122)円卓の議(ウォルス)

 「これ、皆にお土産買って来たんだ」


 そう言ってカナメはシャリアとリントに屋台で買ったお土産を渡した。その内、シャリアはわたがしをリントはリンゴ飴を選んでいた。


 「……マールドムの連中って面白い事考えるな。食べ物の造形に拘るなんて……実際美味しいし」


 シャリアはわたがしを静かに食べながら感心した様に呟く。


 「確かに、我らアーガルムであれば意識して望んだものは現象化しますが、彼らはそうではない……だからこそ道具や食料に拘るのでしょう」

 「しかし、リント、奴らは自ら産んだ道具類を巡って争いを起こす……金銭や兵器等々だ。其れこそ本末転倒ではないか? やはりガリア様が言う様に連中は不完全だ」

 「確かにそういう考えもありますが、このリンゴ飴は確かに美味しい……其れに先日ロティ様が勧めてくれたアニメなる動く絵芝居は確かに絶品でした」


 話し合うシャリアとリントの会話を黙って聞いていたカナメだったが、内心は今日の夏祭りでの晴菜とのやり取りを思い出していた。


 そして自分の中で“マールドムは敵”という、自分の気持ちが揺らいでいる事に気が付いた。



 一万数千年前に“彼”と一緒にマールドムの侵略軍と戦っている時は簡単だった。


 悪いのは卑劣な方法で侵略してきたマールドム軍だった。だから彼らを殺し、潰して殲滅するだけで考える必要は無かった。そしてカナメには妹を救うという理由も有った。


 ……しかし、今は違う。


 カナメは自分を取り巻く東条家の祖父母や学校の友人、そして妹を思い出させる晴菜達が、いつの間にか居心地のいい存在になっている事に、自分自身が困惑していた。


 

 だからこそ、自分以外のアーガルムがどう考えているか聞いてみたかったのだ。



 話し合うシャリアとリントの会話を黙って聞いていたカナメは二人に質問する。


 「ねぇ、シャリアとリントはマールドムの現地調査も兼ねて、海外からの転校生っていう“設定”で学校へ行ってるだろう? マールドムが集う其処は二人にとっては、どんな所なの?」



 問われたシャリアとリントは顔を見合わせて其々答える。


 「学校ですか……私は自分の希望でマールドムの少女達のみが集う女学校という所に行かせて頂いています。マールドムの下劣なオスは見るだけで殺意が湧きますので……私達は12騎士の皆様方と同じくアリエッタ様に奴らの知識や言語を記憶転写して頂いているので、学校に通う事自体は何ら問題は有りません。

 女学校に居るマールドムの少女達は、そのやかましいと言うか、とにかく元気です。何故か、私が歩くだけで騒がれ、悲鳴を上げられます。先日も恋文というものを年下の少女から貰いました……

 そうですね……嫌な……気はしませんが……ああ、嫌な事と言えばマールドムの若いオスが一匹嗅ぎ回って来た事が有り、気分を害されました。そのオスが私の後ろを付いてきた事が有ったので胸倉を掴んで軽く放り投げてやったら二度と来なくなりました」


 シャリアは自分が女学校でお姉さま認定されている事情とストーカー退治をした事を淡々と何気なく話す。次いでリントが続ける。


 「シャリア殿もマールドムの子に騒がれるのか? 僕も何故か自分の高校でもマールドムの少女に騒がれるよ……彼女達には僕達アーガルムが分る検知能力が有るのかと念のため“心通”で彼女達の感情を読み取りましたが、恐怖じゃ無く歓喜の感情でした。余計に騒ぐ理由が良く分らないです……

 そう言えばマールドムの少年の中にロティ様が勧められた“超絶爆誕! アースロボ”を理解する同志に出会ったんです! 今迄はロティ様が語るが如く、マールドムの少年少女に宣教していましたが、皆生暖かい微笑を浮かべて静かに去って行くばかりでした。

 しかし彼は見た目こそかなり残念ですが、マールドムにしては稀有な熱い魂を持っており、僕の話に深く同調してくれました。今度彼の自宅に呼ばれていますので現地調査して参ります!! ロティ様の為にも!!」


