156)模擬戦(小春の加護)-23
模擬戦で生じた炎を吸い取った眩い光を放つ錫杖を見て玲人が小春に問う。
「……小春、此れは?」
「周囲の力を吸収したの……わたしには力が無い……だけどこの錫杖を使えば、力を集め、纏めて、強める事が出来る……そして、その力はこうして使う!」
小春は眩しすぎる光を放つ錫杖の石突きの部位を地面に突き刺し叫ぶ。
「皆を守り! 助ける力と為れ!!」
すると錫杖先端の石から光が迸り、光の柱が立ち上った。そして力を失った前原と沙希、そして伊藤、指揮通信車にいる志穂を包んだ。その様子を見た、玲人が小春に尋ねる。
「……小春、その光は?」
「分隊の皆にわたしから……加護を付与したの……こうする事で、加護を受けた皆は……わたしの能力を……一時的に使える様になる……」
小春は玲人の問いに対し、まるで思い出す様に答えた。マセスの記憶を辿りながら答えているのだろう。その答えを聞いた玲人は満面の笑みを浮かべ……
「!!……小春、君はなんて凄いんだ!」
玲人は心底、小春を称賛した。対して小春は声を大きくして答えたのだった。
玲人に称賛された小春は大声で応える。
「いいえ! まだ仕上げが残ってる!」
そう叫んだ小春は、右手の錫杖を掲げる。すると、錫杖より輪の様な光を作り出した。
小春は“扶翼”を発動させたのだった。生じた光の輪は小春の頭上から広がりながら前原達に光の羽を降らせる。この“扶翼”により対象の生命力を奪う技“掠奪”を受けて激しく疲労し、動けなかった前原や、沙希そして志穂が活力を取り戻した。そして玲人により直接、昏倒させられた伊藤も目を覚ますのだった。
『……大丈夫か!? 沙希!』
『ええ! 小春ちゃんの光の羽にまた、助けられたわ!』
『こっちも大丈夫よ! ダルマ寝ぼけてないか!?』
「ダルマ言うな、メガネ! こちら伊藤! 続行問題ない!」
分隊の皆は、小春の力により復活し次々に声を出す。その様子を確認した小春は皆に声を掛ける。
「皆さん! 元気になって良かった! 大丈夫ですか? 模擬戦、まだ続けられそうですか!?」
小春の問い掛けに分隊の面々は明るく答える。
『ああ! 問題ないよ、小春ちゃん!』
『私もよ、小春ちゃん! まだイケるわ!』
『私もだよ! お蔭で元気になった!』
「こちら、伊藤。全く問題ないよ」
小春は分隊の面々の声を確認した上で、梨沙に声を掛ける。小春の耳に掛けてある通信機を通じて坂井に確認を取る。
『……こちら小春です。坂井さん、皆元気になりましたが、このまま模擬戦続行してもいいですか?』
『……ちょっと待って小春ちゃん……』
問われた梨沙は、即答せず安中と相談して居る様だ。
『…………いいよ! 確認取ったわ。但しバイタルサインに異常が見られたら即中止だから無茶はしないで! 皆もその方向で頼むわ!』
『『了解!』』『はいはいー』「了解した」
「こちら大御門、了解しました」
「……わかりました! 坂井さん!」
小春は梨沙の続行指示を聞いて自分の状態に分隊の面々について述べる。
「皆さん、わたしは直接戦う力が弱いです。ですが、わたしには皆さんに力をお貸しする事が出来ます。皆さんにはわたしの加護が付いています。加護が付いていると、一時的ですが能力が使えます」
小春の言葉に前原達は驚愕する。
『ほ、本当なのか!?』
『私達も、超能力使えるって事!?』
『ウォォォ!! まさかのエスパーデビュー来たー!!』
「……具体的にはどうやって使うんだ?」
前原達以下3名は驚いて大声を上げたが、伊藤は冷静に小春に問い掛けた。小春は伊藤に応える。
「わたしがニョロメちゃん通じて教えます! それと皆さんにはコレを!」
小春がそう言って、錫杖に意志を込めと、先端の石から光が迸りニョロメちゃんが5体生み出された。そして生み出されたニョロメちゃんは皆の足もとに各々潜り込んだ。前原や沙希、伊藤や志穂の場合は指揮通信車の地面に。小春の足元にも一体潜り込ました。
小春はその状況を見て、錫杖の石突き部を地面に押し付け、意志を込めた。すると……
“ボゴォ!” “バゴォ!” “ボゴン!”
そんな音と共に ニョロメちゃんが潜った地面から土の玉が浮いてきた。大きさは50cm位だろうか。土の玉は形を変え、大きな円盤になった。その円盤が5つ、前原達や伊藤、小春や指揮通信車の傍で浮いている。
その様子を見た玲人が小春に問い掛ける。
「……小春、その土の皿は何だ?」
「玲人君、此れは修一さんの石の盾を真似してイメージしたの……その土の盾は玲人君の攻撃を自動で防いでくれる。壊れても再生する様に意志を強く込めた」
小春の作った盾の機能を聞いて玲人は感心して話す。
「……自動で防御する盾……面白い! 小春には驚かせて貰ってばかりだ……それで……続けるのか?」
「……わたしは玲人君を守る為に戦うって決めたのに、このままじゃ、ただ足を引っ張るだけだから……わたしはこのまま何も出来ず終わるのは嫌なの……だから! わたしは続けるよ!」
「分った……小春が其れを望むなら……俺は応えよう!」
「……うん!」
こうして、模擬戦が再開された……
先制したのは前原だ。前原と沙希のエクソスケルトンは全ての関節を玲人の黒針によって破壊され動けなかったが、小春のニョロメちゃんのお蔭で動かす事が出来た。
そればかりか小春の能力により、切断されたエクソスケルトンの右腕はゴーレムの要領で瓦礫が集まって擬似的な腕を構成した。もっとも掴む事等出来ない、コンクリート片の棍棒の様だったが。
前原と沙希はその半ゴーレムと化したエクソスケルトンで攻撃した。先制した前原はその武骨な瓦礫の右腕を玲人に叩き付けた。
“ガイン!!”
打ち付けたコンクリート片は今までと同じ様に玲人が展開する障壁で阻まれる。しかし、小春により能力が一時的に使える様になった前原の攻撃は、前原の想いによって劇的に強化される。
『砕け散れ!!』
前原が意志を込めて、障壁に右腕をもう一度叩き付ける。
“ガギン!!”
すると……“ピシッ”という音と共に障壁に傷が生じた。
「…………」
自身の障壁が破られそうな状況を見ても、玲人は全く慌てず右手を前に出し大量の黒針を生じさせ、前原の向けて放つ。
“キュド!”
しかし、放たれた黒針は前原のエクソスケルトンには到達せず、宙に浮いている。
『さ、させない!!』
沙希が小春の力を借りて、能力を発動し黒針を停止させていた。
『凄いよ! 止まれって思っただけで、止めれたわ! 小春ちゃん!』
「はい! 沙希さん、わたしが同調しますので沙希さんは如何したいかを明確に心の中で表して下さい!」
沙希の驚きの声に小春が答える。沙希の想いを小春が意志力を付加させて具現化している様だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます