120)修一の素質
急に現れたカナメに男は驚き、カナメの棒で強打した為か、右腕を押さえながらよろめいて後ろに下がり汚らしく叫ぶ。
「痛てぇ! な、何だこのガキ!!」
「……これ以上……僕に、醜いモノを見せるな…………潰すぞ」
「か、カナメ?」
カナメは声を低くして男を静かに見据える。晴菜はいつもと全く様子の違うカナメの様子に驚きを隠せない。
「いい加減にするんだ」
そんな声がして其処に居た全員が振り返ると修一(体は玲人)が立っていた。修一の目はガラの悪い3人の男達に向いている。そして晴菜達を庇う様に晴菜とカナメの前に立った。
「この子達は玲人の友人だ。手を出さないでくれ」
修一は静かに3人組に話す。しかし彼らは聞く耳を持たず怒り狂って修一に襲い掛かった。
「ウラァ!!」
晴菜に絡んだ男が、修一(体は玲人)の胸倉をいきなり掴み殴り掛かろうとした。
しかし修一は玲人が会得している軍隊式格闘術の記憶を呼び起こし、掴み掛かった男の腕を、逆に右腕で絡めとり、男を前のめりにさせた。そして左手に予め生み出していた力場を込めた透明な球体を生み出して男の胸に押し込んだ。
“ギュン”
そんな音と共に力場により押された男は、遥か後方に吹っ飛んで行き……
“ガスン!”
大きな音を立てて、背後の木に激突しそのまま白目を向いて気絶した。
「「「…………」」」
後方に吹っ飛んだ仲間を見て、他の男達は沈黙して黙り込んだ。その沈黙を破る軽やかな少女の声がする。
「アラアラ、ピンボールみたいに飛んで行ったわねー……ククク、笑えたわ」
「こ、小春?」
早苗(体は小春)の嘲りの声に晴菜は驚く。小晴には全く似合わない言葉使いだからだ。
「早苗姉さん、此処は僕に任せて」
「うん! 分った。今日は修君に守って貰うわ!」
そう言って早苗はウキウキしている。残された二人など、はなから眼中に無い様子だ。
漸く仲間の事を思い出し、二人の男は修一に襲い掛かって来た。しかも今度は分が悪いと思った為か、懐からナイフを取り出して構える。
「野郎……唯で済むと負うなよ……」
男の一人はナイフを構え、迫るが修一は全く恐れていない。
修一自身は護身術の経験は無かったが、玲人の記憶と鍛え抜かれた玲人の肉体が有り、目の前のナイフを持っただけの素人など恐れるに足りなかった。それに修一は玲人よりある優れた素質が有った。それはアーガルムとして意志顕現力を扱う素質だ。
ナイフを持った男が修一に迫る。
「死に晒せ!!」
男は素人らしく、叫びながら何も考えずにナイフを振りかぶってくる。修一はナイフを手に掴む事も避ける事も無く、ただ見つめて意識を送った。すると……
ナイフが一瞬白色に光り……
“チュイン!”
そんな音と共にナイフの刃先が突然赤熱し溶けだした。
「ああ! 熱い!!」
男は自分が振りかぶったナイフが突然高熱を生じてた為、掴んでいたナイフを大慌てで離した。しかし一瞬とはいえ高熱を持ったナイフを握った為、右手を火傷した様だ。
男が右手を押さえて屈んだ所に、修一は油断なく男の体にそっと右手を添えた。 すると、男の体は重さを失った様に、修一の右手に張り付き、そして軽く持ち上げられた。
「な、ななんだ! おろして、おろしてくれ!」
シュールだがビーチボールを持つ様に修一の右手に男が張り付いている状況だ。
修一は特に重さを感じていない様で、軽くフリースローを決める様に男を5mほど先に有る神社の裏庭にある池に男を投げ込んでやった。
“バッシャーン!”
