143)模擬戦(“彼”の覚醒)-10

 前原達の銃撃が功を成し志穂の思惑通りの時間を稼げた様だ。作戦の要である仁那が志穂に大声で声を掛ける。


 「志穂さん! 準備出来たよ!!」


 そう叫んだ仁那は両手を高く上げていた。仁那の様子を見た、志穂は前原達に通信で大声で叫ぶ。


 『前原君! 沙希さん! 緊急退避!!』


 志穂の叫びを聞いた前原達は玲人から大きく距離を取った。志穂はその様子を確認すると、指揮通信車の車内から上に居る仁那に叫ぶ。


 「仁那ちゃん! 皆、大丈夫よ!!」


 志穂の叫びを聞いた仁那は、強力な意志力を両手に込める。仁那の両手の平は天に向けたままだ。両手の平は眩く白く輝き指の先端に真白く光る球体が10個生まれていた。


 『超奥義! 豪那虹色流星弾!!』


 そう叫んで両手の平を玲人が居る方に振り降ろした。すると指の先端の光弾は玲人に全弾、超高速で玲人に迫った。


 しかし……



 「……仁那……この技ならさっき見たぞ……」


 そう呟いた玲人は仁那から放たれた10個の光弾を空中で制止させ止めている。玲人はアンちゃんの首を放り投げて、意志力で10個の眩く輝く光弾を空中で動かして一つに纏めた。そして自身の両手の平の黒いモヤにて光弾を包んで、呟いた。


 「……確か……コレはこんな名前だった……そう、“括り”と言う技の……筈だ……」


 そう呟いた後、黒いモヤは球状の網となり、そして……


 “ボシュン!!”


 そんな音がして、“括り”と呼ばれた黒い網状の玉は、急激に小さくなりながら、激しい明滅を繰り返し10個の眩く輝く光弾の爆発を一瞬で吸収した。その後、黒い網状の玉は煙の様に形を失って消えて行った。



 『そ、そんな……』


 志穂は自分が考えた作戦が全く意味が無かった事に驚愕し呟いた。


 「……時間差で皆が何か仕掛けてくるのは分っていました。皆の後方で仁那が意志力を高めていたのも検知してましたから」


 玲人は何でも無いと言う感じで静かに語る。


 『『…………』』


 前原と沙希も玲人の隙の無い戦いに、思わず閉口する。



 「仁那……諦めて降参しろ……」

 「うぐっ…………うん?」


 仁那は玲人に降参を促されて、言葉に詰まったが玲人の足もとに転がっている、あるモノに気が付いた……それはアンちゃんの首だ……

 動力源と動ける体を失ったそれは、一見すると何の意味が無いモノに見えるが……その額にはニョロメちゃんの目が輝いている。


 仁那は、そこに一縷の望みを掛けて首に意志力を送りながら大声で叫ぶ。


 「私は降参なんかしないぞ!」



 そう叫んで、仁那は指揮通信車を飛び下りて、玲人へと歩を進めながら、前原達や志穂の脳内にニョロメちゃんを通じ、心通で自身の作戦を伝える。


 仁那の考えた作戦とは、アンちゃんの首を意志力で暴発させ、玲人の動揺を誘った隙に皆で一斉攻撃を放つという作戦だ。


 初めはいきなりの心通による精神通話に驚いた前原達だったが、仁那の考えを聞いて直ぐに冷静になり、その作戦に同調した。

 


 仁那はアンちゃんの首に意志力を十分送れたタイミングで、歩を止め、皆に叫ぶ。


 「皆! いくよ!!」

 『『了解!!』』

 『いつでも良いよ! 仁那ちゃん!』


 皆の返事を受け取った仁那は玲人に叫ぶ。


 「玲人!! お前には負けない!! はじけろ! アンちゃん!!」



 そう叫んで、アンちゃんの残された首に強い意志を込めた。すると……


 “ドガガアアアァン!!!”


 アンちゃんの首を中心に大爆発が起こった。巨大な火球が生じた後、近寄りがたい程の熱量を放つ火災が生じた。玲人はこの火災の中にまだ居る様だ。この状況に前原は……


 『い、今だ!』


 前原は予想以上に上手くいった作戦に興奮し叫んだ。そしてエクソスケルトンによる銃撃を行う。但し、軽機関銃のペイント弾でなく銃撃だ。


 梨沙から送られてくる玲人のバイタルサインから彼はこの攻撃でも全く無傷なのは分っていた。だからこそ出し惜しみをすべきではないと前原は考えた。前原の攻撃を見た沙希も銃機関銃による銃撃を行い、志穂も3機の“犬による銃撃を行った。


 “ダダダダダダダダダダ!!”


