133)能力確認

 何故か一瞬、場が冷たくなって唐突に質問タイムは終了した為、早苗は小春に体を替わった。その様子を見た薫子は小春に話し掛けた。


 「小春ちゃんの秘密も共有できたし、小春ちゃんの能力で此処でどんなお手伝いが出来るか教えて上げて?」


 「はい、薫子先生……それでは説明させて頂きます。早苗さんの提案で、わたし達三人がそれぞれどんな事が得意か、苦手な事は何なのか調べて見ました。

 其れで分ったんですが、まずわたしからで説明します。わたしは、一応能力の発動は出来ますけど早苗さんには全く敵いませんし、体を使って何かするのは何故か長く動けなかった仁那に全然負けちゃいます。

 だけどわたしにも得意な事が有って、能力を使った応援とか、ニョロメちゃんを作ったりとか、そんなのは得意です。あと、治療も一番上手に出来ます……」


 「成程……完全に後方支援型だな……」


 そう言ったのは伊藤だ。小春は伊藤に答える。


 「……はい、い、伊藤さん。横に居られる薫子先生も同じ事を言われていました。多分わたしの性格的な所から来てるのかな、って思います……

 次に仁那ですけど、仁那は体を使った戦い方が凄く上手です。仁那が大好きな格闘アニメの影響も有って、そのアニメの色んな技が使えます。最近も……何か「絶断豪斬破」とか叫んでソファーとテーブルを真っ二つにして玲人君に怒られてました。いっぱい色んな技使えますが一番凄いのは、えーと“豪竜双牙拳”とか言う爆発する光の玉を撃てる技です」


 ここで話を聞いていた志穂が食付き気味で小春に詰め寄った。


 「小春ちゃん! その、小春ちゃんの中に居る仁那ちゃんが使ってる技って、もしかして“唸豪伝説”の奴!?」

 「ええぇと……何て言ってたかな……?」


 小春が志穂に聞かれた事を堪えられずに困っていると脳内から仁那の明るい声が聞こえてきた。


 “小春! それは私が好きな“唸れ豪拳! 豪三郎覇王伝説!”の事だよ!”


 仁那の答えを聞いた小春は苦笑しながら志穂に答える。


 「あの、えっと、垣内、さん。 今、仁那から心の中で言われましたが……垣内さんの言われているので合ってるようです」

 「志穂で良いよ! 小春ちゃん! スゲェーな、アニメの技、使えるなんて! 超見てみたい!」


 「はい、志穂さん。わたし達は直接戦う事は認められていないですが、代わりにロボットの“アンちゃん”を操って戦います。仁那はわたし達の中で一番上手に“アンちゃん”が使えますので、きっと仁那が戦う時は、アニメの技、絶対使うと思います」



 小春は、志穂にその様に説明した。そして小春は続ける。


 「最後は、早苗さんです。早苗さんは何と言っても能力の発動が凄く得意です。わたしなんかが思いつかない様な不思議な技や強力な力が使えます……あと……早苗さんは玲人君の中に居る修一さんしか制御できない超危険猛獣です……善処は尽くしますが……どうか皆さん……くれぐれもエサを上げたりして刺激しないで下さい……」


 そう警告を踏まえて静かに皆に話すと脳内で怒る早苗の声が聞こえてきた。


 “ちょっと! 小春ちゃん? 聞き捨てならないわね! 私は修君だけじゃ無く玲君の言う事も聞くわよ!?”

 (……突っ込むトコ、そこで良いんですか!? いつもの仕返しでディスった心算なのに……まさかのノーダメージとは……!)


 早苗の怒りの方向が予想外過ぎて、小春の皮肉が1mmも効いていない事に小春は驚愕した。そんな小春を余所に早苗は脳内で吠える。


 “それと、小春ちゃん……一応言っておくけど……私は基本自給自足で、エサは自分で探しに行くわよ!”

 (……それって自分でトラブル起こす気満々って事ですよね!?)

 “私は、刺激は自分から探しに行くタイプなの!”

 (……わたしの体で、刺激探さないで下さい!)


