137)模擬戦(仁那VS玲人)-4
仁那と連携する為、前原のエクソスケルトンはブレードを装備した。一応模擬戦様で刃は落としてあるが、金属のカタマリである為、生身の人間がこのブレードを振り降ろされたら確実に命を奪われるだろう。しかし、前原は前回の事も有り遠慮はしない覚悟だった。
横に居る仁那もおかしなポーズを取ってはいるが完全に戦闘体勢に入っている。
「……良いですよ……前原さんと仁那、同時に掛かってきても……俺は負けませんので」
『それじゃ行かせて貰う!』
『半泣きさせてやる!』
そうスピーカー越しで叫んだ二人は、玲人に突進した。
仁那と前原の二人と玲人の戦いが始まった。先制したのは仁那だった。仁那はアンちゃんを操り玲人に肉薄し、突きや蹴りで果敢に攻める。対する玲人も受け流ししながら仁那の攻めに余裕を持って対応している。
仁那が此処で勝負に出た。技名を叫んで仕掛ける。
『列断旋風脚!!』
上段の回し蹴りを玲人の頭部に向けて放つ。
“ブオン!!”
凄まじい速さだ。命中すればスイカの様に頭部ははじけ飛ぶだろう。しかし玲人はスェーバックして躱す。アンちゃんの右足が振り降りたタイミングでアンちゃんの胴部に能力付加した掌底打を決める。
“バガン!!”
そんな音を立ててアンちゃんのボディ部に掌底がヒットして、アンちゃんは後ろに吹き飛ばされた。
其処へ玲人がすかさず、転倒しているアンちゃんの頭部を蹴り込もうとした。慌てた仁那はアンちゃんをしゃがんだ状態からバク転させて起き上がった。体制を整え、前に出ながら正拳突きで玲人に迫る。
そして右正拳突きを振り抜いた時に、鋭い裏拳を放った。
『豪迅拳!』
仁那はスピーカー越しで叫びながらの、強力な一撃だったが、これも玲人に躱される。
『アイタッ!』
突然アンちゃんのスピーカー越しで志穂の悲鳴が聞こえた。その事に不信がった前原が志穂に問い合わせた。
『志穂さん……どうかした?』
『いや、玲君との戦いに興奮した仁那ちゃんが手を振り回して私の頭にぶつかっ……イテッ!』
『志穂ちゃん、邪魔! 豪斬掌!!』
アンちゃんのスピーカー越しで志穂と仁那の声が混線している。今、アンちゃん(仁那)が玲人に対して放ったのは手刀だったが、状況的にどうやら玲人との戦いに熱中している仁那が手足を振り回し、狭い通信車の中で仁那のそばに居る志穂が手足をぶつけられていい迷惑をしている様だ。
『破岩豪拳!!』
仁那のスピーカー音声の後、アンちゃんが右正拳突きを玲人にかます。しかし、動きがスローでキレが全く無い。そして……
『イタッ! 仁那ちゃん、ちょっと気を付けてー!』
『ゴメン! 志穂ちゃん! でも、ここ狭すぎるから動き取れないよー!』
そんな叫び声がアンちゃんのスピーカーから聞こえてくる。
仁那が操るアンちゃんの動きが悪くなってきた。どうやら狭い指揮通信車の中で仁那の動きが取れないのが原因らしい。
所代わって仁那は狭い指揮通信車に居る。この時代の指揮通信車は旧時代時のモノより車内スペースは大きいが、其れでも小柄な仁那(体は小春)でも立つのが精一杯だ。
そんな訳で小春から仁那に替わった時点ではアンちゃんを操るのに座ったままで操作していた。しかし仁那はアンちゃんの操作練習は常にアニメを見ながら全身を動かしていた為、この姿勢では上手く操作出来なかった。
従って玲人と戦い始めた時からスグに狭い指揮通信車内で立ち上がり、手足を派手に動かして技を決めるのだが、狭い車内の為、周りにある椅子や足元の機材、そして仁那の頭などに手足をぶつけていた。
仁那はそんなやりにくい状況の中、諦めずアンちゃんを操り、更に玲人に攻勢を掛ける。
『豪天爆山脚!』
そうアンドロイドのアンちゃんは叫び、強力な前蹴りを放つ。
“ドシュ!!”
