124)円卓の議(最強存在小春)
エニの事を思い出し涙を流す、アリエッタ。その様子を見ていたウォルスは言葉を掛ける。
「我々も全く予想していなかったよ。まさか、あのエニが一万数千年もマセス様と“あの御方”の御傍にずっと控えて待ち続けて転生するとは……エニはマセス様と“あの御方”の誕生に合わせて、当時近くに住んでいたマールドムの妊婦の胎児に転生した様だ。
その後、よもや“器”に選ばれる等とは……此れは偶然などではない、エニの強い願いが導いた必然の結果だ……本当に……何という忠義心だろう……」
「違うよウォルス、エニ、いや小春ちゃんだね、今は。小春ちゃんの中にあったのはそんな安っぽいモノじゃない。あの子は純粋にマセス様と“彼”をただ愛していたから、だからずっと傍に居たかったんだと思う……
ところで皆、分ってる? 僕らの最大の障害は、小春ちゃん一人だけだ。だってマセス様とエニなんだよ! あの子! 手が出せない上に健気過ぎて、戦う気萎えるよ!
あの子が涙ながらに“力になって”って頼んで来たら12騎士長どころかアガルティアの民全員があの子の味方になるね!」
「そりゃ、そうだな! アタシも思わずエニの方に加勢したくなるぜ! アハハハ!」
「ククク、その時は我も加勢しよう……」
カナメの冗談なのか本気なのか分らない呟きにリジェやドルジも大いに同意し、その場にいた全員が笑った。アリエッタですら涙目で本気で笑った。その表情は唯の少女の姿だった……
「……冗談でなく真実味がある所が恐ろしい話ね……小春ちゃん……なんてとんでもない存在なの……まぁ、その子の事は横に置いといて、それでアリエッタ、さっきのルクートの返答の続きを聞かせてくれないかしら?」
ひとしきり笑いあった彼らであったが、小春の恐るべき“存在能力”が冗談では無い事実に気付き困惑した。取敢えず考えても仕方がないと思ったアルマはさっきのアリエッタの話が気になって続きを促した。
「はい、アルマ卿。フフッ エニ、いえ小春のお蔭で何だかホッコリした気持ちになりました……
さっきの話を続けます。マセス様の魂の崩壊を防ぐため、選ばれた小春ですが、実はエニの転生体でした。その為エニを深く愛するマセス様は自ら強く望み、小春の魂と同化し休眠されている様です。
この場合、マセス様の魂が深く損傷している事と、マセス様自身の強い意志力の作用で、長い時間を掛けて転生を繰り返す内、複数の意識は最適化され小春を中心とした新しく優れたアーガルムの魂に進化するでしょう」
「良く分ったわ、有難うアリエッタ」
「成程、合点がいった。しかし、あのエニが我らと同じアーガルムになったのは本当に喜ばしい事だ」
アリエッタの答えにアルマとルクートは納得した。ガリアは感慨深げに呟く。
「確かに……かつての戦いでエニが殺された時のマセス様と“彼”の落胆は見ていられなかった。結果的に其れが切っ掛けで最後の戦いへと繋がった様なモノだ。此度エニがアーガルムになった事で二度とあの様な事は起こらないと信じたい」
「……うむ」
ガリアの言葉を受けたドルジは短い言葉で同意する。
思い出に浸っているのか静かになった円卓の議に、今度はウォルスがガリアに問い掛けた。
「ガリア、確認したい。エニ、いや、小春殿と呼ぼうか。小春殿と同化したマセス様のお力は我々の目論見通り、意志顕現力の弱体化は成功したのか?」
「ああ、此れを見て欲しい」
そう言って、ガリアはまた、記憶の投影を行った。見せている映像は病院で、小春が玲人に言われてLEDスタンドの電力を“狂騰”で増加させようとして失敗しているシーンだった。
「成程……上手くいった様だな。自衛目的の最低限の意思顕現力も問題無さそうだ。何よりマセス様のご容態は問題ない。此れで“あの御方”も安心されただろう」
映像を見たウォルスは小春の能力の弱体化された状況と元気そうな姿を見て大いに満足した。そんなウォルスにガリアが追従する。
「そうだな。もはや魂の崩壊は有り得ない。“彼”にマセス様自身がの魂を分与された事と、今回我らの計らいでマールドムである小春の魂と融合した事で、マセス様のお力も大幅に弱体化された。これでご無体も無くなるだろう。
