146)模擬戦(ゴーレム)-13

 修一が作り出した秒速100mを超える恐るべき暴風……


 その暴風に襲われた早苗はというと……障壁を展開し、事も無げに立っていた。そこに指揮通信車の坂井梨沙少尉から通信が入る。早苗の耳には模擬戦開始前より通信用の小型マイクが付けられていた。早苗が通信を繋げると梨沙が大声で問い掛けてきた。


 『だ、大丈夫か! 早苗さん!』

 「……ええ、私は問題無いわ……私より前原君や沙希ちゃんの心配をすべきじゃないかしら?」

 『あいつ等なら問題無い、今、確認した。あいつ等のエクソスケルトンは強固な装甲と小春ちゃんのバリアーで守られているからな……でも生身の貴方は大丈夫かな、思って……』


 「フフフ、有難う梨沙ちゃん。でも此れからもっと激しくなるわ、前原君達を下がらして。私達の戦いに乱入参戦して貰って構わないけど……序盤で転がる様じゃね? 私達の戦いを見て、邪魔にならない自信が有るならご勝手にどうぞ……」


 そう言って早苗は梨沙に前原達を引っ込む様に伝え、修一に語り掛ける。


 「さぁ……今度は私の番よ……修君……私の想い受け止めて!!」



 嬉しそうな笑みを浮かべて修一に叫ぶ早苗。その蠱惑的な瞳は妖しく濡れていた。叫んだ早苗は左手を前に差し出し、中指をクン、とキーボードを叩く様に動かした。


 “ボッゴオォオ!!”


 すると陥没音と共に修一の足もとに大穴が空いた。修一は油断なく能力で浮き上がったが、空いた大穴から土で出来た野太い触手の様なモノが何本も這い出て一瞬で修一に巻き付き大穴に引きずり込んだ。


 “ギュルル!!”


 其れと同時に早苗は、自分の右側の廃ビルを見つめて右手を高く上げた。そして右手を白く輝かせると、右手から3m位の光の刃を生成した。光の刃が出来た右手を袈裟切りの様に振り降ろすと刃は音より早く飛んで行き


 “ザイン!!”


 そんな音と共に6階建ての廃ビルを斜めに切断した。切断された部位は2階から3階に掛けて部位で斜め切りされた為、重みで切断された状階部分がずれ始めた。


 “ズズズズズ!”


 切断された6階建て位の廃ビルはゆっくりとズレ落ちていく。早苗は此処で両手をズレ落ちてる廃ビルに向けて、能力を発動させた。


 目を瞑り向けた両手を発光させると、切断された廃ビルは浮かび上がった。早苗は浮かべた廃ビル切断部を修一が引きずり込まれた大穴の真上に浮かべて移動させ、向けた両手を振り降ろし、修一の居る大穴目掛けフタをする様に叩き付けた。


 “ゴガガガアァン!!”


 轟音と共に地響きがして、濛々とした土煙が立ち込めた。地響きによる激震で周囲の廃ビルや廃屋は傾いたり崩れたりした。




 先ほど、修一が起こした豪風により転がされた前原と沙希は、その衝撃と痛みのダメージから立ち直り、漸くエクソスケルトンのボディを立たせた所だったが、今度は早苗が起こした廃ビルの落下衝撃で、生じた激震により、足元がグラつきエクソスケルトンは前原と沙希が操縦する両機とも尻餅を付いたり、倒れ込んでしまった。


 尻餅を付いたのは沙希の機体で、沙希はエクソスケルトンのカメラで早苗と修一の戦いを見ていた。早苗が修一が引きずり込まれた大穴に廃ビルを落とす所も一部始終に……


 「……何なの……こんなのマトモじゃないわ……」


 沙希は、力が抜けた様に呟いた……




 早苗は修一を自分が大穴に閉じ込めた上にフタ代わりに落下させた廃ビルを見ていると……廃ビルが蠢いている。


 恐らく修一が出ようとしているのだろう。早苗としては、自分の廃ビル攻撃が修一にとって何の痛痒も与えていない事を理解していた。

 何故なら、地面の大穴に埋もれている筈の修一から力強い意識の波長を感じていたからだ。早苗にとっては自分の攻撃程度で修一や玲人が如何にか為る筈が無いと、信じ切っていたから、一切の遠慮なく攻撃を仕掛けたのだ。分り切っていたが……



 「……廃ビルの圧潰攻撃も修君達には何の意味も無いか……分っていたけど。流石に無敵すぎるね、私の旦那様と愛息コンビは! フフフ、次はアレで行こう! きっと驚くわ! アハハ!」


 そんな嬉しそうに早苗が呟く中、巨大な台座の様に置かれた廃ビルの真ん中位からビシビシとひび割れし、 


 “バガアアアァン!!”


