155)模擬戦(エニだからこそ)-22
小春の前に現れたマセスは小春に優しく話し掛ける。
「……エニ、いえ小春……今、見せた様にあの人は、マールドムに対する憎しみと怒りに心を囚われているわ。そして玲人の魂の深奥に眠る今も、それは変わらない……」
マセスの言葉を受けた小春は俯いて考えながら聞いていたが、顔を上げてマセスに問うた。
「マセス様……貴方は以前わたしにこう言いました……“大切な者を信じ、深く、愛すればいいと、そして力なんて何も必要ない”と……あれは貴方の懺悔からの言葉ですね?……」
小春に問われたマセスはその美しい瞳に涙を湛え静かに語る。
「……そう、私は……彼を、あの人を愛していたのに……信じず……向き合わず……力には力で返していたのです……その結果があの人を余計に壊してしまった……」
小春の問いに語るマセスの声は後悔と悲しみに満ちていた。小春は、その自分の心に届く想いを噛みしめながら、優しく語った。
「……マセス様……貴方は一人で頑張ったんですね……でも、もう心配ありません! 貴方にはわたしと仁那と早苗さんが居る! だから今度こそ、わたしは、わたし達は大丈夫です!」
小春の慰める声を聞いたマセスは涙を堪えきれず、涙を流しながら答える。
「……エニ、いえ小春……どうかお願いです……私と一緒にあの人を、いえ、マニオスの心を救ってくれますか?」
マセスはそう言って小春を静かに見つめる。マセスが言う“彼”はマニオスという名前らしい。
マセスに問われた小春は今日の模擬戦で仁那を通じて見た“彼”が起こした大破壊の状況と、先程まで見ていた映像を様子を思い返していた。
“彼”はマールドムと呼ばれる人類に対し激しい憎しみを抱いている事は詳しい事情を知らない小春ですら感じ取れた。
もし、玲人が“彼”いやマニオスの憎しみに支配されて、先の映像の様に人類を殲滅しようとしたら……
(!……そんな事! 絶対有り得ない!)
そんな未来は小春は絶対許容出来なかった。一瞬浮かんだ、悪夢の状況を全力で消し去った。そして、小春はマセスの問いに一遍の迷いなく言い切った。
「……“彼”は昔の玲人君なのは知っています……玲人君の中に居る“彼”がさっき映像で見た様な事を皆にしようとするなら……わたしは絶対止めて見せる! 今の玲人君にあんな事絶対させない! わたしに何が出来るかなんて分らないけど、だからと言って放って置けないよ! マセス様、わたしの方からお願いします! わたしと一緒に玲人君達を守って下さい!!」
「…………」
目を瞑り黙って小春の心からの叫びを聞いた、マセスはゆっくりと目を開き、静かに口を開いた。
「……小春……エニである貴方は奇跡の子です。1万3000年の時を超え……封印された私とマニオスに離れる事もせず付き添い……その後、転生したその身を犠牲にし、私と仁那達を救ってくれた……そんな貴方だからこそ、マニオスを止める事が出来るでしょう……此れは貴方が持つにふさわしい……どうか受け取って……」
そう言って、マセスは手にていた錫杖を小春に渡した。
「……此れは?……」
小春は、マセスに渡された錫杖を見つめて問い掛ける。対してマセスは何処までも優しく小春に応える。
「その錫杖は武器というより……本来は……力を集め、纏める法具です。私はその錫杖で多くの者を助け……守ってきました。この錫杖は前に立ちて戦う仁那や、技を放つ早苗では無く、エニである貴方こそ受け取る資格が有る……エニ……貴方はいつだって守る為に戦って来たのだから……」
小春に静かに語ったマセスの体がは金色の光に包まれ出して、その光は小春の体を包みだした。徐々にマセスの体が光の粒子となって、小春を包んだ。
「……マセス様!?」
姿が消えたマセスに対し、小春は驚いて大声を掛ける。
“……何も心配は要りません……以前も言った筈……貴方と私は、一つの存在……私は貴方でもある……だから消えるのではなく……貴方の中で眠らせて貰うの……小春……あの人を……共に……守りましょう”
最後にそう言って、マセスは全て光の粒子となり、小春の中に一体化した。小春の意識の深奥にて眠る心算だろう。
一人残された小春は、涙を零して呟いた。
「……マセス様……有難う……」
そう、マセスに感謝の念を送りながら、受け取った錫杖を見つめる。すると錫杖が輝き形を変え始めた。真っ黒だった錫杖は白い色に代わり、どこか武骨な雰囲気だった錫杖の先端の輪は消え、代わりに白く輝く透明な石が輝いている。そしてその石を保護するかのように美しい炎を模した飾りが石を中心に羽を広げた翼の様に付いている。
小春は生まれ変わった錫杖を握りしめた。すると小春の決意に寄る物か、小春の体が急に白く輝き、小春はマントと白銀色の甲冑を纏った姿となり、その瞳は黄金色になった。
「……さぁ、わたしの戦いを始めよう!」
小春はそう呟き、目を瞑って愛する玲人が居る模擬戦の戦場へと意識を移した……
玲人は、自分が無力化した特殊技能分隊の面々を横目に、俯いている小春に声を掛けた。
「……小春、怖い思いをさせて悪かったな……この模擬戦は君にとって初めての事だったのに……今日の所は終わりに……」
「いいえ……玲人君……わたしはまだ何もしていないよ!」
玲人が小春を気遣い、模擬戦を終了させようと話している時に小晴がそれを遮った。小春は、ぐっと顔を上げ、真っ直ぐ玲人を見据えて話す。小春の瞳は黄金色に輝いていた。
「……玲人君……わたしは、玲人君に言ったよね……玲人君を一人で戦わせない。そして、わたしも矢面に立ち、玲人君の為にわたし達は戦うって……」
「ああ……確か、タテアナ基地で小春、君が仁那を助けてくれた時に言ってくれたな……」
小春に言われた玲人は笑顔で答えた。対して小春は真剣な顔つきで返した。
「そう、わたしはあの時の言葉を嘘にはしたくない! だから、この模擬戦、此処で諦める訳にはいかない!!」
小春はそう言って右手を前に突き出した。すると、光の粒子が集まり何かを形作った。それは……錫杖だった。次いで光の粒子は小春の体をも包んで、小春はマントと白銀色の甲冑を纏った姿となった。
玲人はその姿を見て小春に問う。
「……その姿……そして……右手に持っているのは杖か? 小春、それが君の武器なのか?」
「いいえ、玲人君……これは杖じゃ無く、錫杖よ……此れは誰かを守り、助ける為の物……玲人君、貴方に見て貰うよ! 守り、助ける為のわたしの戦いを!!」
小春はそう叫んで、右手に持った錫杖を高く上げて、意志を込めた。すると錫杖先端の石が眩い白い光を放った。
“キイイイイン”
錫杖先端の石が眩い光を放つと、甲高い音が響いた。そして早苗が放った極太光線により生じた爆発による豪炎や、玲人の針に寄る大爆発の豪炎が、真白い光となり立ち上って小春の錫杖先端の石に吸い込まれた。
そればかりか今まで模擬戦で生じた爆発等で生じた火災の炎も、真白い光に姿を変え全て小春の錫杖に吸い取られたのだった。全ての炎を集めた錫杖先端の石は、まるで日の光の様な眩すぎる光を放っていた……
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