14章 模擬戦(対能力戦)

134)模擬戦(小春の素質)-1

 小春を含む特殊技能分隊の面々は前回、模擬戦を実施した廃棄された市街地に集まっていた。


 「今回は……玲人君一人に対し、小春ちゃんと俺ら全員で模擬戦か……」


 事前に行われたミーティングの際、安中に言われた事を思い返し前原は呟く。前回の模擬戦では玲人一人に対し、分隊全員で挑んだ。


 その際は前原は玲人の身を案じ、安中に食って掛かった。しかし、いざ模擬戦を始めると前原の心配など杞憂だった。結果は玲人の圧勝で、前原や沙希が操る最新式のエクソスケルトンすら、出来るだけ損傷を抑えて無力化される等、一方的な結果だった。


 その為、今回の模擬戦では流石に前原は安中に“玲人一人対全員”と言われても反論する心算は無かった。だが、小春の存在が気になって前原は安中に問うた。


 「大佐、質問が有ります」

 「聞こう、前原兵長」

 「石川技官と大御門准尉の戦力差はどの程度と予想されていますか?」


 「……正直分らないと言うのが本当の所だ。ただ、石川技官には本人も含め3人の別な意識が存在し、各々が違う系統の能力を発動できる。そういう意味では単純に考えれば大御門准尉1人に対し7人が相対する事になるだろう。ただ、大御門准尉の中にも父君の修一殿が居られる。彼も大御門准尉とは全く異なる系統の強力な能力を使う事が確認されている」


 安中が語る状況より、前回の模擬戦とは異なる複雑な状況になりそうだと前原は予想し困惑した顔で安中に答えた。


 「……了解しました。なんかやりにくそうですね……」



 前原の心配そうな声を受け、分隊全員に声を掛ける。


 「各位、今回の模擬戦は前回とは異なり、能力者が複数居る状態だ。そう意味では今回の模擬戦は……前回と様相が大きく異なり、一方的な展開にはならず、混乱した戦闘が予想される。各位安全にくれぐれも注意してくれ。それでは坂井少尉、合図を頼む」


 安中に促された梨沙は分隊の皆に立ち、号令を出した。


 「はい、大佐。其れでは各位、今より模擬戦に入るが勝敗は前回通り、ペイント弾等による非致死性弾による被弾は致命傷と見なし敗者とする。また捕縛等による行動不能も敗者とする。また、相手に対する危険行為も即敗者として厳罰に処す。但し前回の結果よりペイント弾と実弾との有効性に差が見られなかった事より大御門准尉に対しては状況により実弾発砲を許可する。

 それでは各員、配置につき戦闘準備に入れ。合図と共に模擬戦に入る。それでは各位解散!」



 梨沙の号令により分隊のメンバーは予定された配置に着いた。今回の模擬戦も玲人1人に対しエクソスケルトンに搭乗した前原と沙希が前方に配し、小春が操るアンちゃんこと、軍事用アンドロイドがニョロメちゃん装備の上配置された。


 後方には何時もの様に狙撃手として伊藤が待機している。更に後方には作戦指揮通信車が配置され、そこには小春は梨沙や安中そして志穂と一緒に後方の作戦指揮通信車に乗っていた。ちなみに薫子は、不測の事態に備え救護班と一緒に待機していた。


 小春は、分隊の皆が分散する前に“ニョロメちゃん”を渡していた。玲人はどうしようか一瞬考えたが、玲人には一つ目ちゃん(憑依出来ない旧タイプ)が以前に渡してあったので取敢えず自分のチームだけに配ったのだった。これで何時でも分隊の皆に能力を付与して支援が出来る。



 そして梨沙の号令で模擬戦が開始された。


 開始された模擬戦で暫く経ったが未だ、模擬戦に動きが無い。痺れを切らした前衛から連絡が入った。


 『志穂さん、玲人君まだ見つからない? 今回、いきなり出会い頭にやられるのは流石に嫌だわ』


 エクソスケルトンに搭乗する沙希から連絡が入る。今、模擬戦の作戦領域にはダクテッドファンを搭載した小型無人機が玲人の位置を探っている。志穂は沙希に答える。


 「うーん、今の所反応無いな……でも、あんまり降下すると、玲君の針に撃たれちゃ……!!……やられた……」


 そう言っている隙に志穂が見ているディスプレイに小型無人機の異常を示す警告表示がアラームと共に表示された。


 『どうしたの! 志穂さん!』

 「また、やられたよ……玲人君に“クラゲ”撃墜されたわ……代わりの“トンボ”飛ばすから、警戒しながら散開して……」

 『……了解……』



 そう言って志穂は通信を切った。困ったのは志穂だ。前回と全く同じ傾向だ。このままでは、また一方的に玲人にボロ負けする。


 「……前と同じパターンだよ……絶対視認出来ない高さまで“クラゲ”飛ばしていたのに……」


 何か無いかと思い横に居た梨沙に目を向けると……梨沙は目を瞑って沙希と志穂の会話を聞いていたが、小春に問い掛けた。能力については小春の方が詳しいと思ったからだろう。


