135)模擬戦(玲人の援軍)-2

 一方その頃、相対する玲人はと言うと、分隊のメンバーの動向を能力を使いトレースしていた。玲人の能力は自身が皆に説明した様に、直接戦闘向きだ。しかし、小春が仁那達と同化したタイミングで仁那しか使えなかった各種能力が使える様になり、全体的な能力増強も図れた。


 その為、以前では仁那に頼り切りだった検知能力も玲人は出来る様になっていた。


 (ダクテッドファンの無人機は無力化したが、その後動きが無い。慎重に事を構えているのか……うん?……此れは……)


 “……玲人も気付いた? 障壁が展開されたね。其れも複数……小春ちゃんが皆に渡したあの目で能力を付加して同時展開したんだろう……”


 玲人が思考中、能力が発動して障壁が展開された事に気付くと、同様に魂を同化している修一から冷静に分析された意見が出て来た。


 (凄いな……小春は……)


 “ああ、手強いね……どうする、玲人?”


 (……障壁が展開されたのなら、ある程度本気を出しても大丈夫だろう……)


 “前回の模擬戦ではフラストレーションが堪っただろうからね”


 (……流石に父さんには全部伝わるね)


 “当然だろう? 僕は”君“でも有るんだ……嫌かい?”


 玲人と父である修一の脳内会話は続いていたが、此処で修一は自分の存在が玲人にとって負担になっていないか聞いてきた。其れに対して玲人の答えは、即決だった。


 (嫌な訳無い、むしろ心強い!)


 “玲人は本気でそう思ってるね……伝わるよ、僕も君と居れて嬉しいよ”


 (さぁ、行こうか、父さん!)


 “あぁ、行こう、玲人。君は好きに動いていいよ。僕が周囲状況をチェックし、逐一君に伝えよう”


 (あぁ! 頼もしいよ、父さん!)



 小春と仁那達の同化に伴って、自身の能力増強と使える能力の幅が広がった玲人だったが、ずっとたった一人で戦って来た玲人に対する最大の“ギフト”は修一と言う、強力な援軍を得た事だろう……




 所代わって、エクソスケルトン組が居る市街地廃墟では沙希が志穂に連絡を取っていた。


 『志穂さん、どうかな? 周囲の状況は?』


 沙希の返答に答えたのは志穂では無く小春だった。


 『……お待たせしました、沙希さん……今、皆さんの脳内にニョロメちゃんを通じて映像を送ります』


 小春がそう言った瞬間、沙希達の脳内に上空に飛んでいる無人機の映像が浮かんだ。


 『な、なな何よ!? この映像!?』

 『うわ!! コレは上空の映像か!?』

 『驚く事ばかりだが……まさか無人機の映像が頭に映ってる?』


 一斉に分隊の面々は驚きの声を上げる。さっきから驚いてばかりだ。



 小春がそんな分隊の面々に語る。


 『……皆さん、驚かせてご免なさい……今、皆さんが見ている映像はトンボのカメラからです。わたしが意識して玲人君の場所を特定しますので志穂さんにトンボを其処に飛ばして貰います。トンボからの映像を見たら玲人君の動きとか距離とか分ると思いますので、後はお願いします』


 そう言って小春の通信は切れた。



 その通信を聞いた、前原は一人呟く。


 「何でもアリだな……本当に」




 一方小春は作戦指揮通信車で目を瞑り、玲人の場所を探す。


 (どこだろう……玲人君)


 小春は姿の見えない、愛しい彼の事を想い描きながら探した。精神を集中し、玲人が見つかる様願う。すると一つ目ちゃんを追うまでも無く、閃きの様にアーガルムである彼女は直ぐに玲人の場所を検知出来た。


 「!!……見つけました! 志穂さん! トンボ、わたしが動かしますのでカメラの方お願いします!」

 「りょ、了解!」


 小春の予想外の活躍の所為で、完全に立場が逆転した志穂だったが、素直に小春の指示に従う。



 ニョロメちゃんが憑依しているトンボ(ヘリ型無人機)は小春の想い描いた通りに動かせる。小春はニョロメちゃんの目を頼りに、トンボを旋回し、玲人が居る場所まで飛ばす。


 すると、廃ビルの屋上で愛しい玲人の姿が見えた。


 彼は真黒いスーツに真黒い流線型形状のヘルメット姿であり、ヘルメットの眉間部分に小春達があげた一つ目ちゃんが輝いている。パッと見では玲人と分らないが、小春には外観のみで彼を見ている訳でなく、玲人の意識を探して見ているので、どんな姿をしていようが、どこに居ようがすぐに探し出せた。真黒いスーツ姿の玲人は、何かかなり長いモノを持っている。


