131)山中メイ

 小春の叫びを聞いて、梨沙が逆に小春に問い掛ける。


 「メイ? 小春ちゃん、小春ちゃんは奥田中将閣下のお孫さんを知っていたの?」

 「は、はい、坂井さん。知っているも何も、メイちゃんとは小学校からの友達です……ま、まさか、奥田さんの孫だったなんて……」


 小春は驚愕しながら答える、その様子を見ていた薫子が笑いながら小春に話し掛けた。


 「小春ちゃん、そんな偶然って滅多にないわよー 他人の空似でしょう?」

 「うーん、確かに……そんな偶然、有る訳無いか……間違いかも……でもこの写真、小さい頃のだろうけど、本人にしか見えないよ……」

 「石川小春君、君は孫を知っとるのかね?」

 「い、いや、凄く似てるな、って……」



 小春がそんな事を奥田に対し呟くと、彼女の中の猛獣が目を覚ました。


 “何をまどろっこしい事をしてるの、小春ちゃん! ここは私に任せなさい!”

 (えー? 大丈夫ですか、早苗さん)

 “何を言ってるのよ、小春ちゃん! さっきの奥田じいじに対する私の大人の対応、見たでしょう? 何も心配いらないからここは早苗お姉さんにお任せしなさい!”

 (何ですか、早苗お姉さんって。歳考えて下さいよ、歳を…… まぁ、替わるのは良いですけどお願いですから無茶しないで下さいよ!)

 “はいはいー ……ククク”

 

 早苗はやたら、何やら変わりたそうだったので、小春は仕方なく替わってしまった。


 小春は気付くべきだったのだ。早苗が小春のからかいにも反応せずやけに素直だった事を。小春はやれやれと溜息を付きながら一人静かに目を瞑り、早苗に替わった。



 此れがとんでもない事になるとは知らずに……



 小春から替わって貰った早苗は悪戯っぽい笑みを浮かべ、こっそりと右手を背中に隠して意識を集中して、ニョロメちゃんを2体生み出した。

 同時に携帯端末を左手で操作し通信アプリを立ち上げ、山中メイのアドレスを呼び出しながら、ニョロメちゃんの1体を奥田中将閣下に飛ばした。奥田中将閣下に憑依させ、ある姿勢を取らせるために。もう1体は玲人に憑依させて体の自由を奪った。

 そして空いた右手で傍に居た玲人の手を取ると、ニョロメちゃんが憑依した所為で動けなくなった奥田中将閣下の近くに玲人を引張って行った。

 


 そんな小春の状況など露知らず、今迄、黙っていた安中が薫子や梨沙に話し掛けた。


 「皆、奥田中将のお孫さんと小春君の関係は守秘義務の事も有り、各位情報の拡散には注意を……」


 “ガタン!”


 安中が薫子や梨沙に対し熱心に話している背後で大きな音がしたので、3人が振り返ると、そこには……


 奥田は机の上で立ってお尻を不自然に付きだし、ウインクしながらテヘぺロ顔(しかも額にニョロメちゃんの目が付いている)で、両手で萌えキュンハートを作っている。そのハートの横にディープキスしている早苗(体は小春)と困り顔の玲人(玲人も憑依状態)が突っ立ていた。


 早苗の右手には携帯端末が握られていて……


 “カシャシャシャ!”


 そんなカメラの動作音がして、お尻を付きだして萌えキュンハートを作っている姿の奥田とディープキスしている早苗(体は小春)と玲人の鮮明な画像と……


 “わたし達婚約しました!! 所で横の面白いおじさんはメイちゃんのお爺さんですか!? 返事お待ちしてます!!”


 と書かれたメールが、奥田の孫の山中メイに送られてしまった……



 「一体、何を考えているんだ! 貴方は!」

 「ジンルイノヘイワヲー ツネニー」


 安中は尊敬する奥田中将閣下に早苗が働いた無礼千万(お尻突出し萌えキュンハート+テヘペロ顔に強制操作)な態度に激怒して大声を出すが、早苗は全く気にもせず適当な返事をして、相手にしていない。

 全く反省しない母の代わりに玲人がいつもの様に謝罪をする。


 「俺の母さんが……誠に申し訳ありません」


 奥田は自分の孫に等しい玲人が真摯に謝る姿を見て可哀そうになり何とかこの場を収めようとした。


 「ま、まぁ、いいじゃないか、安中君。写真位で、そう目くじらを立てんでも。元より私は今日、彼女に殺されても仕方ないと思っていた位だ、こんな笑い話で済んで良かったよ。もし石川君の言う友人が私の孫だったとしたら、最近孫娘からの視線が寂しい中でのアレは大ダメージだが……」


