148)模擬戦(互いの象徴)-15
早苗は破壊されたゴーレムと背後の火球を見て流石に驚愕し呟いた。
「な、何て事……」
玲人が生み出した針による火球は仁那の技に比べ、更に巨大だ。そして傍らのゴーレムを見ると、針により開けられた孔は2m位で大きかったが、完全崩壊に至るモノでは無かった。
にも拘らず不思議な事に孔を起点に崩壊が止まらない。丁度“鎧崩し”により触れた所が破壊される状況の様だった。恐らく、玲人の放つ針は障壁を貫くだろうと早苗は予想した。針の恐るべき破壊力に早苗は思わず呟く。
「此れが……アーガルムの武器……凄すぎるわ……」
呟く早苗の前に玲人が宙に浮きながら現れた。玲人は障壁を解除し、右手には新たな黒い針を生成している所だった。
「降伏してくれ……母さん。この針には障壁も無意味だ」
玲人は静かに早苗に降伏を勧めるが、早苗は笑顔で持って玲人に返す。
「流石ね、玲君。私の作ったゴーレムすら一撃だなんて……でも、まだ私は満足していないわ!」
そう言って早苗は右手から何かを玲人に向け放り投げた。それはニョロメちゃんだった。
“ヒュン!”
ニョロメちゃんは玲人の体に吸い込まれて、玲人の体を一瞬、支配した。
「どう!? 玲君! このエロメちゃんの支配から逃れられるかしら!?」
早苗は嬉しそうに玲人に向かって叫ぶが、玲人に憑依していた筈のニョロメちゃんが玲人の体から弱りながら這い出て、やがて煙の様に霧散して消滅した。
「……無駄だ、母さん。小春の作った新しい目は確かに強力な支配力を持つが、対象が母さんより強い意志力で抵抗すれば、支配から抜けられる……以前、母さんが俺を使ってその目を試して居た際に、俺もその目の対抗策を生み出していた……」
玲人は落ち着いて回答する。しかし早苗はせっかくの奇策が破られたにも関わらず、ニンマリ笑って玲人に答えた。
「流石……我が息子! 抜け目無いわね……だけどね、其れは私も負けて無いわよ!」
そう言って早苗は後ろに飛んで距離を取りながら玲人に叫んだ。
「今の、エロメちゃんは……玲君を操る為じゃない! 玲君の心を見る為よ。玲君が言ってたアーガルムの武器の作り方をトレースする為にね……支配出来たのは一瞬、だけど私には其れで十分よ!」
そう言って早苗は目を瞑り、手を広げた。何かを生み出す為だ。早苗の背後から黒いモヤが生まれ出した。早苗は玲人の記憶をニョロメちゃんから心通で垣間見て、玲人が作ったアーガルムの武器生成を会得したのだ。
しかし今の早苗には生成には時間が掛かる。玲人はゆっくりと早苗に迫るが、早苗は目を瞑ったままで武器生成は追い付いていない。
玲人は早苗を仁那同様、無力化しようと近付いたが……
“ダダダダダ!!”
突然の発砲音に、玲人は後方に飛び距離を置いた。すると、早苗の後方より玲人に向かって、射撃体勢を取っている前原と沙希が操縦するエクソスケルトンの姿が見えた。
“ダーン!”
次に狙撃銃の発砲音が響き、玲人の眼前には狙撃銃からのペイント弾が静止していた。伊藤が玲人に向け狙撃したペイント弾を玲人が能力で静止させたのだ。
その間に、前原と沙希が駆るエクソスケルトンが早苗を庇う様に、玲人に立ち塞がった。
『玲人君! 早苗さんを支援させて貰う!』
『良く分らないけど、動きが無い早苗さんを守るわ!』
前原と沙希はスピーカー越しでそう言って発砲を繰り返し、玲人の動きを止める。
『玲君、私達も居るからね! ダルマ! ぶちかませ!』
エクソスケルトンのスピーカーに割り込んで叫ぶのは志穂だ。上空の無人機から玲人を見ているのだろう。狙撃担当の伊藤に指示を出す。伊藤は其れに答える様に発砲した。
“ダーン!”