 「志穂さん! トンボの右下のビルの上です! 何か長いモノを持っているからすぐ分ると思う!」 

 「は、はいよ! スグにカメラで追ってその映像を映す……?……ナンだコレ? 玲ちゃん……何持ってるの?……」

 「……電柱の様ですね……」


 小春はトンボに憑依させているニョロメちゃんの視点で見ている。


 玲人は右手の手の平を上に向けている。手の平の上には電柱が浮かされている状態で持っている。其れを投付ける気だろう。


 「オイオイオイオイ……マジか……針じゃねーのかよ……」

 「……恐らく、玲人君もわたしが能力を使って障壁を展開した事が分ったんだと思う……だから、“強め”の攻撃をする気なんだ……」

 「強め、てレベルじゃないよ!? 針から次、電柱って、間抜き過ぎだろ!?」


 此処で驚いている志穂を見て、後ろから坂井梨沙少尉が指示を出す。


 「志穂! 驚くのは後にしな! 玲人の狙いを位置と電柱の向きで予想しろ! 小春ちゃんは今見ている映像を皆に配れるかい?」

 「は、はいよ! 姉御!」

 「はい、坂井さん! ニョロメちゃんを通じて廻します!」


 梨沙から指示を受けた志穂と小春はそれぞれ処理をこなす。

 

 「ね、狙い、分った! エクソスケルトン組の前原んとこ狙ってる!」

 「わ、わたしがトンボから見ている映像を皆に送っています!」


 志穂と小春は状況を梨沙に伝える。梨沙は前原に通信を繋げた。


 「あー、前原……残念だがお前、玲人に狙われてる様だ……」

 『はい……小春ちゃんの脳内映像来ました……嬉しくないけど……玲人君、マジで容赦ない……』

 「取敢えず、前原。廃ビルの陰に隠れながら移動を続けろ、見通しの良い所は避けるんだ」

 『……了解、善処します……』


 梨沙と前原の通信を聞いていた安中が梨沙に声を掛ける。


 「少尉……大御門准尉が投擲する電柱は必ず前原兵長のエクソスケルトンに命中する。大御門准尉としては、バリアーで防がれているとの認識で強攻撃を仕掛ける気だろう。実際、准尉のバリアーは対戦車ロケット弾を凌ぐからな。

 しかし、だからといって防戦一辺倒とはいかない。何か手を打たないと拙いぞ……石川技官、何か策は有るか?」



 問われた小春は少し考えて答えた。


 「……ええと……わたしは苦手ですが、仁那ならきっと大丈夫です……ちょっと本人に聞いてみます……」


 そう言って小春は目を瞑り、仁那に脳内で問い掛けてみた。


 (どう? 仁那、いけそう?)


 “フハハ! 任せておけ!! 村の娘よ! 奴には借りがある! この豪三郎! 奴を半泣きにしてくれるわ!“


 (……大丈夫かな……前原さんをちゃんと守ってよ!)


 “任せておけ! 必ず前原ロボを守って見せよう!”



小春は、仁那の答えに不安を覚えたが肉弾戦は仁那が得意だったので取敢えず替わる事にした。


 「……安中さん……仁那が出来るって言うから任して見ようと思いますが、良いですか?」

 「ああ、今日は模擬戦だ。出し惜しみは無しにしたい。石川技官、仁那君に替わっ……」

 「!!……大変だ! 玲君が電柱投げた!」


 安中と小春がやり取りしている間に、玲人が電柱を前原に向かって投擲した様だ。志穂が大慌てで叫ぶ。


 その様子を、トンボで見ていた小春は、仁那に脳内で大声で呼んだ。


 (仁那! 後はお願い!!)


 “任して! 此処は豪三郎で行くよ!!”


 そうして、小春は仁那に替わったのだった……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る