 小春はたった今勃発した、脳内での早苗との嫁姑戦争の最中に、梨沙から突然声を掛けられ我に返った。



 「小春ちゃん、確か玲人も変化が有ったんだよな? 玲人悪いけど皆に説明してくれる?」

 「は、はい…えーっと……」

 「はい、坂井少尉」



 此処で坂井梨沙少尉に話し掛けられた事で、小春は脳内ケンカを取敢えず収めた。そして突然言われた梨沙の言葉に対応できず動揺していると、玲人は問われた梨沙に返事をした。そして小春の頭をポンポンと優しく叩いて、分隊の皆に話す。


 「皆、今しがた坂井少尉が言われた俺自身の事を皆に言っておこうと思います。詳細な情報開示は安中大佐に止められている為、任務に関わる範囲で説明します。

 俺の心の中にも、“住んでいる”人が居る。それは俺の父だ……小春と仁那達が同化したタイミングで会える様になったんだ……」


 「「「「…………」」」」


 玲人の告白に静かになった部隊の皆だったが、此処で前原が沈黙を破った。


 「……色々と信じられん話ばかりだけど……玲人君、君の中に居ると言うお父さんに会わしてくれないか?」

 「はい、前原さん。今俺の父と替わります」


 そう言って玲人は目を瞑って修一と替わった。


 「……初めまして、僕の名は八角修一。さっきまで此処で話していた玲人と仁那の父であり、小春ちゃんから紹介されていた早苗の夫です。分隊の皆さんには息子がお世話になり、お礼が言いたいと思っていました。いつも息子が支えて頂き本当に有難う。

 僕は妻の早苗、僕の子供達……そして新しく家族となった小春ちゃんの全員で、分隊の皆さんに協力していきたいと思いますので今後とも何卒宜しくお願い致します」


 「「「「…………」」」」


 修一は簡単だが丁寧な挨拶を行った。分隊のメンバーは、基本朴念仁で必要な事しか口にしない玲人(話しているのは修一)からこんな丁寧な言葉使いが出た事に驚いて、又も沈黙した。その様子を見た修一は気を使って“息子に替わります”と言って玲人と替わった。


 「……今、話したのが俺の父の修一です。父さんは、母さんと同じで、俺より能力の発動が得意です。俺は、今の所直接戦闘を得意としている。従って能力もその系統が得意だ。

 しかし父さんは多彩な種類の能力を使い熟せます。具体的には、俺は能力によって物体を動かしたり自身に付加させて強化させたりする事が主だが、父さんは能力を使って、光の砲撃や物質其の物に能力を作用させ、瞬間に溶融させたり、破壊させる事が出来る。

 詳しくは互いに調べていないが父さんは能力の応用技が非常に多彩だ。対して俺は、今の所、小春が説明した姉の仁那と能力の発動方法が似通っている様だ。

 あと、小春と仁那達が同化したタイミングと全く同じ時に能力の増強と範囲が広がったんだ。あの時はクラブで夕食していた時だったが、能力の解放と同時に発動が止められず部隊の皆に迷惑を掛けてしまい、申し訳ないと思っています……」



 此処で玲人は部隊の皆に頭を深く下げて謝罪した。玲人が謝罪したのは、小春と仁那達の同化のタイミングでクラブに居た玲人が自分の意志とは関係なく、対象のエネルギーを吸い取る“掠奪”を発動してしまい、クラブに居た分隊の皆と周囲に居た者達を眠らせてしまったからだ。

 玲人が謝る姿を見た、小春は自分も無関係な気がせず、玲人と一緒に分隊の皆に頭を下げて謝罪した。



 二人のそんな様子を見た分隊のメンバーは玲人達が謝る理由が分らず、互いに顔を見合わせて、沙希が思い出したように呟いた。


 「あ。 多分、皆で病院で朝まで寝てた奴の事だ、きっと」

 「アレ、飲み過ぎだと思ってたよ……朝起きたらめっちゃ調子良かったから、楽しい思い出しかないぞ。玲人君、今度飲み過ぎた時はもう一回アレやってくれないか?」


 沙希の話より前原が漸く思い出した。


 「そういや、あの日小春ちゃんの話してたんだよな……犠牲になる云々……でも、犠牲になる所か、救う筈だった小姑とオプションで姑を脳内インストールして、逆にエスパー化して帰ってくるなんて……若さって超凄い……」

 「……そこは若さの問題じゃないだろう?」


 同じ様に思い出した志穂が小春に感嘆し伊藤が冷静に突っ込んでいた。その様子を呆れ顔で見ていた梨沙が、玲人と小春に向き直って話す。


 「玲人、謝るだけ損だぞ? こいつ等はあの時、飲み過ぎて病院で運ばれた程度の認識無いから。小春ちゃん、こんな職場だ。見ての通り頭が残念な連中だが、気だけは良いから安心して良いよ!」


 梨沙が満面の笑顔でそう言って、小春の肩を叩いて安心させた。


 小春は、賑やかに、そして陽気に話し合う分隊のメンバーを見て、梨沙の言う通りだと理解し、警戒心や緊張が薄まったのだった。


 こうして、小春は特殊技能分隊の一員として参加する事になった……



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