153)模擬戦(最強の魔人)-20

 小春の“扶翼”を受けた前原達は感嘆の声を上げながら玲人に戦いを挑む。


 前原と沙希のエクソスケルトン組は、銃器を失った為、ブレードで迫る。対する玲人はあの黒い巨大な針を生み出した。そしてその針を二本に分け、二刀流で前原達の猛攻に応えた。


 前原と沙希は時間差を設けて、左右からブレードを振り降ろす。型も何もあったモノでは無い、単純に頭上に上げたハンマーを振り降ろす様な形だ。しかし、全高3m総重量4tの巨体が振り降ろす其れは小さな車なら、拉げて折れ曲がる程の威力だ。しかし、玲人はその攻撃を、自身が作り出した黒い針で受け流す。


 “ガイン!” “ガキン!”


 玲人は、最初に来た前原の斬撃を右手の黒い針で受け、次いで迫った沙希の斬撃を左手の針で受けた。


 金属のカタマリの巨体が生み出す膂力で並の人間なら受けた針ごと押し潰されるだろうが、アーガルムの、それも最強の存在である玲人は違う。

 意志力を込めて強化した両腕をグッと押し出すと、前原と沙希のエクソスケルトンは力負けし、押され出した。玲人は更に力を込め、その巨体を押し返して、両機ともバランスを崩させた。


 『うわっ』

 『きゃあ!』


 前原と沙希のエクソスケルトンがバランスを崩し、前原達は小さな叫び声を上げた。


 玲人は、その隙を見逃さなかった。自身の黒い針を両方とも前原と沙希のエクソスケルトンに向けて投付けた。


 “キン!!” “ギイン!!”


 そんな音がして……


 “ゴトン!” “ゴツン!”


 次いでそんな音が響いた。


 何事かと前原が自身が操るエクソスケルトンを見ると、ブレードを持っていた右手手首を切断されていた……前原だけでなく、沙希のエクソスケルトンも同じだった。

 玲人が投げた黒い針は、意志力を込めると“鎧崩し”の様に対象を障壁関係無く破壊する効果を持つ様だ。



 右腕を破壊されて怯んだ、エクソスケルトン組を援護すべく、小春が操るアンちゃんが玲人の頭上から飛び上がって奇襲を掛けた。


 アンちゃんを操る、小春には先ほどまで玲人や修一と激しい戦いをした、仁那と早苗の記憶があった。従って小春は仁那と早苗の戦い方をある程度トレースする事が出来た。もっとも其れは玲人と修一も同じであった。

 無論、個人には得意、不得意が有り完全には再現する事は出来ないが、小春には下手なモノマネレベルで再現が可能だった。其れでも恐るべき威力を放つ技とはなるが。


 小春が操るアンちゃん(近接戦担当)は、頭上からの手刀を繰り出そうとしてた。そして同時にもう一体のアンちゃん(魔法担当)は早苗の技を再現し、稲妻を放つべく、両手の平の間に幾条の雷光を溜めている。


 玲人はそんな様子を見ながら、先ずは頭上から迫りくるアンちゃんに対応する。頭上から繰り出そうとするアンちゃんの手刀は確かに鋭かったが、仁那本人が操るアンちゃんのキレには程遠い。玲人は余裕を持って、迫るアンちゃんの右腕を持って、横に投げ飛ばした。


 “ドオォウ!!”


 そんな衝撃音と共にアンちゃんは地面に転がされた。


 その間に、もう一体のアンちゃんが雷光を溜めた両腕を突き出し稲妻を放った。


 “ビカカアアン!”


 放たれた稲妻は玲人に光の速さで迫ったが玲人は、予め展開していた障壁で難なく防いだ。


 やはりオリジナルの早苗の放つ技に比べ稲妻の発動時間が掛かる為、玲人にとって対応策は幾らでも取る事が出来た。


 不発に終わったアンちゃんの攻撃の後、伊藤は持っていた小銃で玲人に向かい発砲する。


 “ダン! ダン! ダン!”


 続けざまに発砲を繰り返すが、当然のごとく玲人は小銃の弾など、路上の小石程度の感覚で何事も無く障壁で防ぐ。


 次いで玲人は、左腕を伊藤に向けて差し出した。手の平は、人差し指と親指を丁度銃の様に握っている。すると瞬く間に人差し指の先に黒い針が生み出された。


 「行きます」


 玲人が小さく伊藤に向かって呟いた瞬間、黒い針は、銃弾よりも早く撃ち出された。


 “キュン”


 そして、撃ち出された黒い針は、伊藤の小銃をあっという間に貫いた。


 “カカン”


 そんな高い音と共に、黒い針に貫かれた小銃は簡単に破壊された。伊藤には小春の能力で障壁が展開されていたが、玲人が放つ黒い針は障壁ごと貫通する様だ。




 あっという間に玲人により無力化された分隊の面々だったが、皆諦めず玲人の前に、もう一度立ち塞がった。前原と沙希のエクソスケルトンは右腕を破壊された状態で、残るは左腕一本だったが残る左腕で殴り合う覚悟で玲人に向かう。


 小春も投げ飛ばされたアンちゃんを立ち上がらせ玲人に相対させた。伊藤に至っては素手で玲人に立ち向かう心算だ。


 その様子を見た玲人は小さく溜息を付き、右腕を前に差し出した。

 

  すると……


 無数の小さな黒い針が右手の前に生み出された。もはや玲人にとってタングステンのニードルは不要だ。


 「……コレで終わりにしましょう」


 玲人がそう呟いて、作り出した黒い針を一斉に撃ち出した。


 “キュキュン!!”


 そんな音と共に、無数の黒い針は前原と沙希のエクソスケルトンの左腕、両足を穴だらけにした。両足の関節機構を破壊されたエクソスケルトンは2機とも、行動不能になり、膝を付いて停止した。


 穴だらけになったのはエクソスケルトンだけでは無い。小春が操る、近接戦用のアンちゃんも両手足を黒い針でぶち抜かれて、転がった。こちらも全ての関節が破壊され機能停止状態となった。


 玲人が新しく手にした黒い針は、“鎧崩し”の特性を有していた為、障壁を余裕で貫通し鋼鉄の関節すら豆腐に針を通すが如く、難なく貫通し破壊する。


 修一の武器が、攻撃も防御も自在にこなす万能型で有るならば、玲人の黒い針は貫通に特化した攻撃重視の武器と言えよう。

 

 一瞬で破壊された、エクソスケルトン2機と戦闘用アンドロイド(アンちゃん)の穴だらけになった無残な姿を見て、伊藤は思わず呟く。


 「……い、一体……何が起こった?」

 「俺が無力化しました……残る戦力は貴方だけだ、伊藤曹長」


 呟いた伊藤に、玲人が静かに答えた。そして次の瞬間、能力で強化された脚力で一瞬で玲人は伊藤の間合いに入り、右手人差し指で伊藤の額を軽く、トンっとノックする様に小突いた。


 「う、うぐ……」


 すると、伊藤は“彼”に眠らされた仁那の様に意識が急に遠くなった。遠くなる意識の中で淡々と話す玲人の声を聞いた。


 「……この技は“彼”がさっき仁那に対して行った技です……」


 玲人は崩れ落ちた伊藤の体を抱き抱え、安全な廃墟の壁際に座らせた。


 玲人が伊藤に使った技は“彼”が仁那に使った技だった。“彼”の意識は眠っているが体で戦った記憶その時覚醒していた修一を通じて残っている。その記憶より、この技を再現したのであった。

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