 そんな破砕音と共にひび割れした廃ビルは真ん中で割れ、左右に吹き飛んだ。


 廃ビルを断ち割り、両手を押し退けた様な形で左右に広げて出て来たのは、修一だ。状況から推察するに、早苗の攻撃で地面に埋められていたが、廃ビルを突き破りそれで新聞を引き裂く程度の感覚で、廃ビルを引き裂き吹き飛ばした様だ。

 


 廃ビルを引き裂いて出て来た修一は早苗を見つめて静かに言う。


 「早苗姉さん……廃ビルの圧潰攻撃は凄かったね。それに地面の土を帯状に操る技も面白かったよ」

 「そうでしょう!? 今日の為に色々考えたんだから! こんなのも用意したのよ!」


 そう言って早苗は嬉しそうに叫ぶ。早苗は修一と戦い合うのが楽しくて仕方がないと言った様子だ。

 


 叫んだ早苗の右手にはニョロメちゃんが5体用意されていた。


 「小春ちゃんが考案したこのエロメちゃんだけど! 実は凄い事が出来るの! 私、コレでいろいろ試したんだから、どうか驚いてね、修君!」


 そう言って早苗はニョロメちゃんを右手から飛ばした。飛ばした先は修一が引き裂いた廃ビルの残骸だ。飛び立った5体のニョロメちゃんは廃ビルの残骸に、すぅ、と吸い込められた。


 すると……


 “ゴゴゴゴゴゴ!!”


 そんな音と共に、廃ビルの瓦礫が蠢きだし寄り集まって何かの形を成そうとしている。 まるで磁石で吸い集められるように小山に集まって、破片の形状を崩し変えながら、ある形を作り上げてた。



 それは、コンクリート片で出来た10m位の巨人だった。人の形などしていない。胴体と言える大きな角ばったコンクリート破片に大小の破片が磁石に引っ付いた金属片の様に手と足と思しき形状を成しているだけだ。頭に該当する部位も無く、関節となる部位には光の帯が破片を繋いでいる様な状況だった。


 「どう!? 修君、この破片で出来たゴーレムは!? 私の意志力とエロメちゃんの制御力との合わせ技よ!」


 そう叫んだ早苗は宙に浮かんで、右手を差し出しゴーレムに指示を出す。ゴーレムは早苗の指示を受けて、その巨体を震わし、玲人に向かって行った。


 不格好なガラクタのゴーレムはその凶悪な腕の部分を振り回してくる。鉄筋コンクリートがむき出しだ。


 「くっ」


 修一は障壁を展開し、ゴーレムの強力な攻撃を受け止めた。


 “ガイイイン!!” 


 ゴーレムは構わず両手を振り回し強烈な打撃を修一の障壁に打ち付ける。


 “ゴガガアン!!”

 “ガアアアァン!!”

 



 前原と沙希達はエクソスケルトンの中で、10mの巨大なコンクリート片で出来た巨人の猛攻を見ている。唯見ているしか出来なかったが、前原が叫ぶ。


 「石の巨人とか、どんなファンタジーだよ! 何でも有り過ぎだ!」

 『でも……どうする? あの石のゴーレムだっけ……あんなの出たら、私達出る幕無いよ……』


 弱気な沙希に前原が励ます。


 「確かに……あの二人は凄すぎる……だからって俺らが凹む理由に為らないんじゃないか? 俺らだって出来る事が有る筈だ!」

 『ああ、俺もそう思うぞ……前原』


 前原と沙希の会話に割り込んだのは伊藤だ。


 「伊藤さん! 」

 『今、俺達がこの場で出来る仕事は、小春君達の能力を活かしてその支援をする事だと思う。幾ら早苗さんが、俺らの力が不要と言っても、必ず必要な時が有る筈』


 伊藤の意見に強く同意する声が通信で入って来た。坂井梨沙少尉だ


 『伊藤! 良く言った! 確かに玲人達は凄い能力を持っている! だからと言ってあたしら分隊が指を咥えて眺める理由に為らない! 前原、沙希お前達、エクソスケルトン組は二手に分かれ2方向から射撃体勢に入れ。伊藤は後方から狙撃準備だ。志穂は無人機で皆をバックアップしろ! 

 今は一人で突っ走ってる早苗さんだがお前達の力を充てにする時がきっとある。その関係性を掴むのも模擬戦でしか出来ない! 皆、行動を開始しろ!』


 『『『『了解!』』』』


 坂井の号令に、分隊の皆は声を揃えて答えたのだった。



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