右手の火傷を気に掛けた修一の優しさだった。男は池で這いつくばってヒィヒィ言いながら右手を水に着けている。
一人残った残った男はというと……
「……う、ううううわぁー!!」
悲鳴を上げながら、この場から逃げ出そうとした。 しかし、逃げる男の前に腕組みした早苗が立ち塞がり、そして片足のつま先をチョンと地面にタップをした。
すると……
“ボコオォン!!”
そんな音と共に男の真下地面に大穴が開き、男はその穴に足から落ちて下半身が埋まり動けなくなった。
「どどどうなってんだ! だ、誰か、助けてくれ!!」
男の必死な叫びに早苗は嘲笑を浮かべながら男を嘲る。
「アレアレ? さっきの地震で穴が開いてたのかな? ククク、まさか貴方の足元だけに開くなんて、なんて間抜けなコントなのかしら。
……ねぇ其処の君? こいつ等に酷い目に遭わされたみたいだけど……どうしたい? 目とか鼻にコレとか思いっ切り突っ込んでみる? ヒゲのオジサンみたいに何か飛び出すかもね……アハハハ!!」
早苗は、笑いながらそう言って長さ30cm程の先端の尖った木の棒を持ち、最初にこの連中に絡まれた気の弱そうな少年を煽っている。対する少年はオドオドしながら呟くように話す。
「いい、いえ、その、結構です……」
その様子を見ていた修一は苦笑して、早苗に声を掛ける。
「困らせたらダメだよ、早苗姉さん。 君、ゴメンね? 彼女は冗談が好きなんだ……所で……其処に居るのは松江晴菜さんと、カナメ君だったね。さっきは有難うね、僕達を助けようとしてくれて」
晴菜は普段と全く違う玲人と小春の態度に戸惑って二人に問い掛ける。
「小春、と大御門君? なのよね?」
目を白黒させている晴菜に修一は苦笑して早苗に視線を送ると、早苗も何が言いたいか分った様で微笑んで頷き返す。
「ああ、ゴメンね、松江さん。今二人に替わるよ」
そう言って修一と早苗は二人とも目を瞑りゆっくりと目を開いた。そして……
「大丈夫だった!? 晴菜ちゃん!!」
早苗に替わった小春が大慌てで晴菜に駆け寄り、両手を掴んで酷く心配している。その目は既に涙目だ。
「あ、あれ? 小春が小春になった? うん? 変な事言ってるな、あたし」
「危ない事したらダメだよ! 晴菜ちゃん! あんな怖い人に立ち向かうなんて……本当に心配したよ……うぅ、グスッ」
小春は泣きながら、晴菜の両手を握り、しきりに心配している。
そんな様子の小春に安心した晴菜は笑いながら小春に言う。
「大袈裟だよ、小春! カナメが庇ってくれたから……あれ? どうしたの、カナメ。ぼぅっとして?」
晴菜がさっきから考え込んでる様子のカナメに問い掛ける。
「えっ、い、いや……ちょっとビックリしただけだよ? そう言えば君、怪我とかしていない?」
カナメは動揺を誤魔化す為に、絡まれていた少年に声を掛ける。 少年はどうにも気が弱そうで、オドオドしていた。少年に優しく話し掛けながら、カナメは内心違う事を考えていた。
(……驚いた……混ざりモノで有る筈の、カドちゃんのお父さんの方が、意志顕現力を使い熟している……初めの力場の球体はカドちゃんでは作った事が無い。
カドちゃんの場合、今の所は物体を投付けるか自分に付加するだけだ……ナイフを溶かしたのは、鉄分子を直接振動させたと思うけど、その驚くのはその速度だ。一瞬で鉄の融解温度まで上げるには精緻な制御がいる。
池に男を放り投げた時も、ただ投げるのでは無くあの男がダメージを受けない様に自在に重力をコントロールしていた。
それに“器”の方のカドちゃんのお母さんも混ざりモノで唯の不純物だった筈。其れがあんなに簡単に地形操作するとは……念の為、“皆”に報告するか……)
カナメはその様に修一と早苗の能力の発動について自分の考えを纏めた。
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