147)模擬戦(魔人の武器)-14

 早苗のゴーレムが豪腕を振るい、修一に襲い掛かる。


“ドゴオオ!! ガゴオオン!!”


 障壁越しで殴られ続けている全く問題ない様子で修一は、再度玲人と脳内で会話していた。


 (面白いね、玲人。このゴーレム……小春ちゃんの能力だけじゃこんな力は出せない。ゴーレムは動力源は早苗姉さんの意志力で、制御はあのニョロメちゃんで行っている。だから力強い攻撃だが生物の様に応答性に優れた滑らかだ)


 “……そうだな……”


 (?……どうかした? 玲人?)


 “大昔……俺も見覚えが……しかし……あんなオモチャじゃない……”


 (あのゴーレムがオモチャ? 随分怖いな……どんなモノだったの、玲人の記憶の其れ?) 


 “……確か……隻眼……六腕……巨像……だった……“


 (六腕って! 玲人……もしかしてログハウスの……巨大な腕!!)


 “そう……俺は……巨像を武器に……”


 (玲人!! アレはダメだ。あんな巨大なモノ使ったら!)



 修一は玲人が静かに語る、巨像に関して声を大にして制止した。玲人の心の中に有る、巨大な六腕の何か……手首だけで150m近く有った。

 単純に比例計算しても頭部から足まで全体像は1000m近い存在となる。そんなものが現実世界に再現されたらとんでもない事になる。修一が止めたのはそんな懸念からだ。



 “大丈夫……父さん……今の俺では使えない……多分……アレは”彼“のだ……だから俺達は、俺達自身の武器が……必要“


 (……僕達自身の武器?)


 “ああ、技、と言っても良いかもしれない……とにかく父さん一度俺に替わってくれないか?“


 (……玲人……大丈夫か?)


 修一は先程、玲人の中の“彼”が起こした大破壊を思い返し、玲人に替わる事で“彼”がまた、目覚める事を懸念した。


 “大丈夫だ、父さん。俺は、俺のままでいる。“彼”に意識を明け渡しはしない“


 (分った……少しだけ替わろう……だけど十分注意してくれ。僕も君に異常が無いか見続けるよ)


 修一はそう言って目を瞑り、玲人に替わった。

 



 “ガゴオオン!! ゴゴオオン!!”


 ゴーレムは玲人達の障壁を変わらず殴りつけている中で、修一から替わった玲人は静かに思考を続ける。


 (武器……巨像……父さんが言うように……アレは危険だったと思う……だから“昔”もアレは使わなかった……代わりに“鎧崩し”とか多くの技を……でも、今は違う……俺の武器といえば……アレしか……思いつかない……)


 玲人は考えながら右手の平を上に向け、高く上げた。電柱を投げた時の様に……


 (さっき記憶で見た……俺が戦った、黒い鎧の戦士たちは……黒い鎧と……黒い武器を持っていた……黒い? そうか“鎧崩し”と同じか!)



 玲人が過去の記憶を思い出し、上げた右手の平に黒いモヤを集め出した。黒いモヤはやがて細長く長いモノを形成していく。


 それは長さ1m位、太さが5cm位の槍の様な巨大な針だった。両端は鋭く尖っており、槍と断言するには特異すぎた。玲人が任務で長く使っていた、タングステン製の針……アレを巨大化したモノだった。



 修一の様子がおかしい事に気付いた早苗はゴーレムの動きを止めて、修一から玲人に替わったと判断し声を掛ける。


 「……今は修君から玲君に替わったのね? 所で玲君……その長い槍みたいなのは何かしら?」


 早苗に問われた玲人は静かに答える。


 「母さん……此れは槍じゃない……俺が長く使って来た針だよ」

 「針と言うには大きすぎるけど……その針でどうする心算?」

 「此れは、俺の武器……俺達アーガルムは……いや、アーガルムの騎士達は自分の……武器を持ちて戦うんだ」


 「アーガルムの騎士……玲君、まさか“彼”の記憶を?」

 「違う、夢を見る様に……見えただけ……とにかく……母さん、早速だがこいつの力、そのゴーレムで試させて貰う!」


 「……いつになく積極的ね、玲君! だったら私もこの子に頑張って貰うわ!」



 そう言って早苗は、ゴーレムに向かい右手を向け、真白に輝かせ意志を込める。するとゴーレムの右腕は周りの瓦礫を吸い寄せ、更に不自然に武骨に巨大化した。


 “ゴン、ガン、ゴゴン!!”


