136)模擬戦(豪那 推参)-3

 一方の前原は志穂の通信で電柱を投げられた事を聞いて、全力で回避移動をしていたが、後方から高速で飛んでくる電柱が搭載カメラの高倍率画像で確認された。


 電柱は、ミサイルの様に水平移動して、前原の動きに合わせて追尾している。恐ろしい速さで迫る電柱は、長さが10m位あり、重量は1t近いだろう。

 幾ら小春の展開した障壁が有るにしても、あの速度で大質量が衝突すれば無事で済むかどうか分らない。考える間も無く、電柱が前原に迫る。迎撃する間も無さそうだ。前原は思考する間すらない。


 (は、速すぎ……)


 電柱が間もなく、前原のエクソスケルトンに衝突する直前……突如、真白い光の玉が二つ高速で前原のエクソスケルトン背後から飛び出した。


 “バガアアアァン!!”


 そんな轟音と共に玲人が投げた電柱は真白い光の玉により爆散した。



 『豪三郎!! 豪来!!』


 そんなスピーカー音声と共に現れたのは、白い外装を持った、女性型アンドロイドだった。


 その女性型アンドロイドは、真白いボディで女性らしいボディラインとスリムな形状をしており、白いボディは滑らかで光沢があった。ボディは必要に応じ周囲環境と同化できるステルス迷彩機能も装備されていた。

 姿形は、早苗の要望で小春と似通った設計だった。ナチュラルショートの髪を持ち、顔だちも小春に似せて造形していた。身長も小春より背は少し高かったがあえて小柄に作られていた。

 現れたアンドロイドは軍事用アンドロイドらしく、膝や肘には装甲が施され、腰には鋼鉄製の装甲スカートが装備されていた。



 そんなアンドロイド、アンちゃんが、前原のエクソスケルトンの前に躍り出た。


 “ザン!!”


 よく見ればアンちゃんの額にはニョロメちゃんの目が輝いており、仁那の憑依制御によるものだろうか、人間のように自然な動きだ。滑らかなボディは仁那の能力付加によるものだろう、白い光で薄く光っている。



 突然現れた、アンドロイドに前原は驚いた。事前に小春達が操る話は聞かされていたが、こんな登場は予想外だ。


 『な、なんだ!? あのロボット、俺を助けてくれたのか!?』

 『そうだよ! 前原君! あのアンドロイドは仁那ちゃんが操ってるんだ!』


 前原の驚いた通信を聞いていた、志穂が答える。


 『仁那ちゃんって、小春ちゃんの中に居るって言う玲人君のお姉ちゃんか!?』


 そう叫んだ、前原の声を通信で聞いていた仁那がアンちゃんのスピーカーを通じて吠える。


 『フハハ! 安心するがいい!! 前原ロボ! 此処より! 我が助太刀いたす!』

 『……え? 誰? 仁那ちゃんじゃないの?』


 前原は変な口上で叫ぶ少女が誰か分らなかった。声は小春だが、小春はこんな変な事は言いそうにない。問われた仁那は……



 『我の名は豪三郎、いや! 今より我の名はさすらいの拳士、豪仁那……変だな……仁那豪……これもおかしいな……豪は外せないし、うーん……豪……那……豪那! いい感じ! 我が名は今より! 豪那! と呼ぶがいい!』


 『……えーと……坂井少尉……なんか変な事言うロボット来ましたけど……コレ、喋ってるの仁那ちゃんって事で良いんですよね?』


 前原は突然現れたアンちゃんが変な名前を叫んだので色々大丈夫かと、心配になって境に問い合わせた。


 問われた梨沙は少し戸惑いながら答える。


 『……大丈夫だ……前原、安中大佐の事前情報では、若さ特有の疾患に絶賛発病中との事だけど、喋ってるのは間違いなく仁那技官よ……絶賛発病中だけど実力は問題無いらしい……言動については暖かい目で見てやって……その方が小春ちゃんの為よ……とにかくその子の実力は今見た通りだ。 頑張って協力して!』