能力が付加されている為に車など簡単に拉げる威力だ。しかし、技を繰り出す際、指揮通信車に居る仁那はアンちゃんと同じタイミングで前蹴りを指揮通信車内で繰り出した際、志穂の座る椅子を蹴っ飛ばしてしまいアンちゃんとの連携が一瞬だけ鈍くなった。
“ガツン!”
アンちゃんのスピーカー音から何やらぶつける音が聞こえた後……
『痛い! 仁那ちゃーん!』
『ご、ごめん、志穂ちゃん!』
志穂と仁那の二人の音声が聞こえてくる。
対して、玲人はその一瞬の隙を見逃さず、能力付加で強化された腕で、アンちゃんの強力な前蹴りを受け止めた。
“ガシイ!”
玲人は自身の体がアンちゃんの膂力で吹き飛ばされない様に意志力を高め、アンちゃんの足を掴んで……思いっ切り放り投げた。
“ブン!”
アンちゃんは放り投げられ、廃ビルの側壁に激突した。
“ドゴオン!!”
そんな轟音を立てて壁に大穴開けてアンちゃんは廃ビルの奥に消えた。
「やられたー!!」
指揮通信車内に居た仁那は、そんな風に大絶叫して頭を抱えた。
(……このまま此処に居たら、アンちゃんを上手く動せないよ!)
そう判断した仁那は……突然能力を発動してドアロックを外して指揮通信車の後部ドアを開けた。
“バン!”
そして安中と梨沙に向け叫んだ。
「安中さん! 梨沙さん! ここ狭いから上手くアンちゃん操れない! だから玲人が居る所まで行って、そこでアンちゃん操るよ!」
そう叫んで仁那は外に飛び出し、能力を発動して宙に浮き、とんでもない速度で玲人の方へ飛んで行った……
「「「…………」」」
指揮通信車に残された3人は突然の仁那の行為に驚いて言葉が出なかったが……我に返った梨沙が安中に問う。
「……えーと……拓馬、どうしよう?」
「……急ぎ、准尉達が居る所に向かってくれ。其処に仁那技官も居る筈だ。早く安全を確保しないと、その内に仁那技官は生身で准尉と戦おうとするだろう……」
「確かにやりそうだな……分ったわ! 急いで玲人の所に向かって! 志穂、位置をサポートしてあげて」
「はいよ! 姉御ー!」
安中の指摘に同意した梨沙が作戦指揮通信車の女性運転士に指示しながら、志穂にも指示を伝えた。こうして、仁那(体は小春)と梨沙達は玲人の居る戦闘地域に向かった……
一方、渦中の玲人は前蹴りを放ったアンちゃんの足を掴んで思いっ切り廃ビルにぶつけたが、アンちゃんが廃ビルから飛び出して来る事を予想し、前原のエクソスケルトンに背を向けていた。前原はチャンスとばかり玲人に攻撃した。
『隙あり!』
前原はそう叫んでエクソスケルトンの前原がブレードによる斬撃を放った。
“ブオン!”
3m程の巨体を持つ鋼鉄の体が放つ斬撃だ。普通の人間なら受け止める事も出来ず両断されるだろう。
しかし、玲人は違う。元より並外れた身体能力を持っている上に、今は強大な意志力により身体強化している状態だ。
玲人は迫りくる巨体のブレードに焦りもせず、自身が持つマチェット(山刀)でブレードを受け流した。
“ギイイン!”
そんな金属音を立てて、ブレードは逸らされエクソスケルトンは刃を振り降ろした形で前屈みの姿勢になった。玲人はその隙を見逃さず、右回し蹴りを放った。
“ガイン!!”
能力で身体強化された玲人の前蹴りは、総重量4tの巨体を簡単に吹き飛ばした。そして前原のエクソスケルトンは5m程先に有った廃車に激突した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます