139)模擬戦(ガリアとリジェ)-6
豪炎の中から、白くて小さな影が飛び出し回転しながら、前原と玲人の前に降り立った。
“ザシュ!!”
仁那が操る真白いアンドロイド、アンちゃんだ。アンちゃんは障壁を展開しており、あれ程の電柱によるプレス攻撃を受けたにも関わらず無傷だ。降り立ったアンちゃんから仁那のスピーカー音声が響く。
『……流石は我が弟……強い! しかし! 私は負けない! 我が名は不屈の拳士、豪那! いざ参る!』
仁那はスピーカー越しでそう叫び、玲人に飛び掛かる。対して玲人は、仁那の声を受けて静かに語る。
「……アンドロイドに障壁を展開したか……額の目が起点だな。あれだけやってもボディに傷が付かないとは、中々の強度だ……これなら、もっと“強め“に攻撃しても問題無さそうだ……いいだろう、仁那……掛かって来い!」
そう言って玲人は構えを取った。
アンちゃん(操ってるのは仁那)は玲人の間合いに恐れず入り、超接近戦に臨んだ。仁那も距離を空けると拙いと考えた為だ。
正拳突きと前蹴りで間を開ける事無く攻める。玲人も余裕で此れを捌く。
仁那が操るアンちゃんは、左手のガードを下げて玲人の右手による攻撃を誘った。玲人はフェイントと知りながらこれに乗り右手によるストレートをアンちゃんに放った。
仁那はこの攻撃を待っていた。玲人の右ストレートを素早く斜めに体を捻って躱しながら、カウンターで渾身のひじ打ちを玲人の頭部へ向け放つ。
『豪砕撃!!』
そう叫んで放ったひじ打ちは鋭く、能力付加も有り岩をも簡単に粉砕する威力があった。この恐るべきひじ打ちに対し、玲人は読んでいた様で、能力付加で強化した頭突きで此れを迎え打った。
“ガヅン!!”
そんな鈍い音と共に、アンちゃんは後方にもんどりうった。障壁の為、破壊はされなかったが其れでも激しい衝撃で、尻餅を付く様に後方に倒れた。
その隙に玲人は控えさせていた電柱を2本アンちゃんに投付けた。それも死角が無い様に、水平に寝かし、2本目は時間差を開けて投付けた。此れでは逃げれない。
仁那は危険を察知し体を跳ね起こして起き上がった。眼前に迫りくる電柱に仁那(体はアンちゃん)は一つも迷わず、右腕を振り上げて、腕に強力な意志力を込める。すると右腕は真白く光輝いた。そして叫んで技を放つ。
『絶断豪斬破!!』
“バシュン!!”
そう叫んで仁那が繰り出したのは、空手チョップだ。右腕に込められた意志力による破壊エネルギーが眩い光の刃となって、迫りくる電柱に衝突した。
“ドガガガアアン!!”
命中した光の刃により電柱は二本とも切断され、そして轟音を立て爆発した。
爆発により生じた土煙と炎で周囲の視界が遮られた。仁那はこの隙を外さず、大技を繰り出した。
『天地豪崩脚!!』
そう叫んで繰り出した今度の技は、胴回し回転蹴りだ。炎と土煙で玲人は視界を奪われていた所に、炎の中からアンちゃんが飛び出し、胴を回転させながら恐るべき威力の蹴りを玲人に命中させた。
流石に玲人もその攻撃を腕で受けたものの、凄まじい威力により、後方に吹き飛ばされた。
(!!……チャンス!! 今こそあの技を放つ時!!)
仁那は、玲人が吹き飛ばされたこの時こそある事を試すチャンスと考えた。
それは、仁那だけのオリジナル技だ。今まで繰り出した技は全て、アニメの模倣だった。しかし今から仁那が放つ技は仁那が考えた仁那だけの技だった。
仁那が操るアンちゃんは両手を高く上げた。両手の平は天に向けたままだ。仁那はアンちゃんの両手の平に強力な意志力を込める。その中継機能は憑依させているニョロメちゃんに寄るものだった。
強力な意志力を込められたアンちゃんの両手の平は眩く白く輝きだした。よく見ると手の平の全部の指の先端に真白く光る球体が10個生まれていた。そして、仁那は大声でアンちゃんのスピーカ越しで叫ぶ。
『超奥義! 豪那虹色流星弾!!』
そう叫んで両手の平を玲人が居る方に振り降ろした。指の先端に生まれていた10個の真白く輝く球体は、虹の様に色を変えながら玲人に向けて超高速で飛んで行った。
“キュキュン!!”
