145)模擬戦(早苗VS修一)-12

 坂井梨沙少尉は早苗の言った事が理解出来なかったので聞き返した。


 「……“彼”ってのは玲人の中に居るとか言う存在か? その“彼”は何で前原達に呪いを掛けたんだ? 意味が分らない」


 早苗は梨沙が首を傾げるのを見て、意味深に安中を見て、呟いた。


 「……さぁね? そこの大佐さんなら物知りみたいだから知ってるんじゃないかしら? ……とにかく……“彼”の呪いを何とかしなくてはね。専門家に今、替わるわ」


 そう言って早苗は目を瞑り、小春に替わった。梨沙は早苗に言われた事が気になって安中に問う。


 「……拓馬……どういう事か分る?」

 「…………いや……流石に何の事か分らない」

 「そ、そうだよな」


 問われた安中は曖昧に答え、梨沙は自分に言い聞かせる様に答えた。そこに早苗から意識を入れ替えた小春が梨沙に声を掛ける。



 「……坂井さん、早苗さんから状況は聞いています。玲人君の中に居る“彼”の影響を受けちゃったみたいですね……先ずは志穂さん達を治療します!」


 小春はそう言って自身の体を白く光らせ、両手の平を頭上に上げた。手の平を中心に光の輪が生じ、それが広がりながら羽毛の様な光を舞い散らせる。

 その羽毛の様な光は、車両や、エクソスケルトンを通り抜け、それらの中に居る志穂や前原そして沙希に降り注がれた。この技はマセスから小春に引き継がれた“扶翼”と言う能力だ。


 “扶翼”による光に触れた志穂達は体の表面が薄く光っている。小春の意志力が付加され精神力や身体能力等が劇的に強化された。それにより恐慌状態に陥り極端に精神力が低下していた志穂達は回復した。


 やがて……


 「あれ? 気持ちが凄く……落ち着いた……それに体、動かせる様になったぞ」

 『あーこちら、前原です……脳内に変な声を聞いた所為か、全く動けず呆けていました。だけど羽みたいな光浴びたら、回復しました。もう大丈夫です』

 『こちら、泉です。前原兵長と同じ状況でしたが……この光は小春ちゃんなのね……有難う! 小春ちゃん、貴方には助けて貰ってばかりね』


 沙希に礼を言われた小春は慌てて返答する。


 「い、いえ……わたしは何も、大した事は何も…………はい」


 梨沙が、小春に重ねて礼を言った。


 「いいや! 本当に有難う、小春ちゃん! 貴方って子は凄すぎるわ! 何かあたしまで元気になってきたよ!」


 梨沙も志穂の横に居た為に小春の“扶翼”の影響を受けたみたいだった。その梨沙が安中に声を掛ける。


 「どうかな、拓馬。模擬戦続行出来そうじゃない?」

 「……そうだな……こちら、安中だ。各位模擬戦続行に支障はないか?」


 安中は通信で各位に問い掛けた。


 『こちら、前原。続行に問題は有りません』

 『私も同じです』

 「私も超元気になったよ!」


 前原達は力強く答えた。其処に射撃ポイント確保の為、移動していた伊藤から通信が入った。


 『こちら伊藤です、ポイントに到着しましたので、今より支援します』


 全員の元気な声を聞いた安中は笑顔で梨沙に模擬戦続行を伝えようとした。


 「各位、模擬戦続行するが問題無いか?」



 そこに小春が待ったを掛けた。


 「あの! や、安中さん。私の中の早苗さんがお話が有るそうなので替わります」

 「……ああ、分った」


 小春は安中にそう言って早苗に替わった。


 「……安中さん、今の私は早苗です。今、あそこに居るのは玲君じゃ無く修君が出て来てるの。修君の戦い方は、私と同じ能力を中心としたスタイルよ。それで、私は修君と本気でやりたいの……だから、私と修君で戦いたいんだけど構わないかしら?」

 