我々は“彼”にマセス様の守護を命じられたが、マセス様を弱体化させるな、とは命じられていない。記憶を取り戻した時“彼”は怒るだろうが、エニである小春と同化したとあれば何も言うまい。
まぁ、実際“雛”の少年は大変喜んで婚姻の誓いまでした。“雛”の自我はそのままとの事だから、小言は言うだろうが、その時は発案したウォルスが怒られれば其れで仕舞いだろう」
ウォルスに対しニンマリと悪戯っぽい笑顔を見せて話すガリアに対しウォルスは何でも無いという感じで返す。
「いくらでも“あの御方”に怒られるさ、そして、あんな結果を回避する為なら、何だってしよう……だからこそディナも今回だけは俺の考えに同意してくれた……」
「……相変わらずだな、お前達は……」
静かに語るウォルスに対し、ルクートは肩を叩いて慰めた。ちなみにディナとは、ウォルスが愛してやまない恋人だが、事情により互いに別な道を歩んでいた。
「……俺達の事は、今はいい……今は互いに信じる者を何としても守るべきだ。その道の先に互いの歩む道が重なる事が必ず有ると俺は信じている。それはディナも同じ筈だ……」
「よく、そんなクサイ事言えるな! こっちが聞いてて恥かしくなるわ! だからお前はディナに捨てられんだよ!」
「止めたげて……リジェ。お願いだからウォルスをそっとしてあげて……」
遠い目をして独り語るウォルスに対し、空気等ぶった切ってリジェが馬鹿にし、其れをアルマが止めていた。
「…………さっきも言ったが……俺達の事は今はいい……分ったな、リジェ……触れるな……」
「わ、悪かったよ、唯の冗談さ……ウォルス……そんなに気にするとは思わなかったんだ……何か……その……ごめん……」
リジェの容赦ない一言で想像以上にダメージを食らったウォルスは暗い目をしてリジェを静かに睨む。その哀れな姿を見て流石にリジェも真摯に謝った。
「しっかりしろ、ウォルス。お前は強さだけは12騎士長最強だが、心根がなっとらん……そんなだから、ディナに……おっと、失言だった」
「ほら、ウォルス、これあげるから元気出して」
意地悪な笑みを浮かべたガリアにも弄られ、同情をかったカナメに12騎士長筆頭ウォルスは屋台のお土産の焼き肉串を貰っていた。失恋には肉が良いと言う小ネタからのカナメの優しさだった。
その優しさにウォルスは漸く落ち着きを取り戻した……
「……もう大丈夫だ。世話を掛けたなロティ……コホン…………特に議題が無ければ、各位の意見を聞こう。各位何か有るか」
「……じゃあ俺の方から聞きたい、他国の連中は動きないのか?」
ウォルスに問われた事より、ルクートが他国の状況を聞いた。ルクートが気にするのは勿論マールドムの国々では無い。アーガルムの他国について憂慮していた。
「はい、ルクート卿。皆様方が目覚めた折にもご説明させて頂いておりますが、改めてご説明します。現状このアガルティアの脅威となりうる他国は中立を保っていたワエルクメト国のみですが、彼の国は“あの御方”がこの世界とは異なる次元に追いやられました。その後の1万3000年前間、彼の国はこの世界への干渉は有りません」
「私の方から質問よ、アリエッタ。最後の戦いの後に“彼”や私達騎士も含めて、アガルティアの全ての民達は眠っていた訳だけど、その長い間にゲユラヒーエ達の動きは無いのかしら?」
リジェに続きアルマがアリエッタに質問する。
「はい、アルマ卿。1万3000年前に敵国ゲユラヒーエによる大規模攻撃を受けたアガルティアは致命的なダメージを受けました。
その後“あの御方”が最後の戦いの折、ご自分が封印される間際に、持てる全ての力を使いこのアガルティアを守る為に別空間に転移させ、凍結保護されました。
その間、封印が解かれるまで長い間アガルティアは凍結されたままでしたが、一部動いていた自律装置の解析によると敵国ゲユラヒーエを含む他国の動きは一切有りませんでした」
「有難う、アリエッタ。所で、1万3000年か……マールドムより長命な私達でもそんな長い時間はピンとこないね……」
アルマは遠い目をして自分が通り過ぎた時の長さを噛みしめたのだった……
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