127)超危険猛獣VS馬の骨ちんちくりん珍獣

 壊れた機械の様に謝罪を繰り返す玲人を見て、小春は慌てて玲人に向かって言う。


 「ハッ!? ちち違うよ、玲人君が悪いんじゃないよ! ごご、ごめん! そんな心算じゃ無かったの……早苗さんは自分に正直な人だから……悪いと思った事やしたいと思った事は我慢せずにやっちゃう凄い人だから……その悪い人じゃ……ないの」



 小春は何だか怒られた犬の様にしょんぼりする玲人を内心可愛く思いながらも、必死に慰めた。するとそんな小春の脳裏に渦中の人が嬉しそうな声で話し掛けてきた。


 “嬉しい事言ってくれるじゃない……小春ちゃん? だけどさっきの”超危険猛獣“は頂けないけど。 でも自分でもある意味、獣で有る事は誇りに思っているわ”


 (早苗さん! そんな変な自覚が有るなら、もうちょっと考えて行動して下さい。見て下さい……目の前のしょんぼりする玲人君を……この姿を見ても何も思わないんですか!?)


 “我が息子ながら超絶可愛い!!”


 (そうですよねー!? 私もそう思いました! 中々見れない…… はっ!? ちち違うでしょ! 玲人君を困らせちゃダメです!)


 “本心では可愛いと思ってるくせに……分るんだから、この裏切り者……でも私は自分を曲げる気は無いわ。そしてその事は玲君は修君を通じて分ってるのよ、ホント私やパパに似て良く出来た息子よね。

 この良く出来た息子をもはや自分自身とは言え、馬の骨ちんちくりん珍獣に捧げねばならんとか、どんな苦行なのよ……”


 (……その馬の骨ちんちくりん珍獣ってまさか、わたしじゃ無いですよね?)


 “さぁね、だって私は”超危険猛獣“らしいからね? その私と一体となった小春ちゃんは馬の骨ちんちくりん珍獣なんか、可愛いモノでしょう?”


 (やっぱりわたしの事じゃないですか!)



 脳内で罵り合う二人だったが“心通”をまだ使えない玲人は小春が目を瞑って瞑想している様に見えたので、そっと声を掛けた。


 「どうかしたか、小春?」

 「ハッ!? いえいえ何も? 可愛いなんて? 此れぽっちも? 思ってないよ!」

 「……何を言ってる? 小春?」


 “コレだから、ちんちくりん珍獣なのよ……”


 (……うううるさいです! とととにかく玲人君に何か言わなくちゃ!)


 “ねぇ、小春ちゃん。こんなまどろっこしい事しなくて、玲君をアソコに呼べばいいんじゃない?”


 (アソコって……そうか! シェアハウスの事ですね!)


 “その方が、色々話が早いわよ? 私の獣と小春ちゃんの珍獣、どっちが強いか勝負も有るしね“


 (……そんな勝負はした覚えは有りませんが……シェアハウスに玲人君を招くのは賛成です! そうと決まれば、早速!)

 

 「れれ玲人君、さっきの件話し合いたいから、わたしの部屋に来てくれない?」



 そう言って小春は玲人を自室へ連れ込んだ。



 自室に玲人を連れ込んだ小春はベッドに座らせ、自身も横に腰掛ける。


 「……玲人君、目を瞑ってくれる? 玲人君を案内したい所があるの」

 「ああ、承知した……」


 そうして玲人は静かに目を瞑る。小春は玲人の両手を自分の小さな手で包む。そして小春は玲人と同じ様に目を瞑ろうとしてハッと気が付いた。



 自室のベットに玲人と小春が二人で並んで腰掛けている。しかも目を瞑って……



 此れは何か拙いシチュエーションだと今更ながら気が付いた。


 (……何も考えてなったけど、この雰囲気かなり拙い……良かった……リビングでこんな状態だと陽菜に何て言われるか……誰も居なくて正解だっ……)


 “早く何かしないの? コッチはずっと待ってるんだけど……病院の時みたいに早く唇奪いなさいよ”


 “ねぇ、お母さん? 面白い事が起きるってお母さんが言うから見てるけど……一体何が始まるの?”


 (シマッター!! 特大の猛獣2匹、忘れてたよ! しかも何!? 期待されてガン見されてるし! 早苗さん! 仁那! 何を期待してるんですか!? 此れからシェアハウスに行くだけですよ!)