 早苗に問われた安中は少し考えて承諾した。


 「……良いだろう。私は出し惜しみは無しと言ったからな。但し度が過ぎれば中止させて貰う」

 「……貴方がそれを言うのかしら? ……まぁ、今は良いでしょう……修君! 聞こえてるかしら!?」


 早苗は含みを持たして安中に苦言を言って修一に通信で呼びかけた。


 『……ああ、聞こえてるよ。早苗姉さん。今度は早苗姉さんが相手するんだね?』

 「ええ! 修君が戦うなら、私が出るしか無いよ! アハハ、今から凄く楽しみよ!」


 そう言って、早苗は指揮通信車を出ようとしたが、その際に安中と梨沙に話し掛ける。


 「……そんな訳で今から私は修君と思い存分遊んで来るから外野の子達には気を付ける様に言っといてね。勿論飛び込み参加は全然OKだけど、巻き込まれても知らないわよ……それじゃ」


 早苗はそう言って指揮通信車から飛び上がって行った……




 修一(体は玲人)は早苗の声を聞いて佇んでいた。其処へ、指揮通信車から数100mを跳躍し飛んできた早苗が修一の前に降り立った。


 “ザン!”


 そんな音と共に着地した早苗は修一に話し掛ける。


 「フフフ、そう言えば私と修君が戦い合うなんて初めてだわ……」

 「そうだね、早苗姉さん。喧嘩する事も無いよね」

 「修君と喧嘩になる事なんて無いよ! いつだって修君は正しいもの……」

 「そんな事無いよ? もし此れから僕が間違った事した時は遠慮なく怒ってくれていいから」

 「修君と玲君に限ってそんな事有り得ないけど……もし、そんな事になったらぶん殴ってでも止めたげるよ」


 修一の依頼に早苗は笑顔で答える。


 「アハハ、その時は是非お願いするよ……それじゃ……始めようか」

 「……ええ、レディファーストって事で私からいくわね」

 「うん、いいよ」

 「それじゃ……いかせて貰うわ!」




 そんな事を笑顔で言い合う早苗と修一だったが、早苗の掛け声を切っ掛けに二人の戦いが始まった。



 早苗(体は小春)は胸の前で両手の平を向い合せにして構える。両手の平の間は30cm程開けている。すると両手の平の間に眩い光が集まりだした。それは雷だった。


 バチバチと音を立てながら幾条の雷光が迸る。


 「……やっぱり魔法と言えば、雷よね? 先ずは此れから試すわ!」


 そう言って早苗は両手の平を大きく広げ、修一の前に突き出した。


 すると手の平に生じていた幾条の雷光は弓の様に弧を描いて手の動きに合わせ伸縮し、早苗が手を突き出した瞬間、修一に音よりも早く襲い掛かった。


 “ビシャーン!!


 早苗の放った電撃は、落雷音と共に修一に被雷した。眩い光で一瞬周囲が真っ白になった。視界があけると……土壁の様なモノを作り出して平気そうに佇む修一の姿があった。早苗は感嘆した面持ちで修一に問う。

 

 「驚いたわ……雷の速さより早く土壁を生成出来るなんて。どういう事なのかしら?」


 「答えは事前に意志力で生成し、足元に準備していた。後は必ず雷を防ぐ意志を込めればオートで生成される。速度の問題じゃない……そう願ったモノは必ずそうなる……それが僕達アーガルムの力だ」


 「……本質が分ってるからこそ出来る事ね……流石、修君!」

 「有難う、早苗姉さん。それじゃ今度は僕の番だ」


 そう言って修一は右手を差し出す。すると手の平を中心に空気が集まりだし、暴風を生み出す球体が生じた。修一がその球体に意志力を込めるとはじけ飛び秒速100mを超える猛烈な風が早苗を襲う。


 “ゴヒュウウ!!”


 修一が作りだした猛烈な風により、近くに居た前原と沙希のエクソスケルトンは吹き飛ばされた。


 『ウワー!!』

 『キャー!!』


 前原と沙希は叫んだが転がされ、吹き飛ばされた。本来なら、このレベルの風速であれば、例えエクソスケルトンと言えど、バラバラになるだろうが、最初に小晴が展開した障壁のお蔭で全く無傷だった。


 修一の起こした恐るべき暴風は送風機の風の様に、限定された範囲にだけ影響を与える様に、意志力を込められていた。その為数百メートル離れている指揮通信車には何の問題も無かった。例え障壁で指揮通信車が守られているとしても、この豪風で転がされたりすれば、内部に居る人間はひとたまりも無いだろう。

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