は声を張り上げて自身最大の召喚を行う。
「おいで!! “コメダマちゃん”!!」
そう言った小春は、非常に眩い輝きを放つ錫杖を前に突き出した。すると、錫杖から光が前方に放射され、光が何かを形作り出した。
放射された光が形を成したのは、何か大きな塊だ。小春の眼前に現れた其れは小型トラック一台分位の大量の目玉ちゃんだった。
「玲人君を閉じ込めて!」
小春がそう叫んで、大量の目玉ちゃんに指示を出すとワラワラとその塊は地面に吸い込まれた。
“ゾゾゾゾゾ!!”
そんな音と共に地面に吸い込まれていく“コメダマちゃん”だったが、凡そ軽トラック一台分の体積が完全に吸い込まれると、地盤が躍る様に脈動し出した。
脈動を始めた地盤は、突如盛り上がり大きな波が押し寄せる様に玲人に向かい隆起しながら迫った。
“ゴゴゴゴゴゴ!”
そんな地響き音と共に波となって迫る土の波は玲人の足元で静止し、まるで波が岸でぶち当たり飛び散るが如く、土の大波となって玲人に襲い掛かった。
“ゴバア!!”
土の大波は玲人を完全に覆い、まるで粘土を何層にも重ねて形を成す様に、玲人に対し次々と土が覆っていく。
“ズズン!!”
やがて、玲人を覆う直径4m位の土の大玉が形成された。それは“コメダマちゃん”が土に憑依して生き物の様に動いて形作ったモノだった。
玲人の足元の地盤はドーナツの様に玲人を中心に環状に大きく抉られていた。その抉り取られた土は、全て玲人を覆う土の玉となっていた……
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