 衝突音を響かせコンクリート片の腕に、更に瓦礫が集まり凶悪な姿だ。カニの様に右腕だけ巨大化したゴーレムは障壁に守られた玲人に目掛け、凶悪な右腕を振り上げ、叩き付けた。


 “ドゴオオオオン!!”


 巨大な右腕の打撃は障壁越しとは言え、大地を振るわせる程の衝撃を与えた。衝撃により右腕の一体化した破片は周囲に飛び散る。



 振り降ろしたゴーレムの右腕は障壁によりギシギシ音を立てながら、止められている。


 玲人はその様子を見て、右腕に生成した黒い巨大な針に意志を込める。すると黒い針は白い光を放ち出した。


 「思った通り……記憶の中の、黒い騎士達は武器を白く光らせていた……意志を込めるのが鍵か……そしてその白く光った武器は……全てを砕く!」


 そう呟いた玲人は、光を放つ黒い針を投げ放った。


 “キュボッ!!”


 凄まじい速さで投げられた針は、空を切る音を放ち巨大なゴーレムの右腕を一瞬で砕き、その武骨なコンクリートの胴体に巨大な穴を穿った。胴体を貫かれたゴーレムは穴を起点にビシビシと崩壊していく。


 “ゴガガガガガガガン!!”


 そして遥か後方の廃ビルに貫通し、そのまま背後に有った構造物を軒並み貫通した後、大爆発を起こした。


 “ドガガガガガアアアン!!”


 遥か後方の廃ビル群は巨大な火球に包まれている。巨大な火球が生じた後、衝撃波が廃ビル群を揺るがせ、火球は豪炎になった……




 玲人が放った黒い針が大爆発を起こす少し前の事だ。


 伊藤は、玲人や早苗達が居る最前線から500m位離れた廃ビル屋上を狙撃ポイントとして陣取っていた。この時代のペイント弾(FX弾)は狙撃銃用もあるが、発射速度も遅く、有効射程距離も通常弾に比べ劣る為、伊藤は前線に近付かざるを得なかった。

 伊藤は伏射姿勢で射撃ポジションを取りスコープで標的(玲人)を視認し続けている。


 スコープの先の状況は常軌を逸していた。スコープの先では10m近い石の巨人が玲人に襲い掛かっている状況が見られた。


 右腕に当たる塊が極大化して自動車位の大きさになったソレを玲人に打ち付けた。対する玲人は右手を高く上げ……煌めく何かを持っている。伊藤がスコープで見る限り細い光の矢に見える。



 やがてその光の矢が発射されると、巨大な石の巨人が貫かれながら崩壊し出した。伊藤は玲人が投げた光の矢が自身が居る狙撃ポイントの廃ビル左手を超高速で通り抜けるのを見た。


 そして……


 突然、背後で大爆発が生じた。


 “ドガガガガガアアアン!!”


 振り返ると遥か後方の廃ビル群において巨大な火球が生じている。伊藤は直感で理解した。あの大爆発は玲人が投げた光の矢によるものだと……

 

 その後。すぐに衝撃波が伊藤が居る廃ビルを襲う。


 “ビシ!” “ガイン!”


 衝撃波によって飛んできた残骸による衝突や、生じた爆風により伊藤の居る廃ビルが大きく揺らぐ。伊藤自身も飛散したコンクリート片に打ち付けられたが、小春が展開してくれた障壁のお蔭で事なきを得た。


 全てが通り過ぎて静かになって、動ける様になった伊藤は思わず笑ってしまった。


 「ハハハ……怪物どころか……魔人だったな……ふぅ……膝が笑っている状況だが……魔人に膝を付かせる努力くらいはやってみよう……」



 伊藤はそう呟き、自身に感じた恐怖に屈することなく伊藤は足掻く事を決めて、狙撃銃を構えたのだった……

 


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