伊藤が狙撃銃で放ったペイント弾は玲人が展開する障壁に阻まれた。
『続くぞ! 沙希!』
『ええ!』
前原達は、伊藤の狙撃に次いで銃撃を続けた。
“ダダダダダダダ!!”
前原達の攻撃は玲人に何のダメージを与える事も出来なかったが、早苗の為に時間は稼ぐ事は出来た。早苗は目をゆっくりと開けて呟く。
「……出来た……玲君が針なら、私はコレね……自分の中で形として強力な存在としてイメージ出来るモノ……力の象徴……」
どうやら、早苗自身の武器生成は時間は掛かったが前原達のお蔭で完成した様だ。
「……貴方達……助けて、なんて言った覚えは無いけど……その気持ちは感謝するわ。お礼に見せてあげる! 私のコレを!」
そう叫んだ、早苗の背後で飛び出すモノが見えた。黒いモヤでしか無かった塊から勢いよく飛び出し、早苗を取り巻く様に蜷局を巻いた黒い物体は……
それは幾条もの鎖だった。真黒い素材の鎖は菱形の輪が連なり、一つの輪が大きい。菱形の輪は鋭い刃になっており、鎖の先端は刺突出来る様なクナイの様な刃が付いていた。そんな鎖と称するには攻撃的な其れが、幾条も早苗を守る様に早苗を中心に蠢いている。
「……母さん、それは鎖……なのか?」
玲人は、その特異な形状の武器? を見て早苗に問い掛けた。
「そうよ……死ぬ前の私の人生はどうにもならない、しがらみで雁字搦めに縛られ息をするのも辛い人生だった……まさしく鎖に縛られて引きずられる様に……でも、修君に出会って自分を救われ、小春ちゃんに家族を救われ、マセスにより力ある存在へと生まれ変わった……
玲君、この鎖は……過去への決別よ。私を支配する力の象徴を、新しい私が支配し、私を、私達を縛ろうとする者共を破壊する為のね……」
早苗はそう言って、力強く不敵に笑った。
「成程……確かに母さん、その武器は強力そうだ……」
玲人がそう呟いて構えると、玲人の脳内で修一の声が聞こえた。
“……玲人……此処は替わって欲しい。早苗姉さんの気持ちに答えなくては”
(分ったよ、父さん。今替わる)
玲人は修一に脳内でそう答えて、修一と入れ替わった。
玲人と入れ替わった修一は早苗に語る。その右手には黒いモヤが生じていた。
「早苗姉さん……今の僕は修一だ……早苗姉さんの気持ち良く分るよ……早苗姉さんがその鎖を力の象徴として扱うなら……僕の武器はコレだ!」
修一は右手の黒いモヤを増大させ、形を成した。其処から生まれたのは、真黒い球だった。
「修君……それってあの時の……」
早苗は目を見開いて呟く。その黒い球は、早苗と修一が殺された時に祭壇に置かれていた、あの石の玉を思い出させた。
「そうだよ……コレは、あの時の石の玉をイメージしたものだ。この石の玉の所為で、僕達は殺されて……生まれ変わる事が出来た……あの時僕は、大切な人と新しい家族を守る事が出来なかった……そして同時にもう一度全てをやり直す機会を与えられた……ならばやる事は決まっている! 僕は二度と大切な人と家族を失いたくない。彼らを守る為に戦う!
そんな僕が武器として選ぶなら、僕にとってはコレしかない。この石の玉が、僕の中の力を示す象徴だ。全てを奪い、全てを与えた圧倒的で強力な存在……それが僕の武器。だから、コレを持った僕は絶対に負けない!!」
そう叫んだ修一を称える様に、石の玉は修一の横に静かに浮かんでいる。その様子を見た早苗は涙を流して修一に話し掛けた。
「……修君……修君が私や、子供達の事を如何に大切に想い、そして守ろうとしてくれる気持ち……その気持ちが言葉じゃ無く直に心で伝わるわ……それも力強く、真っ直ぐな想いが……ああ、こんなに幸せな事は無いよ……だから私はとても嬉しいの……その想いの象徴である、その武器……私なんかではとても敵いそうにないけど、少しだけ相手させて貰うね」
「ああ、勿論だ! 早苗姉さん!」
早苗と修一の二人はそう言って、互いの想いの象徴たる武器を構えた……
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