132)自己紹介

 梨沙と安中に連れられて小春と玲人は作戦準備室に集められた。薫子も小春の為に一応同席した。


 作戦準備室には特殊技能分隊の面々が揃っていた。其処に居たのはエクソスケルトンを兵装に使う前原浩太兵長並び泉沙希上等兵と、狙撃を得意とする伊藤雄一曹長並びに後方支援を担当とする垣内志穂隊員の4名だ。

 玲人と小春を連れて来た安中が、此処にいる全員に声を掛ける。


 「……皆、揃っている様だな?」

 「「「ハッ」」」

 「はーい」


 3人は実に規則正しく敬礼し、志穂隊員はいつもの様に間延びした返事をした。安中は特に気にした様子も無く、言葉を続ける。


 「諸君らに集まって貰ったのは他でもない。この特殊技能分隊に新しいメンバーが参加する事になった。彼女は技官と言う立場で志穂隊員と同じく、作戦指揮車に乗って後方支援を担当する事になる。なお、諸事情により詳細な説明は避けるが彼女も大御門准尉と同じく特殊能力があり、その能力を持って任務にあたる。それでは各位自己紹介を頼む」


 安中はそう言って其処に居た全員に自己紹介をさせた。その中でただ一人、志穂隊員だけは“伝説のエスパー彼女来たー!!”と小春に絡みに絡んだが、すぐに青筋を立てた安中に怒られて撃沈した。


 特殊技能分隊全員の自己紹介が終わり小春が挨拶する番が来た。もう小春は既に緊張して挙動不審だ。そんな小春に対し、玲人が優しくフォローした。


 「……大丈夫だ……小春、ここに居る人達は皆いい人だ。だから小春は何も心配する事はない」


 玲人はそう言って、小春の頭をポンポンと叩く。空気を読めない玲人だからこそ出来る所業だったが……対する小春は顔を真っ赤にして下を向いて固まり、その場にいた3人の女性陣(梨沙と沙希と志穂)の熱い視線を受けていた。ちなみに薫子は慣れている為か、横でニコニコしながら二人を見ている。



 「……あ、あのわたしは石川小春と言います……上賀茂学園に通う中学2年生です……せせせ、精一杯頑張りますので……宜しくお願いします」


 小春は取敢えず噛みながら何とかマトモな挨拶だけした。其処に安中が話し出す。


 「……特殊技能分隊の諸君には、石川技官の“秘密”について知っておく必要がある。なお、この“秘密”も機密保持事項に当たる。各位十分に注意してくれ……特に垣内隊員」

 「何で私だけ限定!?」

 「……自業自得だろ……眼鏡喪女が……」

 「ああぁん? やんのか正雄の元カレ?」

 「誤解を招く言い方やめろ!」


 影で言い合う志穂と伊藤だったが、梨沙に制される。


 「あー仲が良いのは結構だが、今は任務中だ……自制する様に。所で、安中大佐が言った石川技官の“秘密”此処で見せてくれないかな?」


 梨沙は皆の手前、石川技官と呼び小春の秘密、つまり小春の同居人の紹介を小春に依頼した。対して小春は心配そうに安中と坂井に言う。


 「はい……でも、その安中さんと坂井さん気を付けて下さいね?」

 「有難う、でも大丈夫よ! 問題ないから此処の皆に二人を紹介してくれないかな?」

 「「「「……?」」」」



 梨沙と小春のやり取りを聞いて特殊技能分隊のメンバーは意味不明だった。そんな皆の様子に苦笑しながら、梨沙は小春に早苗と仁那を特殊技能分隊の皆に紹介を依頼する。小春は本日二回目となる、同居人の紹介を行った。


 「……えっと、皆さんにわたし達の事を説明します。色々有ってわたしの中にはわたし以外の人達が住んでいます。一人は玲人君のお母さんで早苗さん。もう一人は玲人君のお姉さんで仁那……二人とわたしはこの体を共有しています……それでは二人に替わって挨拶して貰います」