 「それ、完全遊びだろ。アホウめ……」

 「あはは、また、その時の話を是非聞かせてよ。リント」

 「はいぃ! お任せ下さい!」

 

 シャリアとリントの話を聞いたカナメは現地で潜入調査をする彼らがマールドム達にかつての様な憎悪と嫌悪を抱いていない事に何とも言えない気持ちを抱いていた。


 丁度、言葉にすると反発と共感を混ぜ合わせた様な心情だ。


 (……確かに、あの時とは時代が違うか……しかし、アイツの事を思うと……)



 シャリアとリントが二人で談笑する中、カナメがそんな風に思案していると、リビングに眩い光が発生し透明な少女、アリエッタが姿を見せた。


 「ロティ卿、此処に居られましたか。ガリア卿がお呼びです、円卓の間に御出で下さい」

 「分ったよ、アリエッタ。それじゃ二人とも又、今度ね」


 カナメはシャリアとリントに別れを言ってアジト二階の203号室に向かった。その姿を見届けたアリエッタはシャリアとリントに微笑んでから姿を消した。



 カナメは203号室と書かれた古い木のドアを開ける。

 

 “ギイィ”


 カナメが203号室のドアを開けると4畳一部屋の薄暗く汚い部屋には誰も居ない。


 カナメは構わず部屋の中に土足で入り、意志力を強く込めながら呟く。


 「隠された扉よ……僕の前に姿を現せ」


 するとカナメの意志力に反応し、荘厳な光るアーチ状のドアが現れた。



 カナメがそのドアを開けると……


 其処は白を基調にした巨大な円形の部屋だった。石造りの丸い柱が部屋を取囲み天井のドームを支えている。部屋には窓も無く閉ざされた環境だったが部屋自体が光っているのか眩しすぎる位だった。


 部屋の真ん中には直径10mはあろうか、巨大な円卓が置かれている。円卓の周りには美しい彫刻が施された石造りの椅子が14脚置かれている。


 しかし、椅子に座っているのは、ガリアとリジェ、そしてドルジの3人と、見知らぬ二人の男に美しいプラチナブロンドと優しげな印象を持つ美女アルマの合計6名だ。


 二人の男の内、一人はアッシュブロンドの髪を持った甘いマスクの美男子で、ドルジ程では無いが逞しい体つきをした男だ。もう一人は赤毛のマッシュショートが似合う整った顔立ちの男だ。静かだがどこか凄みのある印象を持っていた。二人の男の瞳はアルマ同様に黄金色だ。

 円卓の椅子に座っている6人以外に、アッシュブロンドの美男子の背後に立つアリエッタの姿も有った。


 椅子に座る6人は全員がローブと紋様が刻まれた金属製の胸当てを装着している。


 円形の部屋に入った瞬間、カナメは自身の体を発光させ、皆と同じくローブ姿となった。


 「アレ、此れだけ? 随分少ないね、ウォルス」

 「ああ、今日は元より現場組だけの心算だったからね。急だったから集まったのは12騎士長としては7人と、アリエッタを入れて8人だ」


 ロティの問い掛けにウォルスと呼ばれたアッシュブロンドの美男子が答えた。そしてそのまま言葉を繋げる。



 「それでは始めよう、円卓の議を」



 始まった円卓会議で、早速リジェはあくびをして足をプラプラさせ、ガリアに窘められている。良く有る事なのかそれ以上は誰一人として注意しない。議事はウォルスと呼ばれた男が進めている。


 「其れでは現状の整理を行う為に各位、報告を頼む」


 そう言ったウォルスにアルマが答える。


 「では、私からね。皆も気になるでしょうし……まずアガルティアと共に凍結して長らく眠っていた民達だけど、皆の尽力も有って全員覚醒には問題ない所までは回復したわ。

 だけど、民の回復に全力を注いじゃってアガルティアの機能復旧を後回しにしちゃったから急に全員を覚醒させる訳にはいかなくてね……今の所、アガルティアの防衛を重視して騎士を中心に覚醒させている状況よ」

 

 アルマの連絡にウォルスが応える。


 「民を守る事はお館様の最優先指示だった。有難うアルマ、大変だろうが引き続き頼む。次にルクート、アガルティアの復興はどうだ?」



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