 3人が放った銃弾は豪炎の中に容赦なく放たれた……



 仁那は炎の中の玲人の強い気配を感じ取り豪竜双牙拳による光弾攻撃を仕掛けようとした時に、炎の中から黒い煙の様なモヤが染み出て来てあっという間に炎を包み込んだ。


 “バシュウ!!”


 そんな音を立てて、黒いモヤが豪炎を喰らい尽くした。玲人はその場から一歩も動かない。黒いモヤは玲人を守るが如く体の周りに浮いている。


 『『『…………』』』



 一瞬沈黙がこの場を支配したが、志穂が動いた。


 『いっくよー! 玲君!』


 そんな明るい掛け声と共に3機の犬を玲人の右側に配置し、ペイント弾を発射しようとしたが……玲人は無言でゆっくりと右手を3機の犬に向けた。右手には黒いモヤが纏わり付いている。



 “……目障りだ……”



 玲人はそんな呟きをその場に居た前原達の脳内に響かせて、黒いモヤから右手の平にビー玉位の小さな玉を生成した。


 そして無人機の犬に向かって右手の平を差し伸べ、黒い小さな玉を超高速で放った。


 “ギュン!!”


 すると……

 

 黒い小さな玉は超高速で飛んで行き、その軸線上の廃ビルや家屋を一瞬で圧潰した。


 “ゴゴガガガガガアアアァン!!!”


 大轟音と共に大地が激しく揺れ、近くの廃ビルが振動で半壊した。無人機の犬など一瞬で粉みじんになった。濛々とした土煙が視界を遮り、やがて視界が晴れた後には恐るべき破壊の痕跡が示された。


 玲人が放った黒い小さな玉が通過した軸線上の地面は、幅30m程の円弧形状に抉れた。まるで丸く削った半円状の溝が延々と続く様に、何処までも長く圧潰されていた。


 全ては本当に一瞬の出来事だった……




 「『『『…………』』』」



 仁那と前原達は本当に絶句した。



 余りの出来事に言葉が出なかった。こんな事態は全く予想していない。今は模擬戦の最中だった筈……一体、目の前で何が起こったのか完全に理解を超えていた。


 驚き動けない仁那と前原達の頭の中に地の底から聞こえる様な低い声が、突然響いた……



 “……調子に……乗るな……小汚い……マールドム共が……”



 その声が頭に響いた瞬間、前原と沙希、そして志穂は恐怖で心臓が凍りついたように、一切の攻撃を止めた。巨大な蛇に呑まれる子ネズミの様に恐怖で動く事が出来なくなった。

 


 そして玲人は頭部の装甲を跳ね上げ、顔を見せた。その顏の左目から小さな炎のような白い光がゆらゆらと現れている。


 「…………」


 玲人は何かを探す様に周囲を見渡し、仁那を見つけると小さく呟やいた。


 「…………居た」


 そして突如自身の体を輝かせ、仁那の眼前に一瞬で転移した。


 “シュン!”


 電光の様に眼前に現れた玲人に驚いて目を白黒させている仁那に対し、玲人はまるで夢の続きを見ている様な視点の定まらない表情で、何処までも優しく話し掛けた。


 「……マセス……漸く会えたか……」

 「えっと……玲人……だよね?」


 突如眼前に現れた玲人に仁那は戸惑いながら、問い掛ける。対して玲人は虚ろな顔を浮かべ独り言のように呟く。


 「……全て終わらせるから……お前は少し眠れ」

 「え?」


 そう言って玲人は仁那の額にそっと右手の中指を“チョン”と当てた。


 すると……


 「……あ……」


 玲人の中指が触れた瞬間仁那は、小さな声を上げて眠った様に意識を失った。意識を失った仁那(体は小春)を玲人はそっと抱き抱え、自身の体を輝かせて指揮通信車の屋根の上に一瞬で転移した。


 “シュン!”


 そして仁那を静かに横に寝かせると、また体を輝かせて、前原達の前方に転移した……


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