149)模擬戦(魔王)-16
互いにアーガルムの武器を作り出した早苗と修一。構えあった二人だったが……
先制したのは早苗だ。右手を高く上げて振り下ろすと幾条もの黒い鎖が修一に襲い掛かる。修一は石の玉を掲げると、玉は変形し巨大な円盤となり、鎖の攻撃を防いだ。
“ギャリギャリギャリ!!”
鎖は、修一が作った円盤に衝突したが先端の刃が円盤の横側から左右に回り込み修一を横から襲った。
対して修一は障壁を展開し、此れを防ぐ。修一が作った円盤は二つに分かれ、巨大な扇状の刃を形成した。
修一の武器である黒石球は修一の意志により自在に形状を変えられる。無限の攻撃・防御形態が取れる驚異的な武器だ。
二方向から迫った早苗の鎖を分断する為、修一が作り出した2枚の扇状の刃は、左右から襲ってきた早苗の鎖に切り掛かった。
“ガイン!!” “ガキン!!”
そんな衝突音が響いた。早苗の鎖は、修一の放った刃によりあっさりバラバラになった。
しかし、バラバラになった鎖の菱形の輪は宙に浮かび……そして一斉に全方向から修一に襲い掛かった。修一はこれを咄嗟に展開した障壁で防ぐ。
“ガキキキキキキン!!”
障壁に防がれた、菱形の刃状の輪は障壁の所為で阻まれ、空中に静止している。
早苗はその状態を見て、右手を差し出して空を掴む様に手の平をグッと握った。すると……空中に静止していた菱形の輪は一瞬で真っ白に輝き、大爆発を起こした。
“ゴガガガアンン!!”
修一を中心に火球が形成され、豪火が生じた。しかし、二枚の扇が途端に形状を変え、煙の様なモヤになって発生した豪火を包み、音を立てて一瞬で炎を喰らい尽くした。
“バシュウウ!”
その後、修一は静かに佇んでいた。早苗の出方を待っている様だ。
その様子を見た、早苗は呟く。
「……やっぱり修君の方が上手ね……このままじゃ同じ事の繰り返しなだけ……さっき思い付いたアレやってみるか……時間稼ぎが必要ね」
そう呟いた早苗は背後に居た前原達に声を掛ける。
「……ちょっといいかしら、前原君、沙希ちゃん」
『ど、どうかしました? 早苗さん?』
先程から想像を絶する戦いを見せられ、緊迫していた沙希は、いきなり早苗に呼び掛けられて動揺してしまった。早苗はそんな沙希に静かに答える。
「……ちょっと大技試したいんだけど……準備するのに時間掛かるんで、少し応援してくれないかしら? 私も多少なら支援出来るわ」
『いいぜ、早苗さん。他の連中にも声掛けるから、どうすればいいか教えてくれ』
「貴方達はさっきみたいに銃で撃ってくれたらいいわ。私がそれを強化してあげる……その程度なら準備の障害にならないからね」
『分った! 俺達で出来る事をやってみよう!』
そう言って前原と沙希は、坂井に連絡の上修一を取囲み、一斉攻撃を行う事とした。
まず、前原と沙希は修一に対し左右に分かれて陣取り、伊藤は遠方からの狙撃体勢に入った。志穂は無人機によるバックアップだ。
ここで早苗は前原と沙希のエクソスケルトンにニョロメちゃんを憑依装備させた。模擬戦が始まる前に小晴が分隊全員に安全の為に渡してはいたが、エクソスケルトンには憑依させていなかった。早苗がそうした理由はエクソスケルトン自体の戦闘力強化の為だった。
前原と沙希は修一に対し2方向から同時に銃撃した。
“ダダダダダダダダ!!”
此処までなら今までと何も変わらない。修一に対し何の痛痒も与えない攻撃だ。
しかし早苗はエクソスケルトン自体を強化し、その戦闘力を底上げしていた。それは早苗がニョロメちゃんを通じて意志を込めるだけで、現象化する。エクソスケルトンが放つ銃弾すらも強化されていたのだ。
前原と沙希のエクソスケルトンが放った銃弾は、例によって障壁により遮られ、停止した。しかし放たれた銃弾は早苗の強力な意志により強化されている。その為、その貫通力は尋常では無かった。
“ピシ! ビキッ!”
