125)円卓の議(カナメの想い)

 アルマの後にガリアがアリエッタに質問する。



 「私から質問だが、その長い間に敵国ゲユラヒーエはこのアガルティア同様に復興してないだろうな?」


 「はい、ガリア卿。ご質問に対し回答いたします。敵国ゲユラヒーエとその当主マナフタート自身は“あの御方”が国諸共に消滅させましたので、二度と彼の国が我らの前に現れる事は無いでしょう。

 我らの障害と為りうるのは、先程も申し上げた通りワエルクメト国のみです。“あの御方”はワエルクメト国を敢えて無傷のまま別次元に追いやられましたので依然勢力を保持している事でしょう」


 アリエッタの答えに満足したガリアが応える。


 「了解した、アリエッタ。フフフッ、ワエルクメト国など、臆病者の集まり。我等アガルティアには遠く及ばぬ。取敢えず捨て置いて問題ないか、ウォルス?」


 「そうだなガリア、このアガルティアは騎士の国だ。かの大戦時、アーガルム族全体の危機にも関わらず、戦いを放棄した者等脅威ではない。かといって“あの御方”が覚醒していない現状、我らは一切の油断が有ってはならない。

 我等は“あの御方”が命を賭して守って来た、このアガルティアを何としても“あの御方”に無事な姿でお返しせねばならん。各々方努々忘れるな……特に議題が無ければ、円卓の議は終了とするが、各位何か有るか」



 ウォルスに問われたカナメは、アリエッタに質問した。


 「……アリエッタ、僕からも質問良い? ……あの戦いで回収された子供達の様子はどうかな?」


 「……はい、ロティ卿。あの子達は依然、回復の見込みが見られません。あの子達はかつての戦いでマールドムに、意志顕現力の発動体として利用された為、彼らの魂は深く傷つき、自我は完全に破壊されています。今は魂が霧散しない様、彼らの肉体を器として繋ぎ止めていますが、肉体の生命維持を切れば、すぐにでも魂は霧散し、無意識の海に飲まれるでしょう。

 せめて肉体だけの破壊であれば、転生すれば良いだけなのですが、此処まで深く傷ついた彼らの魂を回復する事は、残念ながら……

 唯一の方法は、マセス様の時と同じく、別な魂を当てがう事です。しかし、マセス様の場合と違い、自我を完全に破壊された彼らの魂では材料とされた魂の意識の方が支配的になってしまうでしょう……」


 「……そうか、やっぱりアイツの、ナナリの魂はどうあっても救えないか……」


 「……申し訳有りません……お力になれずに……」


 アリエッタから妹達について絶望的な事情を聞いて、歯噛みし一瞬悔しそうな顔を浮かべたがアリエッタ達は何も悪くないので、明るく努めて笑顔で回答する。


 「……いいよ! アリエッタ達が悪い訳無いし。取敢えず今の所は静観するしかないね」

 


 そんな様子を見た、ウォルスはロティの肩に手を置き声を掛ける。


 「ロティ、ナナリ達の事は俺達も何か出来ないか改めて模索する、心配するな」

 「……有難う、ウォルス。厳しいだろうが僕も諦めず、信じてみるよ」

 「私も考えられる治療はもう一度最初からやって見るわ……」

 「アルマも有難う、僕は大丈夫だよ」


 そんなカナメとウォルスの姿を見た、アルマがカナメに声を掛け、カナメはアルマに礼を言った。



 一頻り必要な報告が終わった後でカナメが、皆に質問した。今日の夏祭りでカナメが気になっていたマールドムの処遇についてだ。


 「最後に皆に聞きたいんだけど……“彼”が完全に目覚めた時、マールドム達をどうする?」

 「「「「…………」」」」


 カナメの問いに皆が一瞬黙ったが、すぐにガリアが声を上げる。


 「そんな事、決まっている。“彼”に従いマールドムの奴らを一人残らず駆逐すべきだ」

 「アタシもそう思うぜ、奴らの腹芸見てるから分んだ、アイツ等生かす価値はねぇ」


 「ガリアもリジェも乱暴すぎるわ。確かに1万数千年前のマールドムは害悪だったけど、今の時代の彼らを全員そうだと決めつけるのは危険よ……マールドムの中にはエニの様な凄くいい子もいる……私達は神様じゃない。彼らを裁く権利なんか持って無いわ」


 「俺もアルマに賛成だな、大昔の下劣なマールドム達は俺達で殲滅した。だから、別に今の奴らなど放っておけ。仮に今の世の奴らが俺らに手を出した時に対応すればいい」


 マールドム殲滅派のガリアとリジェに、中立派のアルマにルクートと、この少ない人数でも三者三様の意見だ。其処にウォルスが割って入る。


 「マールドムについては、我々の意見をまとめその上でお館様に決めて頂くしか無いだろう。我々は騎士だ。忠節を尽くし民の平和を守る事こそ我等の務め。マールドムが敵とはいえ彼らに対し我々が積極的に侵略行為を行うべきでは無いと俺は考えている。