 梨沙の返答に前原はやけになって答える。


 『……もう、こうなりゃヤケだ! 仁那ちゃん! 頼むよ!』


 前原の声にアンちゃんのスピーカー音が叫ぶ。


 『我は、豪那だ! 前原ロボ!』

 『あー、それで良いよ! 豪那ちゃん! とにかく、ここは協力してくれ!』

 『任して!』


 仁那の返事と共に、志穂が通信で前原に言う。


 『前原君、今君が居る所に沙紀ちゃんも向かわせる! ダルマにも連携するよう伝えたから!』

 『有難う! 志穂さん! 所で、仁那ちゃ……いや、豪、那ちゃん……遠距離に居る玲人君にどう対応しようか?』



 問われたアンちゃん越しの仁那は前原に答える。


 『うん! ちょっと小春に聞くから待ってて!』


 そう言って仁那は静かになった。脳内で小春と打ち合わせしている為だろう。


 『分かったよ! 小春が言うには玲人はこの辺に居る筈なの。小春は玲人が電柱投げた後、動きを見てたんだって。玲人は電柱より先にこの辺に着いたみたいだよ』


 仁那の話を聞いた前原は驚愕する。


 『投げた電柱より先に着いたって!? どういう事だ?』

 『今の玲人は本気出すと凄く速く飛べるよ、飛行機くらいでね! だから電柱をゆっくり投げて先回りしたんだよ。小春が言うには投げた電柱で、前原さんが怪我しない様に見てたんだって!』

 『電柱……ゆっくり投げた? アレで?』


 仁那の何気ない一言に前原はショックを受けて呟く。仁那はそんな前原の呟きに気付かず話を続ける。


 『玲人は、この近くで見てるらしいから、私が探してあげる!』

 


 仁那はアンちゃん越しでそう言ってまた静かになった。玲人の位置を能力で検知している様だ。そして……


 『……!! 見つけた!』


 そうアンちゃんは叫んで、豪竜双牙拳の構えを取り、両手を白く輝かせて双手突きを繰り出した。


 『豪竜双牙拳!』


 “ボヒュ!!”


 そんな音を立てて、アンちゃんの双手突きからエネルギーが込められた光弾を放たれた。

 

 豪竜双牙拳は、仁那が好きなアニメキャラの奥義で双手突きの構えから気を放ち敵を薙ぎ払う技だ。仁那はそれを意思顕現力でアンちゃんに具現化して光弾を放ったのであった。


 放たれた光弾は超高速で遠くの廃ビルに命中する。


 “ズガガガアン!!”


 そんな轟音と共に、廃ビルは火球に包まれ爆発し、豪炎が立ち上った。


 志穂が仁那の繰り出した豪竜双牙拳を見て大興奮で叫ぶ。


 『ウオオオ!! スゲェよ!! モノホンよりトンデモねぇ!! 何だよ、あの破壊力は! ビル一撃で吹っ飛んだぞ!? マジスゲェ! 仁那ちゃん! 君、最高だよ!!』

 『えへへ……アリガト……志穂ちゃん』


 志穂の大絶賛に照れ笑いする仁那だった。



 豪竜双牙拳のリアリティに盛り上がる二人だったが、豪竜双牙拳の爆発より生じた豪炎の中より突然、巨大な竜巻が生じ豪炎を消し去った。

 修一の補助を受けた玲人が、能力で空気を動かし強力な風を発生させて爆風消火の原理で炎を吹き飛ばして消し去ったのだ。

 豪炎が消え去った廃ビル跡に、白い障壁を纏った、黒いスーツを着た玲人が佇んでいたが、突如飛び上がって、前原達の前に降り立った。玲人がアンちゃん(仁那)に話す。


 「……本当に見事な技だな、仁那……技の名前と元ネタは残念だが」

 『フハハ! 弟よ! 今のわたしは仁那でなく、豪那だ!』

 「……変なアニメ見させたのが間違いだったか……デコピンで矯正してやる」

 『豪三郎を悪く言うな!』

 『そーだぞ! 玲君! ”唸豪伝説“をディスらないで!』


 玲人が、仁那の好きなアニメを中傷すると、仁那だけでなく志穂まで噛みついてきた。



 佇む玲人に対し、仁那の操るアンちゃんは頭の上に両手を上げ、デコピンをいつでも繰り出せるよう中指を丸め変な構えを取り叫ぶ。


 『生意気な弟よ!! 先日の借りを返してもらう!!』


 仁那に次いでエクソスケルトンに乗った前原が玲人の前に立ち玲人に声を掛ける。


 『……玲人君、電柱は怖すぎだ……』


 前原は玲人に思わず恨み言を言う。対して玲人は静かに答えた。


 「脅かしてすいません、前原さん。障壁で問題ないと判断していました。その為、かなりゆっくり目に電柱を投げたんです。それでも、もし障壁の強度に問題有る様なら電柱を止める心算でした」


 『……最初に言ってくれ……心臓に悪過ぎる……とにかく! 前回の模擬戦の借りも有る! だから俺も遠慮せず借りを纏めて返して貰う!』


 そう言って前原のエクソスケルトンは戦闘態勢を取った。



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