138)模擬戦(隻眼の鬼)-5

 玲人の前蹴りによって吹き飛ばされた前原のエクソスケルトンは転がっていた廃車に激突した。


 “ゴシャン!!”


 そんな音を立てて廃車は拉げた。エクソスケルトンは障壁で保護されている為、何のダメージも無かった。


 それを見越して、玲人は次の行動に出る。道路上に転がっている、錆だらけの廃車を3台浮かして前原のエクソスケルトンに投付けた。


 “ブオン!!”


 前原は障壁で守られているが投付けられた衝撃でまだ立ち上がる事が出来ない。其処に高速で投げられた廃車が迫る。


 『うおおお!!』


 前原は叫びながら腕を構えガードに徹した。


 “ゴシャン!!” “グシャン!!”


 前原のエクソスケルトンは投付けられた3台の廃車で叩き付けられ、廃車で埋まってしまった。


 『クソォ!!』


 前原は毒づきながら前面の投付けられた廃車をエクソスケルトンの膂力で押し退けた。小春が展開した障壁のお蔭で機体の損傷は全く無かったが内部に居る前原の衝撃は小さくは無かった。


 “ゴガン!”



 埋められた廃車を取り除いて前面を見ると電柱を振り上げている玲人の姿が見えた。


 “バガァアアン!”


 前原は玲人の振り上げた電柱に殴られて、横に転がされた。10m程転がされて、エクソスケルトンの背面を地に着け頭部カメラで玲人の方を見ると電柱を4本浮かしながら此方に近づいて来る。


 電柱の連撃をエクソスケルトンに与える気だろう。


 『マジで鬼だな……玲人君……』 



 そう呟いて打開策を考える前原だったが、前原の前面に回転しながら落下してくる白い物体が見えた。クルクルと空中で回転しながら、スマートに着地した、それは白いアンドロイドのアンちゃんだった。


 『「ロボ前原! 済まぬ! 此処に到着するのに時間が掛かった! 後は! この豪那に任して!」』

 

 不思議な事に仁那の叫び声は背後からと、アンちゃんのスピーカー越しの両方から聞こえる。気になった玲人と前原は声がした背後を振り返ると……

 そこには息を切らした様子の仁那(体は小春)が立っており、前原に向けて力強くピースサインを出している。



 その様子を見た玲人は軽く溜息を向け、顔面部の装甲を上げて仁那に話し掛ける。


 「……何故、こんな所に来た?……危ないだろう?」


 玲人の言い方は批判的では無くあくまで心配する思いからだった。対する仁那は腕組みをして胸を張って仁王立ちで叫んだ。


 『「フハハ! 弟よ! 今までの戦いは、言わば遊び! これからの戦いこそ! この豪那の伝説が始まると知れぃ!」』


 その叫び声はアンちゃんのスピーカーからも聞こえてステレオ状態になっている。



 その声を聞いた玲人は額に右手を添えて呆れながら答えた。


 「……さっき迄の志穂さんとのやり取りからすると……どうせ作戦指揮車内が狭くて、飛び出して来たな? 危ないから障壁を展開して十分距離を取るんだ。それと後で安中大佐に謝っておけよ」


 そう言って顔面部の装甲を戻し、臨戦態勢に入った。



 『ぐぬぬ……生意気な弟め……今に半泣きにしてくれよう! 前原ロボ! 此処は、この豪那に任せよ!』


 仁那はアンちゃん越しでそう叫んで、仁那はアンちゃんを操り、構えさせた。仁那本人は玲人に言われた通り障壁を展開し、かなり後方に下がっていた。仁那はちゃんと玲人の言う事を聞く、素直ないい子だった。後方にかなり下がった為、仁那の声は届きにくくなったが。


 その仁那の様子を見た玲人は安堵してアンちゃんに向かって静かに話す。


 「……掛かってくるがいい……仁那」

 『それじゃ! 行くぞ! 玲人!!』



 アンちゃんのスピーカー越しから仁那の叫びと共にアンちゃんは全力で玲人に走り出した。アンちゃんは助走を付け、飛び上がり叫ぶ。


 『飛天豪崩脚!!』


 アンちゃんはそう叫んで思いっ切り飛び蹴りを玲人に噛ました。対して玲人は電柱を盾替わりにして飛び蹴りを防いだが、仁那が操るアンちゃんの飛び蹴りは能力付加で強化されている事も有り、玲人がガードした電柱など蹴り崩し、そのまま玲人を蹴り飛ばした。


 ”バガァアン!!”


 そんな音と共に玲人は後方に吹き飛ばされゴロゴロと転がっていく。


 しかし、転がりながら体勢を整え10m程転がった所で地に足を着け、空中に高く飛び上がった。30m程飛びあがり、地上のアンちゃん目掛け急降下した。



 そして空中で体勢を変え、アンちゃんに頭部に飛び膝蹴りを見舞った。


 “ドガァ!!”


 能力で強化された超強力な玲人の飛び膝蹴りを喰らったアンちゃんは打撃音と共に地面にめり込んだ。そこに玲人はすかさず、さっきまで持っていた電柱を浮かして、埋まっているアンちゃん目掛け、突き刺した。


 “ズドオオォ!!”


 玲人は油断なく電柱を持ち上げては突き刺す打撃を何度も繰り返してアンちゃんを更に埋めていく。


 “ドオォン!!、ゴオォン!!”


 アンちゃんは動けず埋まって行く。玲人の意志力によるものか、電柱は繰り返し何度もアンちゃんに対する突き刺しを繰り返し、確実に破壊に掛かる。


 “ガガン!!、ゴガン!!”


 そんな衝撃音を繰り返させながら電柱は、プレスの様にアンちゃんを押し潰す。玲人はその様子を見る事もせず、残っていた2本の電柱を浮かして、残っている前原の方に向かった。その真黒な姿の顔には隻眼が不気味に光る。


 その姿と背後の電柱による圧潰攻撃音と相成って、前原は心底恐怖した……



 『……隻眼の……鬼だな、マジで……』



 前原はそう呟いて、ブレードを構える。前原は飛び道具は無駄だと分っていた。前回の模擬戦で同時銃撃を加えても、玲人には全く効かなかった。

 かといってエクソスケルトンのブレードが効果が有るとは思えないが、玲人と距離を取ると、彼は電柱等の大質量攻撃をしてくる。

 それなら接近戦で臨んだ方がマシだと考えていた。もっとも此れは前回の模擬戦で伊藤が取った行動を参考にしたものだったが……



 (……超接近戦なら、彼の電柱攻撃も鈍るだろう、此れが最善策の筈だ!)


 

 そう内心で結論付け、玲人の方へエクソスケルトンを進めた。すると……


 “ガガアアァン!!”


 突然爆発音がアンちゃんが埋められていた方向より生じた。前原と玲人が、爆発音がした方を見るとアンちゃんが玲人による、電柱プレス攻撃を受けていた場所に大きな火球が生じ、次いで豪炎が立ち上った。


 その様子を見ていた玲人が小さく呟く。


 「……仁那の技か……」


 玲人は離れた場所で操作している仁那を見遣る。仁那は真剣な顔つきで目を瞑りながらアンちゃんを操作している。目を瞑るのは意識を集中させる為だろう。



 玲人の呟きに脳内で修一が相槌を打つ。


 “その様だね、仁那ちゃんも上手に力を使い熟すね”


 (そうだな……まるで野生の猫の様に、しなやかで粘り強い攻撃をする……強敵だ)


 “流石、僕達の家族だけ有るね”


 (確かに……俺達と同じアーガルムだからか……フフフ、また小春に礼を言わなくてはいけないな……同じ能力を持つ者同士で戦うとこんなに張り合いが有るとはね)


 “玲人。水を差す心算は無いけど、十分気を付けて。いくら戦っているのはアンドロイドだとしても操っている相手は君の一番大事な人達だ”


 (ああ、分ってるよ、父さん。勿論全然本気は出していない)


 “分っているとは思うけど、君は、いや、“僕達”は強すぎる……恐らく誰よりも……だから力の制御に細心の注意を払う事、いいね?”


 (ああ! 分ったよ、父さん!)



 玲人と修一は脳内で、こんな会話をした。普段はクレバーだが戦いになると熱くなりがちな玲人を、理知的で冷静な修一が意見を出して修正する……言わば最高で最強のコンビだった……


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