 ……しかし、お館様がかつての様に彼らの殲滅を命ずるなら、我等は従わねばならん」


 「まぁ、そうだね。結局の所は“彼”に従うしかないか……」

 「……うむ……梅松……」

 「うん? ドルジ、どうしたの?」

 「……うむ……梅松……は惜しい……」

 「「「「…………」」」」


 ドルジが再三呟く“梅松”の意味が分らず皆が困惑していると、ガリアが思い出して皆に説明する。


 「あー分ったぞ、ドルジが言ってるのはマールドムの連中が作った湯治場の事だ。ドルジの奴は其処がお気に入りなんだ」

 「そういや、そんな事言ってたな……お前マールドムの作る道具なんかに影響されて、どーすんだよ! って……まぁアタイもスーパーメロンパフェは捨てがたいな……」

 「確かにアレは中々だったな……」



 リジェとガリアがこの前二人で食べたスーパーメロンパフェについて感慨深く思い出してる姿を見て、カナメは自分の考えを皆に伝えた。


 「ねぇ、皆。この国はカドちゃん、いや、“彼”の転生した場所でもあるし小春ちゃんの家も有る。この国には出来るだけ手を出さない方が良いと僕は思うんだ。確かにマールドムは害悪だけど、“彼”と小春ちゃんはマールドムに育てられたんだ。彼らの気持ちを逆撫でする行為は、“あんな結果”を招くかもしれない」



 カナメの言い分を聞いたウォルスは、頷いて口を開いた。


 「ロティ、良い考えだと思う。マールドムの対処はお館様が決められる事だが、小春殿の事も有る。彼女を余り刺激するべきでは無いと、“あの御方”が覚醒した折に俺からも進言しよう。少なくとも小春殿が住まうこの国には手を出さない様にと」


 「しかし覚醒した“彼”は以前の様にマールドム殲滅を望むのでは? あの時の様に我等の話など聞かんだろう」


 ウォルスの考えに異を唱えるガリアだったが、ウォルスは自信を持って答えた。


 「かつての様に絶望に暮れた“あの御方”なら我らの話など聞かぬだろうが、今は違う。それにエニとマセス様である小春殿の願いとあっては、聞いて下さるだろう」

 「確かにな。俺は其れで良いと思う」

 「……うむ」

 「マールドムなんざどうでも良いが、スーパーメロンパフェは惜しいしな」

 「私は納得し難いが、確かに小春を刺激するのは拙いと思う」

 「元より、私はマールドム殲滅に反対だから支持する。私としてはこの国に限らずマールドムの血を流させる事は止めて欲しいわ」

 


 カナメは皆の意見を聞いて心底安堵するとともに心境としては複雑だった。マールドムへの憎しみと、同時に自分を育ててくれた祖父母や、学校の友人、そして晴菜の事が内心ごちゃ混ぜになって整理が付かなかった。


 マールドムなど全て滅ぼせば良いとずっと思っていたが、晴菜達の事は単純にカナメの中では割り切れない事だった。


 その為に先程の自分の考えを提案した。


 無論、玲人や小春の事を考えれば、この国の保護は必要な事だったので、カナメの事情とは別で初めからその提案をする心算ではあった。

 少なくともこの国のマールドムの保護について皆の同意が得られカナメは取敢えず安心した。晴菜達の身に危険が及ぶ事は今の所、無さそうだ。

 

 

 但し、覚醒した“彼”の決断次第だが……



 議論が出尽くしたようで、ウォルスが締めに入る。


 「……議題は尽きないが、互いに明日以降も任務が有る身だ。今日の円卓の議は終了とする……アガルティアの復興も進行し、マセス様の様態も安定した。

 これで漸くお館様の復活に我らも本腰を入れられる……お館様の復活は眼前である! 汝ら、悠久の時を生きそれでも尚、忠順の意志を忘れぬ騎士達よ!! 彼の方の大恩に我ら報いる為、今一層の挺身をお願いする!」


 ウォルスはそう言って円卓の皆を見渡す。そして声を上げ、誓いを立てる。


 「全てはお館様の為に!!」

 「「「「「全てはお館様の為に!!」」」」」


 其処に居た皆が、声を大にして叫んだ。


 こうしてアーガルムの騎士達による円卓の議は終わった。この安アパートの一室で人類の存亡に関わる重大な是非が問われていた事は、マールドムと言われた人類は誰一人、気が付かなかった……


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