 そう言って、小春は、最初は仁那に替わった。


「えっと、初めまして……私は仁那、玲人のお姉ちゃんです……私は生まれた時から、動けなくて、ずっと具合が悪くて……もうホントは死んじゃうトコだったんだけど……こうして……小春のおかげで助けて貰った。今まで私一人で玲人のお手伝いしてたけど、これからは小春とお母さんと一緒にお手伝いするの。それじゃお母さんに替わるよ」



 そう言って仁那は早苗に替わった。


「どうも……私は早苗……今替わって貰った仁那ちゃんと其処にいる玲君の母親よ。それと……そこにいる薫子姉さまは私の腹違いの姉になるわ。諸事情有って小春ちゃんと同居してる感じになってるけど、まぁ宜しくお願いするわ。

 細かい話はメンドクサイから省くけど、此処で頑張ってる玲君達の為に私達も応援する事に決めたの。私達の実力は其処にいる理沙ちゃんが身をもって体験しているから後で聞いてみるといいわ。とにかく玲君のついでに貴方達の事も適当に助けてあげる。そういう事で宜しく」


 順に仁那と早苗は自己紹介をしたが……



 「「「「…………」」」」


 

 分隊の皆は呆気にとられて、言葉を失っていた。その様子に苦笑しながら安中が纏めに掛かる。


 「各位、見て貰って分ったと思うが、石川技官には特殊な事情がある。信じ難いと思うのは当然だが、此れは事実だ。なお、この事情により、普通の中学生だった石川技官は、大御門准尉の様な特殊能力を得た。この後、にその能力の確認を目的とした模擬戦を行う。各位、準備を行って望んで欲しい、以上だ」


 安中はそう言って作戦準備室を出て行った。



 安中が出て行った後、分隊の皆は漸く落ち着き早苗(体は小春)に質問をした。


 「それじゃ……私の方から聞いていい? えーと……なんて呼んだらいいのかな?」


 先に質問したのは沙希だった。対して早苗は軽く返す。


 「早苗、で良いわ。沙希ちゃん」

 「沙希ちゃん!? ちゃん付けされたの久しぶりだわ……そ、それじゃ早苗さん、石川さんの体に住んでる経緯はさっき教えて貰ったけど……普段はどんな感じなの?」


 問われた早苗は何でも無い様に話す。


 「そうね……私達はもう、一人の存在なの。不思議だけど、私が見聞きしている事は、今私の中に居る仁那ちゃんや小春ちゃんも一緒に見ているのよ。だからいつでも共有している体を交換出来るの。元々別な人間だった3人の魂が融合した訳だから、いわゆる多重人格症状とは全く異なるわ」


 「へースゲェな! 次! 私から質問して良い!?」



 沙希に次いで志穂が早苗に質問しようとしたが……此処で梨沙が釘を刺した。


 「あー……えっと、早苗さんは、ちょっと繊細な? 所が有るので……発言は、十分に注意して行ってくれ……具体的に言うと彼女は玲人を除いて、此の駐屯基地全員を相手ににしても余裕で勝てる存在だ……そして、シャレは通じない……言葉を選ばないと……本当に……エライ目に遭うぞ?」


 梨沙は少し青い顔をして横の薫子に同意を得る。薫子も無言でうんうんと凄い勢いで頷いている。二人とも、タテアナ基地の出来事が忘れられない様だ。



 対して早苗は“ククク”と薄く笑い、梨沙に答えた。


 「あら、イヤね? 梨沙ちゃん……私達一緒に遊んだ仲でしょう? もっとも遊んでいたのは私一人で、梨沙ちゃんは縛られたり転がされたりしてたわね。ククク、アレは楽しかったわ……」


 「「「「…………」」」」


 梨沙と薫子の態度と、早苗が語る言葉に恐ろしいモノを感じた分隊の面々は急に静かになった。此処で玲人が釘を刺す。


 「母さん……此処の人達にはお世話になっている。余り困らせないでくれ」

 「はーい、玲君。分ったわ! 所で志穂ちゃん、私に何か聞きたい事有ったんじゃないの?」


 早苗に問われた志穂は、小声で答えた。


 「いえ、その、もう、何か大丈夫です……」



 小動物的勘で、目の前のニコニコ笑う早苗(見た目は小春)が危険な猛獣である事を察知した志穂は本能に命ずるまま、大人しくなった……


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