157)模擬戦(最終総力戦)-24

 小春の能力を借りて、玲人の放った黒針を停止させた沙希は破壊された銃の予備マガジンを浮かしペイント弾だけを玲人に向かって飛ばした。しかしペイント弾は又しても甲高い音を立てて玲人の障壁で止められている。


 “キキキキン!!”


 止められたペイント弾は玲人により跳ね返され地面に飛散して転がった。



 沙希に合わせて攻撃したのは志穂だ。志穂は玲人に喜喜として叫ぶ。


 『いくぞー!! 玲ちゃん!』

 

 叫んだ志穂は、前もって低空飛行させていたヘリ型無人機、通称“トンボ”に搭載されている小口径チェーンガンを発射させた。


 “ドルルルルルルルル!!!”


 前回の模擬戦では志穂は無人機のチェーンガン使用には抵抗を覚えたが、今回の模擬戦では杞憂だと判断した。どんな大爆発でも玲人には何の意味も無いからだ。

 志穂の無人機に搭載されている小口径チェーンガンは無人機搭載用に開発された火器だ。それは小口径とは言え一分間に500発を超える弾丸を発射する凶悪な機関砲だった。


 この凶悪な兵器の標的になったとすれば、歩兵ならば一瞬で挽肉になるだろう。



 玲人は障壁を展開し、この銃撃を難なく防ぐ。しかし志穂が操作するトンボにはニョロメちゃんが憑依装備されており、小春によって与えられた志穂の意志顕現力によりチェーンガンの銃弾は劇的に強化され、障壁のひび割れを大きくしていく。


 其処へ、ミニバイク程のコンクリート片が飛んできた。伊藤が小春の能力を借りて発揮し、ゴーレムの残骸を投付けたのだ。


 “ゴガン!!”


 伊藤が投付けたコンクリート片は玲人の障壁にぶち当たる。


 「ウオオオオ!!」


 伊藤は大声を上げて、強い想いを投付けたコンクリート片に乗せる。小春も追従し伊藤に能力を付加した。


 “ピシ! ピキッ バキン!”


 そんな音を立てて、玲人の障壁は破壊された……

 

 そのタイミングを見計らって小春が操るアンちゃんが仁那が得意とする豪竜双牙拳の構えを取り、両手を白く輝かせて双手突きからエネルギーが込められた光弾を玲人に向け発射した。


 “ゴガガガアン!!


 大きな火球が生じ豪炎が生じたが、玲人は黒い霧を作動させ、炎を消し去り難なく出て来た。玲人は破壊された為か障壁を展開していない。


 前原は臆せず、腕のコンクリート片を玲人にぶつけた。


 “ゴギン!”


 しかし、玲人は障壁の代わりに黒い霧が板状の形を成してこれを防ぐ。



 周りに居た沙希や志穂、そして伊藤が続いて攻撃を仕掛ける。沙希はマガジンのペイント弾の残弾が無くなった為、伊藤の様に瓦礫を浮かして投付けている。志穂は強化されたトンボのチェーンガンで、伊藤は沙希同様コンクリート片を投付けている。


 前原達は小春の支援を受けてはいたが、能力の発動など生まれて初めてであった為、物を投付ける、銃撃を強化する等、単純な攻撃しか出来なかった。それでも前原達の攻撃は強力だった。



 玲人は修一の黒石球を模して、黒い霧を板状に変化させ、皆の一斉攻撃を凌いでいる。玲人は黒針を放って牽制するが、小春が用意した土の盾がそれを自動で防ぐ。玲人が黒針を刀の様にを振るっても、土の盾が自動で其れを受け止めていなした。土の盾が少しでも損傷すれば独りでに再生する厄介な性能を示した。


 玲人はそんな土の盾の様子を見て、素直に感心した。


 (……凄い性能だ、この小春が作った土の盾は……それに前原さん達の能力付加も強力だ。単調な攻撃とは言え、障壁を破壊するとは……小春の支援は恐ろしい能力だ……)



 此処で玲人は感嘆して小春を見つめると、様子がおかしい。小春は……具合が悪そうだ。必死な顔をして辛そうに見える。


 小春の状態が良くないのは理由があった。アーガルムの意志顕現力は言うなれば、想像力の行使だ。願ったモノが具現化される。

 想像力の発揮に体力は関係ない。強い精神力を持続させれば良い。しかし、今の小春の状況は小春を含めて5人分の意志顕現力を発動させている。その上、数多くのニョロメちゃんを使役しており強い意志力を持続させる精神的負担は相当なモノだった。

 付け加えて初めて錫杖を使用した反動もあった。10年以上能力を使って戦って来た歴戦の玲人とは違い、小春はこの模擬戦が初陣な為、精神的な疲労は瞬く間に小春を圧迫した。



 玲人は小春を心配して模擬戦の最中、声を掛ける。


 「小春……体調が良く無さそうだが大丈夫か?」

 「だ、大丈夫! まだ終われないよ!」


 小春は気丈にも大声で答え、その意志表示の様に錫杖を高く上げた。すると小春が操る二体のアンちゃんが、右手を高く上げた。次いで小春は叫ぶ。


 「み、皆さん! わたしが心で伝えますから合わして下さい!」


 そう大声で伝えて“心通”で分隊の面々に指示を出す。小春は全員で連携し大技を繰り出す考えだった。其れは小春が用意できる最大攻撃だ。



 小春の“心通”による精神通話で、前原達分隊の面々は玲人から距離を置いた。同時に小晴からの指示を受けた志穂は指揮通信車を大慌てで後方に移動させる。

 前原、沙希そして伊藤は玲人より距離から少し離れ、右手を高く上げる。志穂は小春の精神通話による指示で前原達に祈るが如く意志顕現力を付加させていた。


 小春は右手の錫杖を眩く輝かせ、分隊の全員に強力な意志力を送る。すると、分隊の皆や2体のアンちゃんが高く上げた右手に眩い光球が発生した。

 前原達に、光球を作り出す様な能力は無論ない。前原達を媒介に小晴が超強力な意志力を送り、巨大な砲台を化そうとしているのだ。次いで、玲人を取り巻く様に、前原達を守っていた土の盾が取り囲んだ。攻撃の衝撃を閉じ込める為だろう。


 前原達やアンちゃんが右手に掲げる光が一層眩く輝き大きくなった。小春が其れを見て全員に合図を送る。


 「い、今です! 皆! 放って!!」


 小春が錫杖を玲人に向けて振り降ろすと同時に、前原達やアンちゃんから眩く光る光球が玲人に向かい高速で投げられ、次いで凄まじい爆発を起こした。


 “ドドドドオオオン!!”


 そんな轟音と共に大爆発を起こし、火球が生じたが小春が設置した土の盾から大きな障壁が発生し、火球の広がりを抑えた。更に小春が火球が広がらない様、錫杖を通じて意志顕現力を働かした。結果、火球は高さがどこまで有るか分らない極めて高い炎の柱となり、立ち上った。


 土の盾に囲まれた内部は爆発の衝撃と生じた業火による熱量の全て内側に閉じ込めて、内部の玲人に容赦なく超強力な爆撃を与えた。


 小春が支援して分隊全員が一斉に放った光球に寄る爆撃は間違いなく今日の模擬戦で最大級の攻撃となった……



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