 “散々期待させといて、何この展開? 部屋に連れ込んだからてっきり ”おっぱじめるのか!? やるじゃん、小春ちゃん!!“ とか思ったのに……やっぱり小春ちゃんにはうちの玲人は50万年早いわね。……仁那ちゃん、小春ちゃんはやっぱりヘタレなお子様だったから、見てても何も無いわ……ホント、ガッカリよ!“


 “えー!? 何も無いのー? 何か分んないけど楽しみだったのに! 小春のヘタレ!”


 (わたしが悪いの!? 何故に!? ……アホな期待しないで、そろそろそっち行くからちゃんとして下さいよ、二人とも!)


 頭の中で広げられる熾烈な戦いに小春は奇声を上げて叫びたい気分だったが目の前に玲人が居るから取敢えず、奇声は我慢した。



 「れ、玲人君、わたしの言葉に意識を傾けて……玲人君は此れから、わたしの、心の中に入るの……わたしが意識して案内するから玲人君は心を、わたしに委ねて……そう、いい感じ……それじゃ、行くね」

 「……良く分らんが良いぞ」



 小春は玲人と意識を同調し、玲人の意識を誘導して小春の意識の中にあるシェアハウスへと連れて行った。



 「……うん? ここは小春の部屋?」

 「よく来たわね玲君」

 「フハハ、我が弟! 良くぞ来た!」


 玲人が目を開けると、其処は小春の部屋だが、コタツが置いてあり小春の精神の中に居る筈の早苗と仁那が座ってミカンを食べていた。


 「ようこそ、玲人君。ここはわたし達のシェアハウスよ。わたし達が体を交換し合う時に、余った人はここで待機してるのよ」

 「……そうか、父さんのログハウスみたいな物か……」

 「多分そうだね、玲人。お邪魔するよ、小春ちゃん」


 小春の説明に玲人が納得していると、部屋に入って来た修一に声を掛けられたのだった。



 ……小さなコタツに5人が囲んで座る。いや、正確には早苗は修一にべったりと引っ付いて離れない為、コタツの4方には仁那と玲人、そして小春が座れた。

 修一にべったり引っ付いてしな垂れる早苗を、他の3人が眺めているといった状況だった。


 「…………」


 小春が無言で呆れていると、唐突に仁那が小春に聞いてきた。


 「小春と玲人はしないの?」

 「……!? にににに仁那? なな何言ってるの?」

 「でも、お父さんとお母さん仲好さそうだよ? 小春と玲人は婚約したんだよね? それって結婚してお父さんとお母さんみたいになるって事でしょ? なんであんな風にしないの?」

 

 「…………」


 小春は幼くなった仁那の質問爆弾に困ってしまった。仁那は猛獣である母の影響を過分に受けており、どうしても母早苗を基準にしてしまうのだ。早苗は母親としては完璧なのだが、それ以外の言動が危険な猛獣だった。どう答えようか悩んでいると……


 「仁那、人には人のペースが有るんだ。小春ちゃんと玲人の自然な関係に任せるのが一番良いんだよ」


 修一がこれ以上無い位の完璧なフォローを入れてくれた。すると修一の横に居た猛獣早苗が横やりを入れてくる。


 「そうよ、仁那ちゃん。小春ちゃんはお子様でヘタレだから、許してあげてね? 多分私と修君位になるには50万年位掛かると思うの」


 「うん! 分ったよお父さん、お母さん! つまり小春はヘタレだから時間が掛かるんだね? それなら仕方がないね!」


 

 結局、修一の素晴らしいフォローは早苗のせいで、小春がお子様でヘタレ認定されてしまった。小春は悔しげに早苗をジト目で睨むが早苗は上から目線で不敵に微笑み返す。


 「……ちょっと早苗さん? 何言ってるんですか?……」

 「あらら、どうしたのかしら? そんなに膨れっ面で睨んじゃって……可愛いわね」


 睨みを利かせあう小春と早苗を余所に玲人は微笑を浮かべて皆を見ている。玲人の中では小晴と早苗の争いは談笑している様に変換されているらしい。


 小春はワイドショーで良く言われる嫁姑問題で役に立たない夫の話を思い出した……

 


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