152)模擬戦(小春VS玲人)-19
小春の模擬戦に対する気持ちを聞いた玲人は困惑気味に答えた。
「……しかし、小春……君は戦えないだろう?」
小春にそう言った玲人に割り込む声がした。
『大丈夫だ! 小春ちゃんが戦えなくても俺らが居る!』
そう言って叫んだのは前原だ。
『私も居る! 小春ちゃんには助けて貰ってばかりなのに、私達が小春ちゃんを助けない訳にいかないわ!』
前原に続いて沙希も答える。
『私も勿論やるよ!』
次いで指揮通信車に居る志穂も答えたのだった。
「み、皆さん……有難う御座います!」
次々に名乗りを上げる分隊のメンバーに小春は素直に礼を言った。しかし玲人が静かに答える。
「皆……小春を支援してくれて礼を言います……だけど、もう勝敗は付いている。もう終わりにしましょう」
玲人は冷静に答えた。玲人がそう話すのは無理も無い事だった。前原と沙希のエクソスケルトンは修一により両腕が破損され、攻撃が出来ない。
志穂の操る無人機も残るは“トンボ”だけ。そして小春の戦闘力は期待出来そうにない。対する玲人は最強だ。何を如何やっても玲人には傷一つ付けれない。
どう考えても勝ち目の無い展開であり、玲人が中止を求めるのも理解出来る。名乗りを上げた前原以下、分隊の皆も押し黙った。
『『『…………』』』
そんな中、最も頼りにならない筈の小春が声を上げる。
「いいえ、玲人君。わたし達はこの模擬戦で玲人君に負けません!」
絶対的に不利な状況の中で、小春の中で眠るマセスがどうやら背中を押した様だ。対して玲人は一瞬驚いたが、嬉しそうに笑って答えた。
「……そうか、それなら小春の戦い方を是非見せてくれ」
玲人は皮肉でも何でも無く、本心でそう言った。対して小春も笑って大声で叫んで答えた。
「うん! 精一杯頑張ってみるよ! わたししか出来ないやり方を!! 志穂さん! 車をわたしの近くに寄せて下さい!」
『お、おう! 分ったよ、小春ちゃん! 姉御頼む!』
小春は志穂に対して指示を飛ばす。次いで前原達に声を掛けた。
「前原さん! 沙希さん! お二人のロボットにはニョロメちゃんが憑いています! わたしが意志を送って動かすので、前原さん達は動かして下さい! 出来る筈です!」
小春は、二人のエクソスケルトンに早苗が憑依させたニョロメちゃんを通じて、破壊された両腕を意志力を送り動かせる考えだった。
関節など無いコンクリート片をゴーレムとして動かせる能力だ。破壊されたとはいえ、両腕を動かせる事等、小春には容易かった。
前原達は小春の言った通りに、エクソスケルトンの両腕を操作してみた。
『!!……動く、動くぞ! コレ! どういう理屈だ!?」
『私の方も同じよ! ディスプレイ上では両腕の重故障アラート消えていないのに! す、凄いよ、小春ちゃん!』
前原と沙希は、自分達の機体の状況に驚いて叫ぶ。前原と沙希のエクソスケルトンは、修一の黒石球による反撃で、両腕を完全に破壊された。関節をぶち抜かれ、動力や信号系統のケーブルを切断され、曲げる事すら出来なかった筈だった。
しかし、小春は前原達の肉体に予め憑依させたニョロメちゃんと、後付けで憑依させたエクソスケルトンのニョロメちゃんをリンクさせ、前原と沙希の操作意志通りにエクソスケルトンを動かせるよう、ニョロメちゃんに意志を込めたのであった。
『これで、戦える!』
『ええ!』
前原達は、そう叫んでブレードを取り出し玲人に迫った。
その間に、小春の傍に指揮通信車が横づけされた。指揮通信車から志穂が小春に呼び掛ける。
『来たよ! 小春ちゃん!』
「はい! 有難う御座います! 志穂さん!」
そう大声で志穂に答えながら、小春は指揮通信車に向けて右腕を差し出し、何かを放り投げた。それは2体のニョロメちゃんだ。ニョロメちゃんは小春の能力を受けた為か凄い速度で指揮通信車に到達した。
指揮通信車の内部には予備のアンちゃん、つまり戦闘用アンドロイドが2体ある。小春が投げた2体のニョロメちゃんは指揮通信車の装甲を通り抜け、内部に設置されているアンドロイドに憑依した。小春は意志力を込め、戦闘用アンドロイド、アンちゃんを2体とも起動した……
“バン!”
そんな音と共に、指揮通信車の上部ハッチが小春の意志力によって独りでに開いた。起動したアンちゃんは指揮通信車内部から飛び出し、空中でボディを捻りながら、2体とも小春の眼前に舞い降りた。
“ザン!” “ザシュ!”
二体のアンちゃんは一体は小春の横に控えもう一体は、玲人の前に立った。小春の考えとしては、一体は仁那の様に近接戦闘に当て、もう一体は早苗の様に、能力戦に当てがう心算だった。
こうして、玲人の前に前原と沙希のエクソスケルトンと、2体のアンちゃんが立ち塞がった。その様子を見て、玲人は嬉しそうに小春に話し掛ける。
「……凄いぞ……まさか、此処まで戦力を集める事が出来るとは思わなかったよ、小春……君には本当に驚かされてばかりだ……」
愛する玲人に笑顔で褒められた小春は大いに動揺しながら、頑張って答えた。
「ほ、ほほ褒められるには、ま、まだ早いよ! こ、これからなんだから!」
「そうだ! 俺も此れからだ!」
小春に次いで叫んだのは、伊藤だった。狙撃銃を全て失ったが、戦闘を放棄せず玲人の元に近接戦を行う心算で此処まで来たのだ。
背後から伊藤の叫びに、前原達も奮い立たされ大声で答える。
『!!……伊藤さん! ア、アンタ根性凄いよ……よーし! 俺も負けてらんねェ!』
『私もやるわよ!』
前原と沙希が伊藤に答える。
『ダルマにゃ、いいカッコさせないぜ! 私だって居るんだから!』
志穂も指揮通信車のスピーカーを通じて叫ぶ。最後に小春が玲人に向かって叫ぶ。
「玲人君! 此れが最後の戦いです!」
小春の迷いない元気な声を聞いて、玲人は微笑みながら分隊の皆に答える。
「分ったよ、小春。そして皆……俺もベストを尽くそう!」
こうして模擬戦最後の戦いが始まった。玲人と言う恐るべき力を持つ魔人に対する、最後の模擬戦が……
まず先制したのは小春だ。小春は、いきなり“扶翼”を発動し、分隊の皆の潜在能力を底上げした。
小春は両腕を高く上げ、輪の様な光を作り出した。光の輪は小春の頭上から広がりながら前原達に光の羽を降らせる。光の羽を受けた前原達は口々に叫ぶ。
『さっきと同じ羽! また、凄い力が湧いてくる感じだ!』
『小春ちゃんの力ね! 本当、何でも出来そう!』
『ドーピング来たー!!』
「確かに……気持ちも、体力も向上した様だ!」
こうして分隊の面々に“扶翼”の支援効果がもたらされたのであった。
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