 「さすが、年の功! 良く分ってる! 言っとくけど、ホントは裸にして机の上でM字開脚の予定だったんだけど流石にお孫さんの心情を考えて許してあげたんだから! 感謝しなさい!」


 「それを! 貴方が言うな!!」


 遠い目をして安中を制止している奥田に、諸悪の根源の早苗は奥田をはやし立て、安中の怒りを更に買っている。玲人は横で額を押さえ困惑し、梨沙と薫子は完全に空気状態だった。


 

 そうこうしていると、“ピロリーン”と小春の携帯端末がメール受信を知らした。早苗が見ると山中メイからだった。それを見た早苗はニンマリ笑って、皆に語った。


 「あらー私ったら用事を思い出したんで小春ちゃんと替わるわーそれじゃー」


 早苗は散々やらかして、小春に替わった。



 早苗から替わった瞬間、小春はがっくりと崩れ落ちて涙目で座り込んでいる。


 「な、なな何て事を……あの猛獣め……」

 「……小春、大丈夫か?……」

 「エライ事に為りましたよ、玲人君……メイちゃんにトンデモナイ画像が流れちゃいました……」

 「……その様だな……済まない……母さんの代わりに俺が謝ろう……」


 玲人は小春にいつもの様に素直に謝った。早苗が仕出かした事を息子の玲人が謝るという構図が最近当たり前になってきた。小春は玲人が悪い訳では無いので、慌てて制止した。


 「違うよ、玲人君が悪い訳じゃ無いよ! それより……奥田さんに謝らなきゃ」

 「……そうだな……」


 小春と玲人は、奥田に対して真摯に謝る事にした。二人が謝る事では無かったが、早苗は全く悪いと思っていないだろうし、絶対謝る事は無いと思ったからだ。


 「奥田中将閣下、この度は自分の母親が大変なご迷惑をお掛けしました。深くお詫びします」

 「わたしも本当に御免なさい。早苗さんを止めれなくて」


 奥田は二人の謝罪する姿を見て、笑いながら言った。


 「ハハハ 孫の件なら気にするな。まだ、石川君の友人が私の孫と決まった訳では無いしな。それに、さっきも言ったが、私がお前やお前の母さん達にして来た事を考えたら八つ裂きにされても文句も言えん。其れが償いの代わりになるならおかしなポーズ位なら幾らでもして見せよう」

 「……中将閣下……」


 玲人は奥田の懐の深さに多いに感謝した。奥田はそのまま続ける。


 「それよりも石川小春君、君の端末で早苗さんが送った写真と、今来た返事を見せてくれないか? それで事実関係がはっきりするだろう」

 「は、はい奥田さん。今お見せします」



 そう言って小春は震える指で携帯端末のメール受信画像を開いた。そこには満開の桜が咲いた背景画像に絵文字一杯で返事が書いてあった。


 “うおおおおぉ!! 怒涛の小春からの超メテオ来たー!! ナニ!? 婚約て!? ナニ!? あのチッスは!? 末永く爆発しろ!! 裏切り者!! 小春に捨てられたメイは一人寂しくふて寝するから、軍服婚約者と同伴ですぐにお見舞いに来る事!!

 PS:……お祖父ちゃんに一体何が起こったの? その辺りも詳細報告求む。 貴方の愛しのメイより”

 


 小春は、メイの最後の一文を見て奥田に見せようか悩んだが、誤魔化しても仕方がないので受信した内容をそのまま、奥田に見せた。


 「ハハハ、どうやら間違い無い様だ。山中メイは私の一人娘の長女だ。娘は結婚して姓が変わり、奥田から山中に代わったんだ……まさか、君がうちのメイと友人だなんて……不思議な縁を感じさせられるな」


 「……以前からメイちゃんと、いえ山中さんとは仲良くさせて貰って……お互いの家に泊まったりしてます」

 「そうか! 其れなら今度、私の家にメイを呼ぶので君と玲人が遊びに来なさい」

 「は、はい必ずお邪魔します」

 「有難う御座います。奥田中将」


 早苗の所為で大事になったが小春と奥田の面談は終了した。最後に奥田が全員に話した。


 「……色々有ったが、此れにて石川小春技官との面談を終了する。この後は石川技官の能力確認を含めた模擬戦を予定している。仔細は現場で確認する事……それでは解散!」


 奥田との面談が終わった玲人は奥田に一礼して小春と共に奥田の執務室を出ようとすると、背後から奥田から声を掛けられた。


 「玲人! いい嫁さん捕まえたな! 大事にするんだぞ!」

 「はい、奥田中将閣下。彼女を生涯守り尽くす事を誓います」

 「…………!! れれれ玲人君……ナ、ナナニイッテルノ……」


 奥田に激励された玲人は普段の様に何も考えずにストレートに答え、真横で聞いていた小春はその回答に恥ずかしくて、そして嬉しくて悶絶していた……

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