そんな音を立てて修一の障壁が、銃弾によりひび割れ始めた。その様子を無人機で見ていた志穂は伊藤に状況を伝えていた。
『ダルマ! 修一さんのバリアにヒビが入り出した! チャンスだぞ!』
『……了解。あと、ダルマは余計だ!』
伊藤は志穂に文句を言いながら油断なくスコープで修一の姿を凝視している。障壁が破壊された時、ペイント弾を叩きこむ為だ。
そんな状況の中、前原と沙希は更に銃撃を続ける。
“ダダダダダダダダ!!”
障壁のひび割れは徐々に広がり……
“パキン!”
やがて音を立ててガラスの様に割れた。それを見た伊藤は迷わず修一に狙撃銃でペイント弾を発砲した。
“ダーン!” “ダーン!”
伊藤の狙撃と同時期に、前原と沙希は眼前の修一の障壁が破壊された事を見て各々叫んだ。
『!! 今だ! 続け、沙希!』
『ええ!』
そう叫んだ前原と沙希は障壁を失った修一に対し、一斉射撃を行った。
“ダダダダダダダダダダダ!!”
一方、狙撃銃で修一に発砲した伊藤はスコープで修一を見つめていた……様子がおかしいからだ。
伊藤が続けざまに放った2発の銃弾は、其々障壁を失った修一の胸部に命中する筈だった。
しかし……
放たれた2発の銃弾は、伊藤の思惑とは外れ、いつまで経っても修一に命中する事はなかった。何故なら障壁を失った修一を守る様に黒い球体の様な壁が瞬時に展開され、伊藤の銃弾を防いだからだ。
「……何だ? アレは?……」
そう呟く伊藤は、修一を守る黒い壁が蠢くのを見た瞬間、甲高い音を聞き視界が突然失われた。
“ビキン!!”
視界が失われ、竹が割れる様なそんな音がした為、伊藤は狙撃銃を確認すると……
“パカン!”
そんな音と共に狙撃銃が銃身(バレル)に沿って竹を縦割りする様に割れた。
「な、何だ、此れは……?」
伊藤が驚いて裂けた狙撃銃を見ると肩を当てる部位になる銃床(バットプレート)部に5cm位の黒い円盤が煙になって消えていく様子が見られた。察するに修一が纏う黒い球体から放たれたモノだろう。その手裏剣の様な黒い刃が銃口から銃身に沿って狙撃銃を縦割りしたのだ。
「……全く恐ろしい……子が魔人なら、父親は魔王と言った所か……」
伊藤は呟きながら、立ち上がった。狙撃銃は全て失った。もはや伊藤が出来るのは近接戦闘だけだ。
(……あの二人にはとても勝てる気等しない。玲人君と修一さんは強すぎる……前回の模擬戦ですら、児戯に等しい程……玲人君達は強く、圧倒的な存在になってしまった……)
此処で伊藤は目を瞑り、じっとしている。そして……
「……だからこそ! 挑む意味が有る! 俺は其れをする為に、この分隊に来た!」
伊藤は、自身に言い聞かせる様に叫んで不敵に笑みを浮かべた。伊藤が安中の誘いに乗ってこの特殊技能分隊に来たのは、隻眼の異名で恐れられた玲人に挑みたいという想いからだった様だ。
伊藤雄一郎という男は困難が大きければ大きい程、燃える不屈の男だ。(志穂がここに居れば脳筋と罵っているだろうが)
伊藤は装備を整え迷わずに、玲人達が居る最前線へ向かった……
一方、その最前線では……前原達が驚愕していた。早苗により強化された前原達の銃弾が確かに修一の障壁を破壊した筈なのに、修一が武器としていた黒石球が形を変え、球状の盾となって全ての銃弾を防いだからだ。
『……も、もう一度試すわ!』
そう言って沙希が果敢にエクソスケルトンを操作して銃を構え発砲したが……修一の盾が銃弾を防いだ。そして盾の一部が揺らめくと……
“バガン!” バキン!“
そんな音がして、前原と沙希の銃が伊藤の狙撃銃同様に切断された。修一の盾から自動的に発射される黒い刃に寄るものだ。
『! 銃がいきなり破壊されたぞ!』
『私のエクソスケルトンの方も同じよ!』
前原と沙希はエクソスケルトンに装備された銃が突然破壊された事に驚き叫んだ……
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