 「小春ちゃん……玲人は絶対に見えない筈の小型無人機を針で攻撃して撃墜して来るわ。小春ちゃん、何か対策ある?」


 問われた小春は少し考えてから志穂に答えた。今、小春の意識の中では仁那の知識を参照しながら、仁那本人と脳内で話しあっていた。

 

 「……坂井さん、今、頭の中で仁那本人に聞いてみました。玲人君は無人機を目で見ている訳では無いようです。仁那が言うには……電気とか、熱とか、そして残っている意志とか見て攻撃しているみたいです」


 「なななんだ、それ……そんなの防げないぞ!! どどどうしたらいい? エスパー彼女!?」


 小春の答えを聞いた志穂は動揺して噛みながら小春に問う。対して小春は……


 「……何ですか……その呼名は?……エスパーはともかく……かかっか彼女って……」


 照れて悶絶している小春に坂井が苦笑しながら突込みを入れる。

 

 「小春ちゃん、後でいーっぱい玲人にデレていいから何か対策無いかな?」


 「!!…………ゴゴゴメンなさい、コホン、えーっと……志穂さん、さっき言ってた志穂さんのトンボにニョロメちゃんを憑依させますので、その状態で飛ばして貰えますか? ニョロメちゃん憑依状態なら障壁を展開できるので玲人君の攻撃をある程度防げます」


 小春の何気ない一言に志穂が驚きながら答える。


 「ババババリアー、張れるの!?」

 「……ええ、早苗さんや玲人君達にみたいに上手には展開出来ないですが……念の為、分隊の皆さんにも展開しておきます……」



 小春はそう言って目を瞑った。分隊の小春のチームメンバーに障壁を展開する為だ。小春は自分チームの4名にあらかじめ渡したニョロメちゃんに意識を配る。


 「……それじゃ……いきます……」


 小春がそう言った瞬間、作戦指揮通信車に球状の真白い障壁が展開された。其処に慌てた様子の分隊の面々から通信が入る。


 『な、何コレ! エクソスケルトンの周りに白い壁みたいなのが!?』

 『まさか! コレは玲人君が使ってた奴か!?』

 『前原! お前の所も、この白いのが張られているのか!?』


 分隊の面々は口々に戸惑いと驚きを感じたまま言いあう。そんな様子を見た安中が全員に連絡する。


 「各位、落ち着け。各位に張られた障壁は石川技官が各位を守る為に展開したモノだ。ちなみに作戦指揮通信車にも展開されている。これで各位は准尉の攻撃に耐えれる様になった筈。気を引き締めて模擬戦に当たって欲しい」


 『了解!』

 『小春ちゃん! 有難う!』

 『了解! 石川技官、感謝する』


 分隊の皆は意気揚々で返事して通信を切った。その様子を横で聞いていた梨沙が小春に礼を言う。


 「小春ちゃん! 有難う! こんな凄い事が出来るなんて……君が技官として参加してくれてあたしは嬉しいわ!」


 感謝された小春は戸惑いながら梨沙に返す。


 「い、いいえ、坂井さん、まだ、始まったばかりですから……所で、志穂さん、トンボの用意できましたか?」

 「うん! 準備出来たよ、小春ちゃん!」

 「そしたら、一度此処まで近付けて下さい。わたしが、ニョロメちゃんを飛ばして憑依させます。トンボで見た景色をわたしが受け取って、分隊の皆に分配します」

 「お、おう……分ったよ小春ちゃん……」

 「……小春ちゃん……君、凄すぎるよ……」



 志穂と梨沙が小春の行動力と判断力に思わず絶句した。それもそうだろう、目の前の少女は可愛らしいが小柄な中学生の少女だ。

 その少女が能力を持っているとは言え、初陣で臆せず部隊を支援しているのだ。驚愕するのは当たり前だろう。しかし……此れには理由があった。


 ……マセスだ。


 小春の魂の深奥に眠り同化しているマセスは遥かな過去、卑劣な侵略戦争を起こした罪で殲滅対象として敗走していたマールドム族に、軍師及び戦力として長い間支援して来た経験を持つ。マセスの尽力で、マールドムと呼ばれる人類は殲滅させられずに生き延びる事が出来たのだ。


 そのマセスは今、眠っているがその経験と技は水が染み出る様に同化している小春の魂に徐々に広がっていたのであった……

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