150)模擬戦(黒鎖の大砲)-17

 銃が破壊され前原と沙希の慌てる様子を見て修一は静かに話す。


 「……無駄だよ……僕の、この黒石球は防御も攻撃も僕の意志で自動で行う。今は武器だけを破壊する様、意志を込めたから攻撃してきた銃を破壊したんだ」


 そう二人に話した修一は、障壁を展開した。今度は幾重も。そうして二人に話す。


 「今度は……僕の番だ」


 修一が二人に言った後、右手を前に差し出す。すると黒い球状の盾から、小さなパチンコ玉位の大きさの黒い弾が100個ほど分離して、修一の眼前で宙に浮かびながら整列した。


 「……行け」


 修一がそう呟くと10mm程度の黒い弾は一斉に前原と沙希のエクソスケルトン目掛けて弾丸より速く発射された。


 “ドキュ!!”


 そんな音と共に発射された黒い弾は前原と沙希のエクソスケルトンに展開された障壁を貫き、エクソスケルトンの両手の関節をぶち抜いた。


 “ガイン! ガン! ゴゴン!”


 そんな音を立てて、エクソスケルトンは貫かれている。修一は敢えてエクソスケルトンの腕のみを破壊した。脚部は破壊すると移動出来ないという判断だ。

 また、修一が放つ黒弾は修一が意志を込めれば白色化し、黒弾の一粒一粒が恐るべき爆発力を有する事になるが今回は模擬戦の為、敢えて行わなかった。


 エクソスケルトンの両腕を破壊された前原は思わず呻く。


 「……クソッ! 完全にやられた! バリアーすら意味無いなんて……こうなりゃ、体当たりしかねぇか!?」


 エクソスケルトンの中で叫ぶ、前原に通信が入った。早苗からだ。




 『……お待たせ、前原君、沙希ちゃん……準備出来たわ! 危ないから二人とも離れてね!』


 早苗の通信を受けた前原が後方に位置する早苗の方を振り返ると、早苗の武器である黒鎖がらせん構造を成して空中で筒状の形態を作っていた。長さは4m程、筒の径は1m位だろうか。黒鎖の筒は空中で回転しながら、修一に方向を定めている。さながら、大砲の様だ。


 前原は早苗が言う大技が普通の技でない事を予想し沙希に声を掛け後方に緊急退避した。前原達の退避を確認した早苗は、黒鎖の大砲に強力な意志を込める。


 すると真っ黒だった、黒鎖の大砲は真白く輝き、回転が急激に早くなった。


 “キイイイイン!!”


 そんな音を立てて、黒鎖の大砲は強大なエネルギーを溜めていく。ここで早苗は修一に向かって笑顔で叫ぶ。


 「修君! 此れが! 私の力の全てよ!」


 対する修一は静かに答える。


 「任せて、早苗姉さん! 全力で応えて見せるよ!」

 「其れじゃ、受け止めて見せて!!」


 そう叫んだ早苗は、更に意志力を込めた。


 すると、真っ白に輝く鎖の大砲は砲塔の中より眩い光が生まれ、放たれた。


 “キュン!!!”


 鎖の大砲より放たれた光線は一本の巨大な光の柱となり、その軸線上の全てを貫いた。そして……遥か後方にて大爆発が生じた。


 “ゴガガガガアアアアン!!”


 修一が居た遥か後方にて巨大な火球が生じ豪炎が立ち上った。もはや何度目の爆発か分らないが、先程玲人の針により生じた爆発と同規模の規模だ。




 その爆発の上空に居るガリアとリジェは感嘆の声を上げていた。


 「やるな……あの早苗とか言う混ざりモノ……なかなか強力な武器を作り出したぞ」

 「そーだな! “雛”もその父親も武器を持ったし、順調だ!」

 「まぁな……だが、お前の言った事も一理有るかもな?」

 「あん? アタシ、何か言ったけ?」


 ガリアの問いにリジェは何の事か分らなかったので聞き返した。


 「ああ、お前はこう言った“アタシらで直接相手した方が良い”ってな……無論最初から考えていなかった訳では無い……

 しかし私達は余りに手が足りなかった。何せ私達は最初6人だけしか居なかったからな……私達はその6人でアガルティアの復興や、マセス様をお助けしなければならなかった。

 アリエッタも同時に目覚めたとは言え……ロティの奴は赤子に転生したから動けんかったし……その為、“雛”の件はトルアに任せて仕方なくマールドム共に戦いの相手をさせていた訳だが……

 それが、どうだ!? 同じアーガルムの小春達と戦っただけで、今日の進歩は!? 一度この件、持ち帰り今後の方向性を考えねばならん……」


 「だけどよー、アタシが言っておいて何だが……“彼”をアガルティアに連れ帰るのはまだ、早すぎじゃね?」


 喜んで語るガリアにリジェが心配そうに語る。何せ今日見せた“彼”の“寝返り”での大破壊を見て懸念しているのだ。其れに対しガリアが明るく答える。


 「ああ、分っている……。その点については妙案がある、だから任せておけ」

 「そうか……なら、後で聞かせて貰うぜ」

 「何にせよ、持ち帰ってウォルスやアリエッタ達に相談せんとな。お前は早くマールドム共を“彼”にぶつける様に急がせろ。使えん奴らだが少しでも“彼”の糧にするのだ……私はこの件を進めると共に小春達の護衛を準備する」


 「あー、アルマも、そんな事言ってたな……アタシの従騎士からもエニやマセス様に特に縁が有る奴、選べってな……従騎士の奴ら自分が選ばれる様、争奪戦してたぞ……ハァ」


 リジェが珍しく溜息を付く。その姿を見たガリアが笑顔で答える。


 「ハハハ、やる気が有るのは結構だ! そう言う私の従騎士達も同じだが……いずれ増やしていく予定だが、取り急ぎ腕に覚えのあり、使命感のある従騎士から数名選んで派遣する予定だ」

 「半分以上、遊びの任務だよな……マジでアタシがやりてぇ位だ……」


 リジェの愚痴にガリアがいつもの様に苦笑して突っ込む。


 「歳の違いで、無理だろ」

 「……あー、こんな事やる、って分ってたら、ロティみたいに赤子に転生すりゃ良かったぜ……」

 「やめてくれ……あの時の目覚めた時の多忙さを思い出せばシャレにならんぞ……うん?……見られているな?」


 リジェの冗談にガリアは覚醒当時の大変さを思い返し、素で呟いたが何かに気付いた様だ。


 「……あん? 誰に見られてるって?」

 「……混ざりモノの彼女だ……」


 リジェの問い掛けにガリアが呟く。どうやら地上に居る早苗がガリア達に気付いたらしい。

 

 「……確かに気付いてやがるな……でもよー、ここ空の上とはいえ、アリエッタが光を歪めてアタイらの姿は絶対見えない筈だろ?」

 「……ああ。但しそれは間抜けなマールドム共だけに効果がある……アーガルムである我々や彼女達には、本質を見抜ける為に無意味だ……迂闊だったな……成長していたのは小春達も同じという事か……」

 「……仕方ねぇ、撤収だな」

 「ああ、今日の所は仕舞いにしよう……」


 リジェとガリアはそう言いあって、転移しその場を去った……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る