そんな空気を切る様な音と共に玲人が居る場所に全ての光弾は命中した。
“ガガガアアアアァン!!”
耳をつんざく大音響と共に、豪竜双牙拳の光弾による爆発を遥かに超えた大爆発が生じた。50m近い巨大な火球が生じ爆風で、周囲の小さな廃屋等は吹き飛ばされた。
その様子を脳内で見ていた小春は驚いて叫ぶ。
“仁那!! 幾らなんでもやり過ぎよ!!”
小春の叫びにも仁那は反応しない。目の前の状態を一切油断なく意識を高めているからだろう。小春が玲人の事を案じ脳内で叫ぶと、早苗は戦っている仁那の代わりに答えた。
“大丈夫よ、小春ちゃん。以前も言ったけど玲君が相手なのよ……万が一も有り得ないわ……分るでしょう? 玲君の強い気配を……うん?……玲君達以外にも居る?”
早苗は小春を安心させようと声を掛けたがそんな早苗が何かに気付いた様だ。
“……どうかしましたか、早苗さん?”
“…………いえ、何も無いわ。所で玲君なら何の心配もいらないわ”
“確かに……玲君達の意識はしっかりしていますね”
“今は……この模擬戦にお互い集中しましょう”
“?……分りました、早苗さん”
小春と早苗はそう言って目の前の模擬戦に集中する事にした。
仁那が操るアンちゃんが放った大技により生じた巨大な火球の上空に、浮かぶ二人の女性の姿が有った。アーガルム族の騎士であるガリアとリジェの二人だ。二人は玲人と仁那の様子を見ている様だ。
ちなみに、玲人と小春の状況確認はガリアの担当で、リジェは真国同盟の対応が担当だったが、今日は相方のドルジに押し付けてガリアの所に遊びに来ていたのだった。
ガリアは仁那が放った技を見て呟く。
「……中々の威力だな……あの技は見習い騎士の其れより少し上位の攻撃力か……?」
ガリアの呟きにリジェも答える。
「そーだな……でもよ、おかしくねぇか? エニ、いや小春達の力は、元々のマセス様の力よりかなり弱くなった筈なのに、結構強めの技出せるなんて変じゃね?」
「恐らく、元のマセス様のお力が強かった事も有るだろう。マセス様は私やお前の様に直接戦闘される事は得意では無かったが、援軍を支援するお力は絶大だ……だからこそアガルティアにおいて、お館様と並ぶ御方と認められていた。そんなマセス様だからこそ、力が減じられたとしても、そのお力は高い水準に有るのだろう……後は、小春達はまだまだ若い。我らと同じ様に鍛練する事で更に力も伸びる筈だ」
「成程なー。 所でもう一つ聞きてぇんだけど?」
リジェはガリアにずっと気になっている事を問うた。
「なんだ?」
「ずーと最初からの疑問なんだけど……リハビリって話で、こんな眠たい事やってるが……“雛”の彼をアガルティアに攫ってアタイらで直接相手した方が目覚めんの早くね?」
リジェの問いにガリアはふぅ、と溜息を付いて呆れた様にリジェに返答する。
「……お前は円卓の議で毎回、聞いてないからそんな簡単な事も分らんのだ! ふぅ……まぁいい。丁度マールドム共との試合の中で……其れが見られるかも知れんな」
「良く分らんが……このカッタルイ遊びみたいな試合で其れが分んのか?」
「ああ……多分な……だからお前も見て置くといい……」
「ああ、分ったぜ」
そう言いあって二人は空中で玲人達の様子を観察を続けた……
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